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その2 違和感の正体

朝食を済ませた俺は、食堂に来ていた子供らを順番に可愛がった。

去年に生まれた子らは、皆一歳を過ぎて、つかまり立ちから独り歩きができるようになり、特にカレンの産んだ虎柄の子は、もう相当な速さで走り回って周囲を驚かせた。流石に獣人族は、小さな頃から身体能力が高いものだ。


その前に三人の嫁が産んでくれた子らは、三歳を過ぎて体重も増え、俺と何とか会話ができるようになって、これは子育てが断然面白くなってきたところだ。カレンの双子カルクとカミラは特に体格が良く、ウォーゼルの子らに跨って一緒に遊ぶのが大好きだ。


そうそう飛竜の子らは、成長がとても速い。卵で生まれる彼らは、グングンと大きくなる。ウォーゼル夫婦の最初の三匹の子らは、俺の子たちより三つ年上で、もう親の半分ほどの長さになり、学校で人族の子供と一緒に学んでいる。


俺のこの里での最初の子、サナエが産んだカズラは、母親に魔力がないためだろう、今のところ魔法の才能が見いだせない。俺の遺伝子も受けついているのだから、訓練次第で魔法に開眼するのかもしれない。

サナエがこの子を治療士にしたがっているので、回復魔法が少しでも使えればと俺も期待している。まあ、本人が望めばの話だ、


対して、クレアが産んだ最初の子ワタルは、もちろん訓練次第なのだが、その手を取れば魔力の通りが良いのに驚かされる。これは去年生まれたクレアの長女サホも、同様だ。


何せ、賢者である俺の遺伝子と、魔王国で一番の魔力を誇る美しくも恐ろしい王妃様に次ぐクレアの遺伝子との掛け合わせだ。魔素の汲み上げ能力も、細胞内小器官オルガネラに依存する母系遺伝なので、これは期待ができると言うものだ。治療士としては勿論のこと、魔力を生かして魔族の中でも暮らしていけるのだろう。まあ、これも本人が望めばの話だ、


ふと見れば、サナエが去年産んだタケルに乳を与えながら、横に座ったクレアと何やら話し込んでいた。

俺の三人の嫁は、とても仲がいい。サナエは他の二人とは一つ年上で、仕事が出来る女だ。しっかりした性格で、ここでは先輩格で二人の姉気取りでいる。だが、実は裏で周到に画策する策士はクレアだ。そしてカレンは、良くも悪しくも脳筋の努力家で、クレアの近衛騎士にして一緒に育った大親友であり、今ではサナエにも良く従ってくれている。


サナエが赤子に乳をやる情景をしばしでる。母が乳を含ませる光景は、女性の尊さの象徴である。

そして俺は自室に入った。治療院の仕事の前に、各地との定時連絡があるのだ。壁のボットをディスプレイにして、まずはタローと協議する。


タローがマッピングしてくれていた周辺の群竜のコロニーには、その後は目立った動きはない。山崩れでそれまでの居場所を失い、魔素を求めて相変異したいくつかの集団も、ある程度の魔素濃度を持つ場所に落ち着いたようだ。


恐らくは、魔素を噴き出す火山の火口付近や、温泉が湧く場所につどっているのだろう。今のところ実害はなさそうだが、今後とも魔王国のキラ侯爵や、南の魔族の里のウィルとは、情報の共有化が必要だ。


次いで、魔王国のキラのオヤジと繋いだ。

ホム爺がギランとキラ侯爵に贈った魔動機は、俺が貸してやった小型ボットを取り込んで、一体化を成し遂げた。既にタローが遠隔操縦リモートできるようになっている。

ウィルに無理強いされたが、ボットを介してキラや息子のギランともこうしてやり取りできるようになったから、貴重な小型ボットを一機減らした意義はあったと言うことにしておこう。


「ジローに教わった通り、サワダ商会から世話してもらった屑穀物を食べさせたところ、群竜は目に見えて太りはじめました。今では、雌が数日に一個は無精卵を産むようになりました。」ギランが、さも楽しそうに伝えてよこした。


「食べてみたのか?」俺も、興味津々だ。生き物係だからな。

「はい、まだ少し臭みがあります。でも当初に比べると随分美味しくなったので、もう少ししたらストレージからお送りできると思います。」

「そうか、タダシにも伝えておくよ。」なるほど、それは楽しみだ。いずれ、群竜の卵は魔王国のキラ侯爵領特産になるかもしれないな。


皆との通信を切って、一息ついたところに、扉にノックがあった。入ってきたのはクレアだった。

俺の前に立つクレアは、いつもと何かが違う。今日は一段と綺麗に見えた、いや、いつも美しい嫁なのだが。二人目の子を産んで、最近では少しふくよかになり、母としての自信と威厳のようなものが備わってきたようだ。


「旦那様、私 三人目を身籠りました。」クレアは、そう言って俺を見つめてきた。俺は近寄って、嫁を柔らかく抱きしめる。

「そうか、また苦労を掛けるな。大事にしてくれ。」俺は、いとしい嫁の頭を撫ぜた。腕の中のクレアに、またもや俺はいつもとは違う何かを感じた。


 ◇ ◇ ◇


治療院が開院した。今日は、患者が多い日だ。治療師は俺とクレアの二人、患者は順番に呼ばれては、俺かクレアが、空いた都度に対処していく。クレアの横にはボットが置いてあり、クレアの診断を必要ならばタローが助言する。そして、難しい症例の患者は、俺のところに回ってくる仕組みになっている。


今日のクレアの回復魔法は、横で見ていても切れがいい。発動が早く、その発現も確かで、症状の軽い患者を次々に癒していく。こいつ、また腕を上げたのか。俺は舌を巻いた。


クレアは、そもそも強力な魔導士だった。人族の治療には、魔族が馴染んだ闇属性ではなく、光属性の相性がいい。クレアには苦手だった光属性だが、最近では闇属性と変わらぬ威力で駆使できるようになっていた。


確か、最初の俺の子を身籠ったのが、光属性を体得したきっかけだったよな。と思い出して俺はひらめいた。三番目の子を妊娠した事で、また光属性が深まったのか? これがクレアに感じた違和感の正体だったのかもしれない。

(続く)

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