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その4 ギラン牧場

俺はタダシを横に置いて、搭載艇の中で群竜の遺伝子分析を続けている。

「ジロー、ウィルが話したいそうだ。繋ぐぞ!」タローが、正面のディスプレイを切り替えた。画面にはウィルの隣にギランが、そしてその後ろにはニコニコと微笑むホム爺とホムがいた。こいつら、笑い顔まで瓜二つだ。


「ジローの兄貴、いま俺は魔王国に来ている。ギランのために、例の群竜を乗せてきて、引き渡すところだ。兄貴も来られないか?」

「父の了解を得ましたので、侯爵領の片隅に試験牧場を開きます。ジロー様も、是非お越しください。」ギランが笑いかけてきた。


ふーん、たまたま今はヒマな俺だ。

「タダシ、お前の父のかたきだが、また見に行くか?」と聞いてみたら、すぐに「はい!」の返事が来た。


念の為に、治療院で働いているサナエとクレアを誘ってみたが、二人とも行かないと言う。カレンは学校にいるが、行くとは言わないだろうな。群竜を見ても、生物学的な興味は湧かないだろう。獲物としては別だけどね。


 ◇ ◇ ◇


納屋から搭載艇で飛び出して、俺たちはあっという間にキラ侯爵領までやってきた。魔人号が着陸しているのが見えたので、その横に船を並べる。


「これが、移動型から本来の姿に戻りつつある群竜か。」タダシは、そう言ってのんびりと草を食み、今は完全に緑色に変じた竜を、じっと見つめていた。


「飼育されるうちに、どのように変わっていくのでしょう。本当に食用になるのでしょうか。とても興味があります。ギラン様、僕ここに通わせてもらってもいいですか?」

「歓迎するよ、一緒に観察しようじゃないか。」

ギランもタダシも生き物好きで、気が合うな。タダシには、学校の仕事をして欲しいが、まあ若いうちは何でもやってみることだ。


「ジローの兄貴、頼みがある。」ウィルは、そう言って親父譲りの大きな目玉でぎろりと俺を睨む。「ホム爺が、魔人の里に残された別な魔動機をギランに使わせてもいい、と言っている。群竜の運搬用にな、そこでだな、」


あっ、俺をここに呼んだのは、それが目的か。まんまと誘い出されてしまった。

「ボットが欲しいんだな!」

「そうだ。魔動機を動かすだけじゃないぞ、ギランのところにボットがあれば、今後も兄貴や俺との連絡に便利だろ。」


「キラ家のホムが動かせばいいだろ。」

「ホムには、いろいろ仕事がある。ギランの執事役だが、いつも一緒と言うわけにはいかないのさ。」

やれやれ、やられたな。まあ仕方がないか。


「もう一つ、頼みがある。」

「今度は、何だ?」

「兄貴のストレージ、ギランにも使えるようにしてくれないか? ボットと違って、減るもんじゃあないだろ。 俺も、群竜の卵とやらを、食べてみたいんだ。」


ずうずうしいこの弟分には、かなわんな。俺は、スマホでギランの写真を撮って、新規登録をする羽目になった。

「ギラン殿、竜の卵が食えそうなら、俺にもお願いしますね。」と頼むのを、俺は忘れなかった。


「それとな、兄貴。」

「何だ? まだあるのか?」

「いやいや、今度は頼み事じゃあなくって相談だ。兄貴の住む里にも、家畜はいるよな?」

「そうだな、街の周辺ではいろいろな家畜が飼われているな。」


「ギランの魔王国には、家畜はいないそうだ。俺の里にはいくつかの牧場があるが、ここからは遠い。兄貴の里のほうがここから近いから、ギランが群竜を飼う参考に、どこか紹介してもらえないか。」


するとタダシが発言した。「それならギラン様、動物好きの僕の姉が住み込みで働かせてもらっている牧場が、郊外にあります。鶏も山羊も飼っていたはずですから、ご紹介できますよ。」


「おお、それは有難い。私も動物は好きなのだが、今まで剣と魔法の修行に明け暮れて、生き物を飼ったことはないのだ。」ギランは大喜びだ。

そうだよな、やがては父から継承する魔王国の護国卿として、ギランには大任がある。牧場なんか、やってていいの?


 ◇ ◇ ◇


そんなわけで数日後、新しく使用を許された魔動機に乗って、ギランがやってきた。サホロの街の郊外まで歩いてきた俺とタダシは、ここでギランと待ち合わせだ。


あの後でタローは、魔人の里に向けて小型ボットを一機飛ばした。魔人の里では、ボットと魔動機のナノマシンが互いのI/Oを繋げて、魔動機はボット経由でタローが動かせるようになっていた。


「ジロー様、今日は楽しみに参りました。」

「そろそろ、ジローでいいぞ。俺も、ギランと呼ばせてもらおう。」

「それは光栄です。賢者ジロー様と友達付き合いとは、嬉しい限り。」

まあ、年恰好では同じぐらいに見えるのだから、(はた)で違和感はあるまい。


「では、改めてギラン。タダシの姉を紹介しよう。」俺とタダシはギランの乗ってきた魔動機に同乗して、近所にある牧場を訪ねたのだった。

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