表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/78

その2 飼育実験

タローが見つけてくれた、小規模な群竜の集団コロニー

ここは、ウィルの治める南の里近くの山中だ。温泉が湧いているので、僅かな魔素が噴き出ているのだろう。数十頭の群竜が集い、ときおりギャオギャオと鳴き交わしている。


黒いウロコに覆われて、同じような背格好。例によって見分けはつかないのだが、こいつらは先日戦った奴らよりおとなしい。あまり狂暴性を感じないのだ。


今回の実験には、俺とウィル族長、その弟分でキラ侯爵の息子ギラン、彼の執事を自任するホムが同行している。群竜の上空に浮かべた俺の船、操縦室は広くはないがもう一人乗れるので、俺はタダシを同行させていた。


「では、ボットを出すぞ。」タローが船の後ろから、小型の探査ボットをポンと射出した。ボットは、群竜の頭上 数メートルで停止する。

「融合炉のプラズマ温度を下げるぞ。」

さあ、いよいよ実験の開始だ。


するとウィルとギランとホムが、顔を合わせて頷いた。人族の俺とタダシには感知できない魔素がボットから放出され、彼らはそれを肌で受け止めているのだ。


群竜共の動きが、徐々に緩慢になってきた。鳴き交わす声も、聞こえなくなった。

しばらく観測するうちに、彼らは歩き回るのをやめて寝そべり、日向(ひなた)ぼっこを始めたようだ。


「ジローの生き物係としての直感は、どうやら正しいようだ。」タローは、そう言うと、「地上に降りてみよう。」と提案してきた。

「そうだな、今のところ危険は感じない。」だが、念の為に剣は装備しておこうぜ。


 ◇ ◇ ◇


ゆったりと日光浴を楽しみ、のんびりと草を食む群竜。これが草食変温動物の、本来の姿だよな。ウィルが魂消たまげた顔をしていた。

「これが、俺たちが戦った群竜か? なんだか穏やかだし、体色も違ってきたみたいだな。」


タダシは険しい顔だ。お前の父の(かたき)だもんな。だけど、俺たちが相手にした群竜は、もっと猛々しく攻撃的だった。

「目の光が消えたな、明らかに攻撃性を失っている。」ギランの観察に、タダシが頷いている。ギランも生き物を見る目はあるようだ。


「ギラン様、体色が変わってきましたね。」真剣な眼のタダシ。

今の群竜は、濃い緑色だ。先ほどまでは、真っ黒と言っていい色だった。

「多分、これが本来の姿だ。昔、魔人が家畜として飼っていた、おとなしい草食動物の群竜の色だ。」俺の説明に、ギランも頷く。


「ウィル、撫ぜてみろ。」

「えっ、嫌だよ兄貴! 手を噛まれるぜ。」ウィルが拒むのを見て、ギランが前に出た。

「では、私が。」ギランは手を伸ばして、ごつごつした群竜の頭をそっと撫ぜた。

群竜は、撫でられるがままだ。ギラン、こいつなかなかキモが太い。そして、生き物が好きみたいだな。


よし、ここでもう一つ実験だ。

「ギラン殿、魔人の加護のスライムを召喚できるか?」

「はい、できます。」

「では皆んな、群竜を遠巻きにして、離れてくれ。」そう言って、皆を遠ざけた俺は「タロー、頼む。」ボットからの魔素生成を止めさせたのだ。


見守るうちに、徐々に群竜の態度が荒々しくなってきた。ギャウギャウと鳴き始め、眼の光が強まってくる。


「ギラン殿、召喚を頼みます。」

ギランが印を結ぶと、そこに現れたのは鉄の光沢を持ち、光を乱反射してプルプルと輝く巨大な銀色のスライムだ。その体内には、沸騰する膨大な魔素を抱えている。そして効果はてきめんだった。群竜は、たちまち落ち着きを取り戻したのだ。


「ギラン殿、このスライムを置いておくには、どのくらい魔力が必要ですか?」

「そうですね。いつでも動かせるように維持するには、かなりの魔素を食われます。ただ、ここで放してしまうのであれば、魔力を切れば済むことです。こいつはどこにも行きません。」


「放したスライムを送還するときは?」

「もう一度、魔力で接触してから送り返せばよいのです。」

「なるほど、ではここでスライムを放してあげてください。」

「分かりました。」ギランは結んでいた印を切ると、フウとため息をついた。


「ギラン、お前はこいつを召喚できたのかよ。」ウィルが驚いている。彼にとっては、十年以上も前に、魔人のダンジョンで出会って以来だものな。

「ウィル兄貴こそ、こいつを知っているのか?」

「ああ、まだ俺がガキの頃、ジローの兄貴と潜ったダンジョンでな。」


ここで、ギランに仕えるホムが語り始めた。

「このスライムを、古くは竜の見張り(リザードワッチ)と呼ぶのが、ようやく納得がいきました。この者の本来の役割は、まさにこれだったのですなぁ。」


そう、魔人がこいつをダンジョンにえて、階段の愚者(スケアクロウ)と呼ぶ前に、このスライムの本来の仕事は、家畜化した群竜の守り役(もりやく)だったのだ。


「ああ、ホムがその名を教えてくれたので、気がついた。群竜は魔素を求めて群がる、そして魔素を浴びている分には従順な動物なんだよ。」俺は種明かしをしてやった。

(続く)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ