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その5 護国卿の活躍

意識が戻った俺は、搭載艇のベッドに寝かされていた。

クールツ団長、ハンネス副長、そしてキラのオヤジが心配そうな顔をして、俺を覗き込んでいる。


「助けてもらったみたいだな。」俺は、頭の中でタローに礼を言った。

「いったい、あれは何だ。剣で切りかかる事もできなかったぞ。」

「お前を昏倒させてから、唐突に姿を消すところはキュベレに似ていた。」

「では超種族の一人だというのか。」

「判らん。情報が不足している。」


俺は、なんとか上半身を起こした。「私の分隊は、どうなりました。」

「ジロー先生が離脱したので、皆は一時 戦線から後退させました。」クールツ団長が答えてくれた。

「では、俺は戻らないと、」立ち上がろうとしたが、情けないことに(ひざ)が砕けて、俺はフニャフニャとベッドに座り込む。


「無理をしてはいかん、お前は死にかけたのだぞ。」タローが、三人にも分かるように制御室に声を響かせた。

「ここは、私の出番ですな。クールツ殿、私にゴーレムを使わせて下され。」キラのオヤジが、一歩前に出た。


「ゴーレムって、今はギランが召喚しているじゃないか。」と俺が言うと、

「あれは息子のゴーレムですな、私には私の可愛いゴーレムがおるのです。息子には、見本を示してやりませんと。」とキラのオヤジは、鼻息が荒い。あのゴーレム、可愛いのか?


キラのオヤジは、クールツ団長の許可を得ると、(いん)を結び始めた。魔人の加護、歴代の護国卿が継承する魔族の守りの奥義。この上空からでも、ゴーレムを召喚できるのね。見直したぞ、キラのオヤジ。


俺の分隊が下がり、群竜が進出しつつあるその場所に、確かにゴーレムの巨体が現れたのが見えた。大剣を振り回して、たちまち群竜を押し返し始める。


「さあ、私をあのゴーレムの後ろに降ろして下され。近くで声をかけてやりたいのです。」そう言われて、タローは搭載艇を着陸させると、張り切るキラのオヤジを地面に降ろしてやった。

キラのオヤジも、戦いに生きる魔族だった。王族の血を引く護国卿、決して弱くはない。ようやく前線に身を置けたキラの顔は、興奮で上気していた。


二匹目のゴーレム召喚を見て、俺の分隊の騎士たち、そしてウォーゼルとオーレス皇子も前線に復帰した。もう、この形勢は揺るがない。前後左右から、群竜は着実に殲滅されていくのみだった。


そして俺は、脱力した体を呪いながら、操縦室の画面(ディスプレイ)から戦況を見守っている。こんな形で戦線離脱とは、何とも情けない。キラのオヤジよ、俺に代わって存分に暴れちゃって下さい!


 ◇ ◇ ◇


見渡せば、地上には群竜がただ一匹残っていた。これは距離から見て、ゲルタン分隊の獲物だな。上空に浮かぶボットも、手を出す気がないようだ。

ゲルタンが、隣にいた短槍の騎士に目配せして前に出る。そして騎士も続いた。


ゲルタンは、フレイムソードから火球を飛ばして竜を威嚇し、走り込む。

竜がガオと吠えて頭を上げたその転瞬、ゲルタンが右に身を流して陽動(フェイント)を仕掛ける。そしてゲルタンの影から飛び出た騎士が、竜の大きく開かれた口に、短槍をえいと突き入れた。柔らかな口の中から頭蓋の奥の脳髄までを(つらぬ)かれ、竜は体を痙攣けいれんさせドサリと倒れた。


若い騎士の笑顔が輝いている。

実戦は何よりの経験だ、倒せば自信もつく。ゲルタンは、自分では容易だったろう獲物を、譲って部下の経験値にしたのだ。戦場でこんな配慮ができるゲルタン兄、立派だ。


これがカレンだったら、我先に殺到して首をはねたところだよね。まあ、そこが狂暴で可愛い俺の嫁なんだけど。


「討伐完了だ、ご苦労だった。」クールツ団長の声が降り注ぐ。

死者も、重傷を負った者もいない。小さな傷を受けた騎士たちが、クレアや飛竜たち回復魔法が使える者から治療を受けていた。興奮が静まった戦場には、安堵が広がりつつある。


ゴーレムを従えたキラとギランが、共に戦果を(たた)え合っている。キラのオヤジは、息子の働きが誇らしげだ。

人族と竜騎士だけでは、こうも見事な作戦は取れなかった。護国卿の親子のみならず、強力な攻撃魔法を撃ち込める魔族との共闘があってこその、討伐戦だったのだ。


人族と魔族、互いの理解が進めば、これからの共存共栄の道は確かなものになるだろう。英断即決してくれた魔王様に、俺は心から感謝した。


それにしても、それにしても、だ。

俺を襲ったアレは何だったのだ。剣も届かず、魔法も効かず、ただ物理的な力で俺を扼殺(やくさつ)しようとした影。


いずれキュベレに問いただしてみよう。何か思い当たることがあるかも知れないと、俺は考えていた。

(群竜編 了)

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