その4 生還
個々に群竜と戦う三人の人族騎士、そしてウォーゼルとオーレス皇子に、頭上の搭載艇からハンネス副長の指示が飛んだ。「ジローの分隊、前方の敵に注意しつつ、安全圏まで後退せよ。」
ウォーゼルの頭上に急行したボットから、タローの声がした。「ジローがやられた。」
ウォーゼルが吠えた。「何だと! 群竜にやられたというのか。」あのジローが、群竜如きに後れを取るとは思えない。
「いや、別の何かの存在だ。物理攻撃も魔法も通用しない相手だった。」
「ジローは、どうした。」
「いま、私が回収している。」ジローと感覚共有しているタローは、ジローが蓄えた魔素を使ってジローの体に魔法を使わせる事ができる。たとえジローに意識がなくとも、だ。
「私の回復魔法は、必要ないか?」友の危機に動揺して、ウォーゼルはボットに向けて吠える。
「任せておけ。私とジローは特別の関係にある事は、お前も知っているだろう。目立った外傷はない、必ず助ける。」
「そうか、頼んだぞ!」
ボットでウォーゼルと会話をしながらも、タローはジロー自身の持つ魔素による風魔法を駆使して、戦場から昏睡状態のジローの体を飛翔させていた。上空に浮かぶ搭載艇に、ジローを取り込むのだ。
あの霞んだ敵の強い喉への圧迫で、気管軟骨には変形が生じていた。だが、圧迫がなくなった今、気道は確保できている。出血はない。軟骨の変形は、後で治せばよいと判断した。
タローは、ジローの脳髄付近に埋め込まれた感覚共有子機と応答支援チップを巧妙に連携操作して、ジローの横隔膜の緊張と弛緩を繰り返す。腹式呼吸をさせて肺胞のガス交換を促すとともに、心筋を刺激して心拍を起こし、強制的に血流を再開させた。
酸素濃度の高まった血液が、脳幹を巡り始める。
低酸素状態に陥って機能停止していた網様体の神経細胞が、活動を再開した。呼吸・心拍・血圧などを管理する中枢が目覚め、やがて自発的な心拍が再開した。この間、90秒あまり。
ジローの体が、上空に浮かぶ搭載艇に届く。
ハンネス副長とキラ侯爵で、ジローの体をエアロックから引き入れる。ジローは、操縦室にあるベッドに横たえられた。
タローが操縦室に声を響かせる。「ジローと私は、実は特別な繋がりがある。私は、ジローの体を操る事ができるのだ。蘇生措置を講じたので、そのうち目を覚ますだろう。心配せずに見守ってくれ。」
説明を受けた三人は、それでも深刻な顔をして、ジローの顔を見下ろしている。
しばらくしてジローが目を開け、そして大きく咳き込んだ。
(続く)




