その3 迎撃戦
戦場から、オオオッ~と鬨の声が上がった。
もちろん俺たちの分隊の騎士たちも叫んでいたが、遠くからもちゃんと聞こえるものだな。
同時に、迫る敵の中央に、大きな雷が落ち、そして火球や大岩が飛んでいく。魔族による、広域魔法攻撃が始まったのだ。吹き飛ばされて、宙に舞う群竜の影が見えはじめた。
「一人で飛び出せば、囲まれる。横一線で押すぞ。」俺は、両側に並ぶ騎士たちに声をかけて目の前の敵に迫った。
正面にいた竜が、衝撃音と共に後ろに弾き飛ばされ、その後ろの仲間を巻き添えにして薙ぎ倒される。ボットによる援護射撃だ、撃ち抜かないのは重力子ビームを絞らずに向けたのだろう。
俺たちは、倒れてうろたえる竜に殺到する。首筋を切り裂いて止めを刺すと、一斉に後ろに飛び退って身構える。これは、打ち合わせ通りだ。
両翼の分隊は、作戦当初は中に押し込む必要はない。中央のゲルタン分隊との距離は守りつつ、その間を抜かれぬように後ろに下がりながら、隙を見て敵を倒すだけで良い。後ろに下がりつつ戦うのは、正面分隊も同様だ。
敵の楔型陣形の真ん中には、広域攻撃魔法で大穴が出来つつあるのだし、その後ろからはギランの召喚した不死身のゴーレムが、その混乱に乗じてじわじわと押してくるはずだ。
何やら遠くに炎の渦が見えるのは、タローが操縦する魔人号が、奥の手「吐息の炎」で敵を蹂躙しているらしかった。
敵は、仲間の死骸を踏み越えて粛々と迫ってくる。死骸に足を取られるうえに、後ろから押し寄せてくる圧力で、こちらにまともに対峙する竜は少ない。
俺たち前衛の騎士は、隙を見て剣で切りつけ、短槍を持つ騎士は急所を突きあげ、後ろに下がる。
敵の目前に、飛竜が浮かべた障壁が不意に現れ、行く手を阻む。障壁が消えて、前のめりにたたらを踏む竜に、俺たちが襲い掛かる。
そして、リロードされた重力子ビームが、再び竜を後ろに弾き飛ばす。俺たちは、ジリジリと後退しながらも、着実に群竜の数を減らしていた。
「カレン分隊、前に出過ぎている。ゲルタン隊との距離を守りつつ、後退されたい。」上空の船から、戦況を見ているハンネス兵曹長の指示が飛んだ。
カレンの奴め、熱くなっているな。ドドンとひときわ大きな雷鳴が響いたのは、クレアが、後退するカレンたち前衛を援護したのだろう。
◇ ◇ ◇
「魔導士は、広域攻撃を収め。ここからは、各自の判断で目前の敵に当たれ!」キラのオヤジの声だけが、戦場に響き渡った。気がつけば、あれだけ賑やかだった群竜の声が静かになっている。
仲間の死骸を踏み分けて迫る群竜の数が、少なくなった。俺たち前衛が後退しながら持ちこたえているうちに、中央と後方の敵が多く数を減らしたのだ。最後の魔法攻撃の音が静まった時、俺たちの前に迫る群竜はまばらだった。
遠くの竜に、火の玉や氷の槍が飛び始めた。クレアとオーレス皇子が、個別攻撃に切り替えたのだ。彼らは、まだまだ魔法が打てる。まったく、魔族の魔素量は計り知れないな。
そして正面分隊では、アビオン皇子が青白く励起させた魔法剣を振るいだしたのが見えた。兄上にはお待ちかねの、魔法剣士の時間がきたというわけだ。
群竜の後方から、大剣を振るうゴーレムの巨体も見えてきた。一握りの、残った敵を追い散らしているようだ。ギランも、開戦当初からずっと召喚したゴーレムを操っている。あまり強そうには見えなかった彼だが、やはり魔素量が多い魔族ならではだな。
俺たち分隊の騎士も、横一線を解く。これからは個々に群竜と戦うことにした。
◇ ◇ ◇
前線がバラけた、その時だ。
俺の目前に、うすぼんやりと人型が浮かび上がった。
人の形をしているが、輪郭がぼやけていてよく判らない。こいつは何だ、敵なのか? そいつは、両手を伸ばして近づくと、物凄い力で俺を押し倒してきた。
両手が俺の首にかかる。俺は剣を振るうのだが、不思議な事にスカスカと手応えがない。奴の手は俺の首を締めあげているというのに、圧し掛かる奴を蹴飛ばそうとする俺の足は、奴の体を突き抜けてしまうのだ。
凄い力で、俺は息ができない。呼吸困難で、血中の二酸化炭素濃度が急上昇し始めたのが判る。このままではマズイ。
「ジロー、どうした!」俺と感覚共有しているタローが、俺の魔素を使って覆い被さる敵に魔法攻撃を試みたようだったが、効き目はなかった。
この態勢では、上空のボットから重力子ビームを打つことはできない。俺はたちまちのうちに窒息し、昏睡状態に陥って意識を手放した。
(続く)




