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その4 迎撃分隊

「これまでの二度の遭遇では、犠牲者が出ている。今後は死者を出さぬために、しっかりとした迎撃態勢を作りたい。」タローが続けた。


「現在の商隊護衛団、つまり数名の人族の騎士、飛竜と竜騎士に、今回は魔族を加えて一つの分隊を作る。分隊長は、戦いに慣れた竜騎士が良かろうと思う。」


「そして分隊の配置だが、敵の前面に一つ、両翼にそれぞれ一つ、そして退路を断つために敵の後ろに一つ、この四分隊で敵を囲み、殲滅(せんめつ)する作戦だ。」


「キラ侯爵とクールツ団長、そして副官のハンネス殿のお三方で、司令部を運営していただく。戦場の上空に浮かべた私の船から、総指揮をっていただこう。」


「分隊内の役割だが、騎士と竜騎士はもちろん前衛での剣技による個別攻撃だ。」

「飛竜は、前衛騎士の安全を図りつつ、支援や治癒の魔法を適時投入。必要に応じて、ブレスや肉弾戦を選択。」


「魔族は、基本的には魔導士として後衛から広域攻撃魔法を打ってもらうが、前衛の治癒を含めた支援、場合によっては魔法剣で自ら前衛に出るなど、柔軟にその場で判断してもらいたい。」


「私は、各分隊の上空に置いたボットを通じて敵の探知、司令部と各隊との連絡調整。そして、必要であれば重力子ビームでの支援を行おう。」


うーむ、完璧だぞ、タロー。群竜共には気の毒だが、これでお前たちの勝ちはない。


 ◇ ◇ ◇


「では、私がバーゼル殿と共に、正面を受け持とう。」ゲルタンが、まず名乗りを上げた。竜騎士長だし、順当なところだろうな。カレンがウズウズしているのが見えたが、クレアがカレンの腕に手を乗せて引き留めていた。


「ゲルタン、お前の隊の後衛には、私を指名してもらって良いか?」そう言ったのは、アビオン皇子おうじだ。

「願ってもない事でございます。」とゲルタンが応じたが、クレアがすかさず釘を刺した。

「兄様、まずは魔導士に専念して下さいませね。」


そう、アビオン皇子は攻撃魔法も得意だが、どちらかと言えば魔王様譲りの魔法剣士が本業なのだ。

「無論そのつもりだ。だが敵の数が減ったなら、私はゲルタンと肩を並べて戦ってみたい。」兄上、やる気満々ですね。


「退路を断つ後ろの分隊には、私をご指名ください。ゴーレムを召喚すれば、掃討そうとうは容易でしょう。」キラの息子のギランだ。

すかさずウィルが手を上げて「ならば、私がヴリルと共に加わろう。」と言った。


「ウィル兄貴、里長のくせに戦場に出るのか。また奥様に叱られるぞ。」ギランが(たしな)めたが、「なーに、俺の里を守るのだ。出なくてどうする。それに、お前だけに手柄はやらんぞ!」ガハハと豪快に笑った。


へえ、この二人はこんな関係なのか。一人っ子のウィルは、ギランを弟のように扱っているようだな。何だか、昔の俺とウィルを思い出す。


そんな具合に、分隊の構成が決まっていった。

カレンとビボウは、クレアと組んだ。俺とウォーゼルのところには、オーレス皇子が参加してくれた。オーレス皇子は、魔法剣士よりは魔導士寄りだから、助かるな。カレンと俺の分隊は、両翼を任されることになった。


「会敵は明後日の昼を想定している。皆で私の船とウィルの船に乗って移動しよう。」タローが締めくくって、これで実務会合は終了となった。


 ◇ ◇ ◇


クールツ団長とハンネス副官は、クレアや王子たちに連れられて、これから会議の報告を兼ねて魔王様への謁見が待っている。


「いよいよ魔王様とご対面か、緊張しますな。」

強面(こわもて)だが、(ふところ)が深い、話の分かる方ですから大丈夫ですよ。」俺は二人を安心させてやった。むしろ恐ろしいのは美しき王妃様だが、この二人の騎士はもう若くはないので、王妃様の毒牙にはかからないだろう。そう祈りたい。まあ、クレアがついているからな。


ウィルが、そう言えばゲルタンも、まだ群竜の実物を見たことがないのだった。

俺たちはキラのオヤジの案内で、群竜の死体を片付け中だという子爵領に向かった。護国卿の親子、ウィルとヴリル、ゲルタンとバーゼル、そして二人のホムを乗せた魔人号を、俺とカレンはそれぞれの飛竜に乗って追いかける。


ちょうど良い機会だ、俺にはどうしても確認しておきたいことがあったのだ。俺とウォーゼル、隣にはカレンを乗せたビボウ。この二人と二匹は、先日の群竜戦では共に死に物狂いで戦ったばかりだ。「お前たちには、あの時に敵の見分けがついたか?」


ウォーゼルが、笑いながら答えた。「無我夢中で暴れたので、よく覚えておらんな。しかし確かに、どれも同じに見えたかもしれん。」

ビボウも、夫の意見に同意した。そしてカレンは、無言だ。きっとお前は、敵と見れば見境みさかいなく剣を振るっていたよね、そんな気がします。


「実は、オスとメスの死体を一頭ずつ、調査のためにストレージに入れておいたのだ。あとで遺伝子を調べてみたら、この二匹は驚くほどよく似ていた。」

「同じ群れの中だ、当然ではないのか?」

「二匹だけだからな。まだ、何とも言えんのだが。」そんな事を話しているうちに、子爵領が見えてきて、俺たちは現場に舞い降りた。


地面には、まだ累々と群竜の死骸が残されており、埋設の作業が進められていた。初めて群竜の実物を見るウィルとゲルタンは、その数に圧倒されたようだ。

やはり、ここでも死んだ群竜は、皆一緒に見える。個体差がない。体の大きさも、黒いウロコの色も、全て同じだ。


「どうだ、ウォーゼル。これは俺たちが戦ったのとは、違う群れだぞ。だがやはり、同じに見えないか?」

「そうだな、区別がつかん。」


俺は死骸の片づけを手伝いながら、ウロコを十数枚サンプリングした。さっそく今日のうちに船の分析装置で調べておこう。しかし俺の中で、予感は確信に変わりつつあった。

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