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その2 魔王国へ

「魔族では、強い者が意見を通すのです。皆で考えを述べあって、合議に至る習慣はありません。お恥ずかしい限りです。」クレアが申し訳なさそうに、クールツ団長に頭を下げている。


「あの時のお父上のお話は、そう言う事だったのか。」クールツ団長も、ようやくに落ちた顔をしている。


「なーに、君主の判断で即決するのは、良い事だってあるぞ。長引く会議ほど、不毛なものはないからな。それに魔王様は、場の空気を読み、部下に対して気配りができる、立派な君主だよ。」


考えてみれば、だからこそタローは、いきなり魔王様にご登場願ったわけだ。ことは急を要する。決定権を持つ魔王様に、最初から人族との共闘を言ってもらえば、話は早い。


タローに任せて良かった。俺では、こうも鮮やかに事を進められないな。タローは、最近ますます人使いが上手くなってきたようだ。


 ◇ ◇ ◇


明日の魔王国での会議、こちらはクールツ団長、向こうはキラ侯爵がトップと言う事になる。

団長は、さっそく里長に報告に行き、会議の全権を渡されて戻ってきた。

出向くのは、団長のほか副官としてハンネス兵曹長、俺にはウォーゼル、カレンにはビボウ、ゲルタンにはバーゼルの竜騎士三組、そしてクレアに決まった。


バーゼルにも声をかけたので、俺の三人の嫁が産んだ子どもたちに加えて、飛竜の子供ら十二匹も、すべてサナエに任せざるを得なかった。そう、ウォーゼル夫婦には、去年もまた三個の卵から、可愛い子らが産まれていたのだ。


サナエは二つ返事で引き受けてくれたけれど、ウメ婆さんを始め治療院のスタッフにも手伝ってもらうにせよ、七人に十二匹の子どもの世話は大変だ。正直言って、飛竜の子等は人族から見ると見分けがつかないしね。


部下の多いクールツ団長なら、いろいろと伝手があるだろう。

この際だ、俺は相談してみた。「俺には子供が多くってね、そして嫁達は皆それぞれに仕事を持っている。治療院に住み込みで働いてもらえる家政婦を雇いたいのだが、どこかにいないものだろうか。」


「ほう、お綺麗な奥様を三人もお持ちであれば、ジロー先生も大変ですな。分かりました、心当たりがありますので、少々お時間をいただきましょう。」


◇ ◇ ◇


翌日は、幸いにして天候に恵まれた。

少々人数が多いので、搭載艇に皆を乗せるのは窮屈だ。俺はウォーゼル、カレンはビボウ、ゲルタンはバーゼルに跨って空を行くことにして、船にはクレアとクールツ団長、ハンネス副官に乗り込んでもらうことにした。


急ぐ旅ではない、午後に魔族の里に着ければ良いのだ。

ゆったりした飛竜の飛翔速度に合わせて、船は飛竜を追って飛ぶ。見下ろすと、広がる緑の大地と、真ん中に川がうねり流れる平野が美しかった。


二時間ほどで、魔族の里だ。

今回は飛竜も参加しているので、魔王城の執務室では狭すぎる。俺たちは城から程近い演舞場に案内された。そこでは、キラ侯爵とホム、そしてアビオンとオーレス、つまりクレアの兄弟の二人の皇子おうじ、そしてもう一人の見知らぬ若い魔族が出迎えてくれた。


皆で、中央に用意された円卓を囲んだ。

飛竜はとぐろを巻いてくつろぎ、その他のものは円卓を前に着席した。俺が連れてきた中型ボットには、タローの顔も写っている。


この演舞場は懐かしいな。俺とキラのオヤジが勝負したのは、もう二年も前の話だ。

「ジロー殿、ここでお手合わせをしたのが、つい昨日の事のようですな。」キラの親父が遠い目をして言った。


「私は、敗れはしましたが、あの大魔法を駆使する偉大なる人族の賢者殿に果敢に立ち向かったとして、貴族の間からも称賛の声を頂戴しました。今でも、あの戦いは我ら魔族の語り草なのですよ。」


ああ、そうなのね。俺に負けたことで、キラの親父の立場が悪くならなかったとすれば、良かったよ。きっと魔王様が、いろいろと擁護の工作をしたのだろう。俺の義理の親父殿は、気配りのできる男だからな。(続く)

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