その2 タローの進化
「その自動機械は、あの階層の施設を管理してるんだろ。タローが、それらの装置を動かすことはできるのか?」
「私は内部から見ているに過ぎないので、どのような作用をする端末が、どこに置かれ、どう繋がっているのかが判らない。いずれホム爺に聞けば、傘下の端末機器を動かす事もできそうだが、今はその必要性を感じない。」
「まあ、そうだな。あの階層で生きているのは、魔人の子らを収容したスリープ装置だけだしな。」
「ホム爺によれば、その他にダンジョンの各階を含めた照明と、空調、外部との通信機能、そして例の魔動機を飛ばす塔がアクティブらしい。」
「いつから、そんな事になっていたんだ?」
「おそらく設置から数年かかって、徐々に向こうのナノマシンが浸潤してきたはずだ。衝撃などを感じれば、ボットが目覚めるのだからな。」
「お前が認識したのは、いつなんだ?」
「お前から質問があった昨日の夜だ。お前がクレアと愛を交わしていた頃だな。」
「何故、すぐに知らせない!」
「知らせて良かったのか? お前は肉体を駆使するのに忙しそうだったのでな。」
俺は、昨夜の激しい営みを思い出して、少し赤面した。
「もはや接続している以上、急ぐ必要はなかろう。」その接続ってのは、お前と自動機械のことだよな。
「まだ、続きがある。」タローが、また喋り出した。
「私のボットが置かれている、もう一つの魔人の設備があるだろう?」
ん? 何の事だ? もしかして?
「ウィルの魔人号だ。ホム爺に確認したところ、既にこれも固着して制御部と接続が完了していた。」
「何だと! 奴らは知っていたのか?」
「ホム爺は、船内にボットを置けば、ナノマシンが同化に動き出すのを予想していたようだ。まあ、もらったも同然だし、こちらに伝えるまでもないと考えていたらしい。」
俺には、ホム爺がニヤリと笑う顔が見えるような気がした。
「あの船の制御系は、いささか単純だったので、昨夜試してみたところ私からアクセスする事ができた。つまり私があの魔人号を動かせると言う事だ。」
「これまではホム爺が操縦しなければならなかったが、これからは船内のボットに声をかければ、ウィルだけでも動かせる。ホム爺が運転手をする必要がなくなったと、喜んでいたぞ。」
「そんな事までタローが関与していては、ますますお前の負担が増すばかりだろうが。」
「それについては心配ない。ネットワーク上にある、この同化させられた二つのボットを経由して、魔人号の操縦に関するユニキャストのルーティングテーブルを構築した。」
意味が判らん。俺が理解できていないのをタローが察したようだ。
「つまり、魔人号の操縦を魔人の里にある自動機械に任せた、と言う事だ。」
そんな事ができるとは、驚きだ。
貴重な小型ボットが二機も括り付けになってしまったのは痛いが、なんだか凄いな。もっといろいろな事ができそうだが、俺には判らん。生き物係だからな。
「まあ、問題がないのなら、それでいいさ。」
「報告は以上だ。」
うーむ、タローはますます進化したと言う事か。
昔、女神のキュベレから、クラウドに置いた無制限のメモリの贈り物を得ている。あいかわらず、それがどこにあるのかは不明だが、タローによればストレスなくアクセスできていると言っていた。
そして今度は、魔人の遺産ともいうべき自動機械と図らずも接続したことで、その演算機能を手に入れたわけだ。
魔人の魔法技術によるものだから、どんな装置がどこにあるのか、どこまでの性能なのか、これも判らないが、多分タローのボットから魔素が供給され続ける限り、動作してくれるのだろう。
俺が今ここにいる時間軸は、竜に魔素を与えることで分岐したと、女神は言っていた。とすれば、この展開も女神には見えていたと言う事なのか? タローの進化のことやら、明日の群竜対処の会議やらで、俺の頭は一杯になった。
いやいや、なるようになったのだし、これからもなるようになるのだ。俺にできる事を、俺は進めよう。
夕飯までの、この貴重なひとときだ。
俺は切り替えて、これから上映する自然科学シリーズやら、学校での学習内容について、考えを練ることにした。




