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その1 未知のエンドノード

治療院での午後の診療は、患者が途切れて早仕舞いとなった。

たまには子供の世話を手伝おうと、サナエに話しかけたら邪魔者扱いされたので、俺は一人自室に戻ってきた。

では、明日の会議に備えて、夕飯までノンビリと過ごそうか。


「ジローよ、今は時間がありそうだな。」頭の中で、タローが話しかけてきた。

「ああ、ご覧の通りだよ。」

「では、お前に報告をしておこう。少し時間をくれ。」

俺の机の前に置いたボットに、タローがどこかの画像を出してきた。


これは何処どこだ? 見覚えがあるような?

今度はボットから、タローが話し始めた。「昨夜、ジローからボットの同時稼働について、聞かれていたな。」


「ああ、超並列処理パラレルプロセシングの話だな。」

「そうだ、そこで私は、改めて展開しているネットワークを点検巡回してみた。そうしたら、覚えのない一つのエンドノードを見つけた。」


「何だ、それは?」

「つまり、独立したデータ端末システムに、行き当たったということだ。」


「例の女神が用意したクラウドとやらか?」

「いや、違う。あのメモリ群ではない。これも物理的な位置は、あいかわらず未知だが、私にとってはネットワーク空間でアドレスが指定できれば問題はない。」


「じゃあ、何だよ?」ここでようやく、俺は映し出された場所に気がついた。

「これは魔人の里の中央神殿だな。」

「そうだ。ここの制御機器が、私のボットに能動的に経路接続ルーティングしてきたのが判明したのだ。」


「それって、ハックされたということか?」

「いや、違う。攻撃性はない。単に繋がっただけだ。」

「そんな事があり得るのか? 侵入されたんだろ?」

「いや、接続しただけだ。ボットを介していたせいで、私としてはトポロジーを意識せずに通信できたので、異種性に気付かなかったのだ。」


生き物係の俺には、タローが何を言っているのか判らなかったが、実害はないってことでいいのかしら。


「最初から説明しよう。私がボット群とネットワークを構築していることは、お前も知っているだろう。ボットには、小規模ながら自立稼働のための頭脳が搭載されている。これらを結んで分散システムとして処理を進めるときには、各ボットのアドレスを気にすることはない。ここまではいいかな?」

「ああ。」実は、よく判らないが、俺は次をうながした。


「あの中央神殿には、今から十五年前に小型ボットを置いた。周囲の装置群に魔素を供給するためだ。」

「そうだったな。」

「あのボットは、静止状態(スリープモード)にしてあった。この星の竜族に貸し与えたボットや、他の連絡用ボットとは違って、あの魔人の里では融合炉が動いてさえいれば良いのだからな。」

「なるほど。」


「光・音・振動などを感知して自動復帰するまでは、静止状態のままだ。内部に問題が発生すれば、内蔵されたナノマシンによる修復プログラムが発動する仕組みなのだ。」

へえ、そうなってたのか。知らなかったな。


「お前に言われて、私は全てのボットの自己診断ルーチンを起動させてみた。そうしたら、この中央神殿に置いた小型ボットが、床に固定されていることが判明した。」

「えっ、固定って? 動けないのか?」

「床に固着しているほかは、ボットの機能的には何の問題もない。」

「神殿の装置がやったのか?」

「そうだ、稼働の安定を最優先命題として設定されていたらしく、魔素を供給するボットをまず物理的に確保したのだろう。」


「そいつはAIなのか?」

「いや、意識はない。知恵はあるが意思はないと言うべきか。これはホム爺に確かめたのだが、魔人が魔力をからめて操作する、自動機械オートマタに過ぎないそうだ。あの階層に存在する、複数の機器を管理運営する用途に特化している。」


「魔素が欲しくて、お前と繋がったと。」

「正確には、私のボットと繋がったのだ。向こうにも、外部作業ができるナノマシンのような機能があったのだろう。」


「そして、融合炉を管理するボットの頭脳に触れたところで、相手がボット側の入出力を認識し、自分のそれと接続した。向こうは、とりあえず周辺機器と接触した際には、I/O(アイオー)を繋ぐのも優先命題だったようだ。」


「向こうには意図はないので、私が侵入される問題はない。そして、私から見れば、向こう側に手を伸ばせば、巨大な演算能力を手に入れたと言う事になる。」


「すると何か? いつの間にか大きな脳みそがお前にくっついて、頭が良くなっていたのに、お前は気がつかなかった、と言う事だな。」

「生き物係のジローの言い方は、実に興味深いな。まあその捉え方で間違ってはいない。」(続く)

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