その3 魔族との共闘
クールツ団長とハンネス兵曹長が、俺を見つめてきた。
「いやはや、飛竜殿の強さと、カレン殿の剣技は存じておりましたが、何とまあジロー先生も、実にお強いのですなぁ。まったく知らぬことでした。」
「旦那様は、私を降した唯一のお方です。」よせばいいのに、カレンが鼻息も荒く胸を張った。
「そして、遠くに見えたあの巨大魔法は? あれもジロー先生ですかな?」
「いやいや、俺にはあんな大魔法を、何発も続けて打てないよ。」俺はとっさに否定したが、
「まあご謙遜を! 旦那様なら私と同様におできになりますわ。」ああ、クレアさん、自分で白状してしまいましたね。
「えっ?」クールツ団長とハンネス兵曹長が、今度はクレアをまじまじと見つめた。そうだよね、こんな華奢で綺麗な治療院の女先生が、敵をバカスカ吹っ飛ばして燃やす魔法を放つだなんて、誰も思わないよね。
「ボットから、例の魔法も打ち出されていたようだな。」終始冷静に映像を見ていたゲルタンが、ここで指摘してきた。
「護衛の旅で、何度か見せてもらったことがある。ボットが魔法を放ち、魔獣が音もなく倒れるのだ。とすれば、あれはタロー殿による攻撃だったのか。」
「そう言うことだ。」ボットのタローの顔が認めた。
「今回はボットを多数展開できた、一斉射ができたので効果的だったようだな。」
「この映像を見せたのは、群竜と戦うには剣技に優れたものによる個別攻撃もさることながら、できれば飛竜による支援と、後方からの大魔法による支援とが、共に必要だと知っていただきたかったからだ。」
ここで、ハンネス兵曹長が発言した。「そもそも、今までは滅多に現れないと言われていた群竜が、どうしてあの規模で出現したのですかな。こんなことが、これからもあるのでしょうか。」
「それについては、ご報告がございます。」クレアの発言だ。俺は聞かされていたが、これで騎士団の二人に、また驚かれてしまうな。
「実はさきほど、南にある魔王国の私の父から、群竜と交戦したとの連絡があったのです。数はやはり二百体あまり、魔族にも犠牲者も出たようです。」
「何と! 魔族の里にも群竜が出たのですか。」
「そうなんだ、ハンネスさん。どうやらこれは、この辺り全域の出来事らしい。」俺はそう言って、タローに目線を流し発言を促した。
「数日前に、大きな地震があった。この近隣では、多くの場所で山崩れが起こったようだ。あの地震によって、群竜の生息地が大きな影響を受けた可能性がある。」
「住処を失って、山から下りてきたということですかな?」
「その可能性が大きい。」
「ふーむ、だとすれば、これで終わりでもなさそうですな。今後の商隊護衛にも、気を配る必要がありそうだ。」
「私から提案がある。」タローがそう言って、ボットの表面にこの付近の地図を表示した。
「地震による山崩れがあった場所は、見ての通りだ。そして商隊が奴らと遭遇した場所、魔族の王国に奴らが現れた場所は、こことここだ。」場所が二つの赤い点で示される。
「相関関係は明らかだ。そこでこの山崩れの範囲に、私がボットで探査の網をかけようと思う。奴らの体温は低いが、今回の遭遇で奴らの生体波動は記録できたから探知は可能だ。群れで行動しているのも、発見を容易にするだろう。」
「群れの位置が分かると、魔族の里でも助かります。」クレアがパッと顔を輝かせた。
「いよいよ私たち魔族が、人族と共闘できるのですね。さっそく父上に伝えてみます。」
「クレア殿の父上は、魔族の王国ではどのような位置におられるのですかな?」クールツ団長の質問は、予想通りだな。これも隠し事無しだからな、仕方がない。
「はい、魔族の王として、国を治めております。」
「何と! 魔王様とは! それではクレア殿は、王女様ということですか。魔族の地位は魔力で決まると聞きましたが、なるほどあの大魔法の連撃は、王族なればこそということですなぁ。」ハンネス兵曹長が、納得がいったのか大きく頷いている。
「王族の方々に群竜討伐を頼むわけにもいきますまいが、さぞや魔力の大きな方々なのでしょうなぁ?」
「魔力で私に匹敵するのは王妃たる母ぐらいのものですが、魔王の父も、皇子の兄と弟もそれなりに使います。討伐に呼ぶとすれば、兄と弟、そして王族に繋がる護国卿あたりでしょうか。」
おお、キラ殿か。あの憎めないオヤジと共に戦う日も近いかもな、俺は少し楽しみな気がした。(続く)