私がかつて受けた最も過酷なハラスメントについて(とその後)
お正月からこんな話題でごめんなさいまし
みなさまごきげんよう。
もしくは初めまして。くろつです。
今回のエッセイは、過去に実際あったハラスメントについてです。
これまでは慎重に避けてきた話題だったのですが、そろそろ書いてもいいかしら? と思いまして。
苦手な方はスルー推奨でお願いいたします。
◇◇◇
さて。ハラスメントにはいろいろ種類があるわけですが、今回の話は私が経験したなかでも最高レベルの一件です。
だって、法的措置取りましたもんね。
みなさまご存知? 弁護士も法律も警察も、正しい人間の味方ってわけじゃないのよ。
法律は、法律を知って使える人の味方。警察も弁護士もほぼ以下同文。
ちなみにスカッと系の話ではないため、怖い話が嫌いな人はスルー推奨。
二回言いましたけど、よござんすか? よござんすね?
では前置きもしたので、いってみましょう。
◇◇◇
端的に言うと、こういう話です。
「職場の男性上司にセクハラをされて断ったら首を絞められました」
ありえないでしょ??
なんでそうなる??
私もそう思いましたけど、世の中たまに予想外のことが起こるんですよね。
当該首絞め上司は既に後期高齢者になっておられ、問題行動も多い人でした。
初めのうちはやたらとちやほやされて、休みの日に誘われたり、わかるだろ、なっなっ、という謎言動をされたり、さみしいから俺が戻るまで帰らないで待っててくれとか言われたりしましたが、わたくし当然、丁重にやんわりと拒否。
しかし、セクハラをする人がやんわりした拒否でわかってくれるはずもなく、セクハラ言動は止むことがなく、ある日私は言いました。
「そういうの、本当にやめてもらえませんか」
その日を境にセクハラはなくなり、代わりに彼は大声で怒鳴るようになりました。
事務員は他にもいるんだ、お前じゃなくてもいいんだこのぶす、うるさいぶす、いいからお前は俺の言ったことハイハイって聞いてればいいんだ、などなど。
ちなみに彼はさぼり癖もあり、お客様から次のようなメールが来たこともあります。
「本日、お約束した通りのお時間にオフィスでお待ちしておりましたが何もご連絡も頂けない状態でお越しにならず、お電話しましたが呼び出すだけで繋がりませんでした。ビジネス上このような誠意の無い対応はいかがなものかと思います。これは一方的にご縁がなかったという意思表示と受け止めてよろしいでしょうか」
私、こういう文面ってドラマや小説の中だけかと思っていた……。
というかお客様、心底申し訳ない……。
この時の首絞め上司の台詞はこうでした。
「あーあー、わかったわかった、今向かってんだ、はいはいはい」
こうしたことは初めてではなく、平均して月に一度か二度はお客様との約束を忘れた、もしくは遅れたことでのクレームがありました。
更に言うと、彼はパソコンを使うことができません。
どの程度できないかというと、「マウスってどれかわかりますか?」と聞くと、黙って指さすことができるレベル。
左クリックは、「カチカチってして下さい」と言葉を変えて伝えてもよくわからないようでした。
お客様からのご連絡がメールで入ることも多いため、パソコンが使えないと困るんですけどね。
彼の問題行動は他にもあって、集金をしてこない(その件について質問したり追及するとキレる)。会社の備品を休日勝手に持ち出し、施工完了届を出さない(おそらくもらった謝礼を横領している。それについて追及するとやはりキレる)。仕事中に社用車で事故を起こし、保険会社からの連絡で事故現場は場外馬券場だったことが判明する(同じく追及すると以下同文)。等々……。
さて、そんな問題行動山積みの彼ですが、ある日のこと、私しか事務所にいないタイミングでなにやら足音も荒くやってきました。
「俺のメールどこにあんのよ」
どこにって……メールが来てるならパソコンにある……。
「なんで出してないのよ!」
多分ですけど、また急ぎの要件もしくはクレームのメールがあったんじゃないかと思うんです。
でもそれは今になって落ち着いて考えるからわかること。
彼は事務所入り口に置いてあったアルコール消毒のボトルを私めがけて投げつけてきました。
私はとっさに手をあげて顔をかばいます。
彼は突進してきて私を壁際に押しつけ、首を絞めてきました。
一瞬のことです。どうやってもみ合ったかは覚えていません。
当日私がつけていたネックレスがちぎれて落ちていたのと、事務所入り口のカウンターテーブルが倒れていたのと、私のシャツの襟ボタンがいくつか外れていたのと、あとは床にあおむけとうつぶせ両方で馬乗りになって押さえつけられたことを覚えています。
当然こちらも抵抗します。
はっきり覚えていませんが、最後は相手が逃げるようにして事務所から出て行ったこと、そしてあたりを見ると彼がかけていたメガネが転がっていたことから、私はかなり真剣に抵抗したと思われます。
──ここから少し端折りますね。
私は警察に被害届を出し、事情聴取を受け、整形外科にかかり、弁護士に相談し、メンタルクリニックにかかり、警察の現場検証に立ち合いました。
事件当日の夜、十二時過ぎまでかかって警察署内で打撲痕や、首まわりについた爪痕及び内出血の写真を撮ってもらいました。
相談した弁護士三人全員に、「あなたが務めていた会社は小さすぎて、訴訟に勝っても会社からお金が取れず、儲からないと思うから受けられない」という内容のことを言われました。
なので個人で入れる労働組合にすぐさま入り、これまで休日出勤していた(がなあなあになっていた)分の給与なども併せて支払ってもらうよう、代理人を通して請求しました。受理されました。
暴行を受けた際のケガについて、労災を申請しましたが、会社側は動かなかったため、自分で申請して承認されました。
会社側は頑として離職票を出そうとしなかったのですが、労災の承認が下りたため、自動的にそれも解決しました。
首絞め上司個人ではなく会社を相手取り、安全保障義務を怠ったという件で和解金が振り込まれるまで、半年ほどかかりました。
当時、結婚を視野に入れてお付き合いしていた人からは、きれいにフラれました。「警察沙汰になるようなことに関わるなんて……」だそうでした。
これら一連のことがきっかけで夜眠れなくなり、睡眠導入剤を処方してもらったのですが、それは今現在も続いています。
私ね、長年疑問に思っていたんです。
今回のケースは過去イチ過酷ですが、これまで関わった会社でも各種卑劣な嫌がらせは多かったので、そういうのがない職場はこの世のどこにもないのかなって。
セクハラもパワハラもない会社って幻想なのかなって。
でもね、違いました。ありました。
それが、今、私のいる会社。
◇◇◇
今の上司を一言でいうと。
──「進化をやめた低学年男子」です。
これは褒めてるわけでも貶してるわけでもなく、単に、職場内全員一致の事実。
「ねぇ、上司くんはいつ大人になるの?」
「なーらーなーいーの!」
この間、誰かが聞いたら本人もそう答えてましたしね。
先日彼は、付箋に一万って書いて総務の女性に渡しながら言ってました。
「これはれっきとした通貨だから。ペイペイと一緒でセブンイレブンでも使えるから。使う時はね、レジの人にブイサインを出して、イェイイェイでお願いしますって言うんだよ?」
もうね、発想が小学生男子と一緒なのよ。
いや、今の小学生男子は彼よりもうちょっと大人かもしれない。
総務の人も慣れてるから、黙ってくしゃくしゃにしてその付箋ゴミ箱に捨ててた。
今の上司に電話を取り次げば、「やだー出たくなーい」と外線ボタンを点滅させたまま放置。
いやいや、保留になってんのに。相手、待ってんのに。
初めて見た。仕事でこんなにナチュラルにやだって言う人。
「今ね俺ね、考えてるの。どうやったら年末調整をやらずに済むかどうか」
むりだから。
てか、仕事したくないって言っていいんだ、職場で……。
「あのねミュージシャンの喉はね、消耗品だから。無闇に声は出せないの。わかる?」
「いいからさっさと出ろ、毎回毎回うっとうしい」
女性陣に叱られて、ようやくしぶしぶ電話をとるありさま。
いえ、正確に言うと、それでも電話をとろうとせず、ねえ、電話だって。ねえ電話だよ。と他の人に取るよう促し、それを無視されようやく自分で受話器をとる。
わあ、こんな上司いるんだあ。とはじめは珍しく眺めておりました。
蛍光灯を取り換えるために重い腰をあげれば、蛍光灯をマイクスタンドに見立てて、「せっかくだから歌でも歌う?」と机の上でポーズをとり、
「ばっかじゃないのー」
「マジでウザいんだけど」
「早くやることやってくれる?」
職場とは思えないエッジの効いたやりとりに、初めのうちは笑っていいのかどうかわからなかったんですけど、しばらく観察していてわかったんです。
上司が、わざとくだらないことを言ってるということに。
というのは、今の会社はかなり仕事量が多く、経験値と知識量と判断の早さが求められる業務で、さらに日々時間との戦いでもあるため、もしも彼が普通の上司だったなら、周囲の人間は常に無言でピリピリしたまま仕事をしてるんじゃないかと思うんです。
おそらく彼はそこをわかったうえで、敢えて、道化役をやっている。
わざと、突っ込まれるようなことを言って場を和ませている。
それにしても、もうちょっとタイミング読めよとか、電話には出ろとか、思わないでもないですけども。
先日は、詰め替え式テープのりの容器を分解し、アムロ行きます! とか聞こえるように言いながらガシャガシャ机を歩かせてました。
ええ、もちろん仕事中に。
自分の机の上だけでは飽き足らず、よその机にまで遠征してきてガシャガシャいわせはじめたため、当然、女性陣から集中砲火。
「うるさい。自分の机から出てくんなって言ったでしょっ」
「誰がこっち側にきていいって言ったわけ?」
でもこの頃になると、だんだん私もわかってきたんです。これ、わざと言わせて周囲にガス抜きさせようとしているんです。……多分。
「ねえ新しく入った人にさあ、誤解されそうだからさあ。俺の威厳ってものを取り戻そうかと思うんだけど、どうしたらいい?」
古参の女性は持ってたカッターの刃をカチカチ言わせて言いました。
「大人しく仕事してな。頭の皮はぐよ」
彼はそれでも自作ガンダム遊びをやめないため、裏紙を丸めてくしゃくしゃにしたものを投げつけられておりました。
「みんなさ、俺の魅力がまだわかってないんだよなー。天才とは常に理解されないもの……」
それでもまだ、ぶつぶつ言ってましたけど。
「上司くん、電話だよ!」
「えぇー、若くてかわいい人だった? だったら出てあげないこともない」
「最低だね」
「ねえ若かった? かわいかった?」
「いいからさっさと出ろ」
「何度も言ってるでしょ? 俺はミュージシャンだから喉は大事に」
上司、うるさいです。
って私が言い返すようになるまで、あともうちょっと。




