表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君は君で私は私  作者: 湊(みなと)
4/4

中学生のわたしたちへ③卒業


歩空と毎日LINEのやりとりを始めてからは、

お互いがお互いを意識するような存在になっていたのだと思う。


中学3年生の私たちは隣のクラスだった。

体育の授業がある事をすっかり忘れていた私は、

同じテニス部員の子に体操着を借りに行こうと、

歩空と同じクラスの女の子にお願いをしにいった。


教室を覗くとそこには彼の姿があった。


彼の席は、教室のドアを開けるとすぐに目に飛び込んでくる前方にある角の席だった。


その時ふと、視線がぶつかった。


胸の鼓動が速くなるのが自分自身でも分かった。

恥ずかしいと感じた私は、慌てて目をそらしてしまった。


でもあの時は、きっと彼も同じ気持ちで、すぐにわたしから目をそらしていたのではないかと思う。


急いで友達に体操着を借りて教室を出る時、

彼はクラスの中心にいて、友達ととても楽しそうに笑顔でお喋りをしていた。


私は気がつけば「かわいいなぁ」と誰にも聞かれることのない小さな声で呟いていた。


彼の顔を見た日は、大好きな学校も早く終われ!

と思う様になり、私たちはLINEというアプリよって

「2人だけの時間」を共有していたのだ。


受験勉強と同時進行で秋に開催される一年に一度の合唱コンクールがせまっていた。


私のクラスは、他のクラスよりも学校行事に対して、

一人一人の意識がとても高く「金賞は絶対!」と

いう担任の先生の言葉をモットーに行事には真剣に向き合っている為、今回の合唱コンクールも金賞を目指していた。


この日も金賞を取るために他のクラス子達よりも朝早く登校をし、

ソプラノとアルトは階段、テノールとバスは教室と音が混じらないように朝練習をしていた。


普段から発するわたしの声は、

中学生の女の子にしては少し低めだった。

昔から「声低いよね、ハスキーボイス?」などを言われたことがある程だった。


音楽の先生に「麦ちゃんはアルトだね」と言われたので、私は階段で練習をしていた。


キーンコーンカーンコーン


1時間目の授業が理科で実験室に移動だった為、急いで歌の練習を切り上げて教室を出たとき、

「危ない!」階段から駆け上がってきた男の子とぶつかりそうになった。

恐怖で目を閉じてしまった私は、

恐る恐る目を開けるとそこには彼の姿があった。


エナメルカバンを背負い、少し寝癖のついた栗色のサラサラな髪の毛。


「ごめん」彼は慌てた様子で自分の教室へと入っていった。


「大丈夫!?怪我してない?」彼女の声で我に返った。


「ほんと危ないよね」すぐに彼女に言い返したのに、

どこかで少し、彼に近づいていく距離を感じていた。


学校が終わり、真っ直ぐ家に帰った。

iPadを開け歩空にメッセージをうつ。

「もしかして、今日学校遅刻?」

わたしは階段での出来事を思い出して、トーク画面を開けっぱなしにしていたら、すぐに既読がついた。


「毎晩誰かさんとLINEしてるから寝る時間が遅くなって朝が起きれん…」と。


きっとこの時の私はニヤニヤと言ってもいいほど、

口角が上がっていたと思う。


彼の言う「誰かさん」が自分の事だと分かっていたから。


私たちは、高校受験を控えている学生とは思えないほど、毎晩深夜まで変わらずLINEのやり取りを続けていた。


合唱コンクールも無事に終わり、学校行事が残すは卒業式だけとなった。


努力の賜物が先生方に通じたのだろう。

三年四組、私のクラスが金賞を獲った。


金賞発表の時はクラスの仲間と手を繋ぎ、みんなで涙した事、本当に頑張って良かったと心から思えた。


この時、努力をすれば結果は後からついてくるけれど、結果までの過程がいかに大切で素敵なものだったのかを知った。


そして、最後の卒業式練習の日を迎えた。


総勢二百人弱ぐらい在籍していたであろう私達の学年は、狭い体育館の舞台いっぱいいっぱいに広がっていた。


在校生から卒業生に贈られる素敵な言葉の数々が詰まった送辞、先生方の出し物に皆が涙していたと思う。


明日、卒業。


今この体育館には全校生徒と先生方も含め、八百人弱ぐらいの人がいる。

明日が終われば、この学校で彼の笑顔を見る事はできなくなる。

そう想った時、彼の姿が見え、目が合った。


こんなにも大勢の人がいるのに、体育館にはまるで私たち二人しかいないような世界の感覚を覚えた。


彼から目がそらせない。


この時、「好きだ」と思った。


練習も終わり家に帰ってもまだ、彼のことが頭から消えなかった。


いつものように彼にメッセージを送る。

「明日の卒業式、写真撮ろうね」すぐに既読がつき、

彼から「もちろん。寂しくなるね」と

返ってきていたけれど、

彼への気持ちに気づいてしまった私は目を閉じでiPadを胸にしまい込んだ。

この日は気がつけば眠りに落ちていた。


卒業式当日がやってきた。


朝から両親は着飾っていて、「卒業式だから!」を口癖かのように何度も口にしていた。


私は窓を開けると公園が見える兄の部屋に行き、

公園にそびえ立つ一本の桜の木を眺めていた。


「まだ、咲いてない」

卒業への寂しさと、新しい生活への期待が入り交じり、何とも言えない感情に一人、深呼吸をした。


足取りは少し重たかったけれど、

いつもと変わらない道の風景を噛み締めながら最後の登校をした。


「卒業生の入場です」


体育館から入場の合図が聞こえ、扉が開く。


下級生に着けてもらったコサージュを胸に綺麗なカーペットの上を歩く。


盛大な拍手が鳴り止み、式が始まる。

私たちの三年間の思い出は歌と共に涙へと変わった。


中学校生活が大好きだった私は、

一度も休むことなく皆勤賞を頂けると、マイクで名前を呼ばれた。

部活動で表彰を受けたこともあり、はじめて舞台に上がるわけでもないのに、とてつもなく緊張をした。

なぜなら、名前を呼ばれた人の中に彼の名前があり、

舞台には彼がいたからだった。


式も終わりを迎え、卒業生が泣きながら花のアーチをくぐり抜ける。

「麦先輩!」後輩に呼び止められた私は足をとめた。


そこで想いがたくさん詰まったお手紙と、花束をもらった。


今にも涙が溢れ出しそうだった私は「ありがとう」を告げ、自分の列へと戻って行った。


クラスに戻ると、

皆が担任の先生から配られた卒業アルバムを手に取り、友から友へとメッセージの書き合いを始めていた。


彼とは隣のクラスだったので、メッセージのやり取りは難しかったのにも関わらず先生の目を盗み私は隣のクラスへと足を運んだ。


彼の卒業アルバムに、私の文字を残したいと強く思ったからだ。


「なんで麦がいるのー?」と周りの人に言われていた気はするけれど、周りの声なんて聞こえないぐらいに

身体が勝手に動くとは、こういう事を言うのだろうと身をもって感じた。


気がついたら彼の教室に立ち、歩空の卒業アルバムを手に取っていた。


私は迷うことなく彼の卒業アルバムにメッセージを書いた。

「これからもよろしくね」


ありがとうでもまたねでもない言葉。


この時の私はもうすでに気がついていた。


この感情は私だけではなく、彼もきっと同じ感情を持っていて、それが「特別」と言えるものなのだという事に。


消えそうな筆圧の薄い文字。

きっと、彼の友人が書いたメッセージの中でも一番と断言できるほどの薄さで書いた。


自分で書いた文字を読み直し、彼にバレないように教室をあとにした。


「みんな、またね」


ホームルームも終わり解散の時間。

式を見届けた母親達がクラスの中に入ってくる。

学校にいられる時間が残りわずかになった頃、

母は私に告げた。

「麦、好きな子いるんでしょ?写真撮らなくていいの?」


母にはあまり恋愛の話をしたことはなかったけれど、今思えば気づいていたのだと思う。


母親とは本当に子供の事を良く見ていて、小さな変化に気づき、言葉にしなくても伝わる。

そういう存在なのだろう。

私は母親に見透かされていたのだと思う。


「ほら、探しておいで!」

母が背中を押してくれたお陰で、私は気がつけば彼の姿を探し走っていた。


歩空は校舎の門にいた。

もう帰るところだろうか、友達と話している彼に声をかける。

「歩空、写真撮ろ?」

「いいよ。」

この瞬間は今でも忘れられない。忘れたくない。

近くにいた友達に「撮って!」とカメラを渡し声をかけた。

初めて二人で撮った、たった一枚の中学卒業写真。


『ありがとう』

彼は照れくさそうに笑い、私に背を向け友達の方へ歩いていった。


彼の背中を見届けたあ後、クラスの子達に声を掛けられ、ご飯に行く約束をし、

母と二人で三年間過ごした中学校を出た。


家に帰りiPadを開き、LINEを確認すると、

彼からメッセージが来ていた。

「メッセージ書いてくれたの!?それと、写真一緒に撮ってくれてありがとう。」

私はすぐにLINEを開き返信した。

「書きたかったら書いた!歩空は恥ずかしがって絶対に声掛けてくれないって分かってたから走って探したんだからね。」


「麦は本当に俺のこと良く分かってるね。

俺も麦にメッセージ書きに行けばよかった。」


この日の夜はクラスの子達とご飯に行く約束をしていたので、

彼にその事を伝えて家を後にした。


卒業式も終わり学校には登校しないけれど、

彼との連絡が途絶えることは無かった。


卒業後の私たちには第一の大きな壁があった。

『受験』だ。


両親に家庭教師を雇ってもらっていても尚なかなか成績が伸びなかった私は、

友達が通っていた公文を紹介してもらい、習い事を増やし苦手の数学と英語を習っていた。


興味がある事はパッと頭に入り絶対に忘れないのに、

勉強という固定観念がどうもわたしは苦手だった。


彼は塾に通っていたが、学校で受ける授業だけで自然にサラッと内容が頭に入るらしく、行く意味がないと判断し途中で塾を辞めたらしい。


勉強をしなくても頭が良いという天才肌だった。

自分なりの勉強方法を見つけて取り組んでいると言っていたが、本人曰くさほど勉強はしていないと言っていた。


それでも歩空は無事に〇〇高校に受かり、

とても嬉しそうに私に報告をしてくれた。


私は第一志望の公立高校に落ち、すべり止めで受けていた私立高校に入学する事になった。


母には「こうなると思ってたよ」と言われ、

分かっていたのに…情けなくなり、この時の自分を好きになれなかった。


この日の夜、彼に報告のメッセージを入れると

「麦は良く頑張ったよ」と言ってくれた。

歩空はいつも、私が今ほしい思う言葉をくれて、心を軽くしてくれる。


「ありがとう」この時私が伝えた文に、どれだけのありがとうが込められていたのかなんて、彼には分からなかっただろう。


第一志望に落ちたことは、とても悔しかったけれど、努力もさほどしていなかったし、心のどこかで高校なんて…と思っていた私を神様は見抜いていたのかもしれない。


そして私たちの中学校生活は終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ