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肝試し

作者: 白夢

 私の小学生時代を知る友人に言わせれば、二十歳になった私というのは全くの別物だそうだ。それは私自身も自覚している事であり、原因となった出来事というのも分かっている。しかし、それを知らない友人たちからすればある日突然に変わってしまったと思われただろう。

 そんな私の変化を、何故かと友人たちによく聞かれるのだがやんわりとぼかして、口を閉ざしていた。だが、彼らの付き合いの中に酒が混じり始め、酔いも回り、口も滑り出し、ついついその日の出来事をこぼし始めたのだった。


 それはとある小学生時代の夕暮れのこと。

 その頃の私は外で遊ぶ活発な少年だった。そして子供ながらの残酷さ、とでは済まされない行為を行う子供だった。虫を捕まえて潰し、腹の膨れた魚の腹を蹴って遊んだ。端的に言えば命の尊さを知らず、死の薫りに触れてみたかったのだと思う。そんな子供時代だった。


 ある日のこと。こっくりさんで肝試しをしようと考えた私は友人三人を引き連れ夕暮れに染まる校舎へと忍び込んだ。踏み入った校舎は普段喧騒に溢れているそこではなく、息をすることも憚られる静謐さに満ちていた。その圧迫する空気に握る拳がじんわりと滲んでいたことを覚えている。自分たちの足音だけが響く廊下を、誰にも見つからないように歩く。足音が廊下に響いていく度、やんわりとした罪悪感が胸の奥底へ溜まっていった。そうしておそるおそる歩いていた私たちは何事もなく自分たちの教室へとたどり着く。その後は予め開けておいた窓から中へと侵入した。


 教室に入っても重苦しい静けさはそのまま、教室の端で小魚を飼っている水槽の流水音だけが響いていた。窓からは茜色に染まった空が見え、不思議と同じ教室だというのに違うところへ来たみたいだったのを覚えている。そうして先生が来る前にさっさと終わらせようという話になり、こっくりさんを行った。

「こっくりさん、こっくりさんおいでください。おいでになられましたら、はい、の方へお移りください」


 私が代表して唱えたのだが結局何も起こらなかった。失敗した時どうすれば知らなかった私たちは徐々に沈んでいく夕日に照らされながら動かないコインを眺めていた。

 どれくらい経ったか、数分だったかもしれないその時間がいやに長く感じた。

 そして「帰ろ」と、静かに声をかけそっと指を離した。

 

 気付けば窓の外は燃えるような赤に満たされ、山向こうに消える太陽は鮮烈な朱を教室に満たしていた。教室へと入った時の薄っすらとした放課後の影は、その頃には陰影の色を強め、黄泉へ開かれた門のように見えた。

 秒針や心臓、流水の音が混じり合い、静寂に音の濁流が生まれ耳を突き刺している。友人たちは我先にと走り出し、私もそれにつられ足を動かした。そうして窓から廊下へ出て、ふと後ろが気になり振り返った。


 影が動いていた。


 死を仄めかす彼岸花に満たされた赤の教室。そこに照らし出されたこの世ならざる宵闇の影が窓に映し出され蠢いていたのだ。私は恐怖に足がすくみ、遠退く友人たちの足音を呆けた意識の最中聞いてきた。やがて影は隅の方の影と合わさり消えた。

 その頃には外も暗くなり始め、それを意識したことで漸く私は帰路につけた。


 次の日、教室へ行くとちょっとした騒ぎがあった。飼っていた小魚が死んでいたのだ。偶々なのかもしれない。しかし、その魚の白い目に見つめられた私は自責の念に駆られたのだ。


読んでいただきありがとうございます。白夢です。

もう一作ミステリージャンルの短編小説を公開しています。


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