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謎夢シリーズ

僕が望む世界『謎夢シリーズ』

作者: 松花 陽

僕は、現実の世界が嫌いだ。

理由は単純明快、僕が思い描く世界ではないからだ。そう、僕の望む世界は、社会に縛られない幸せな世界だ。

だから、今日も僕は、その世界に入り込む。


□□□


僕は今日も、この世界で目を覚ます。


「…夢、もう終わっちまったのか……。」


起床すると同時に、重たいため息をつく。

僕の名前は謎夢湊。

数少ない謎夢の力を受け継いだ末裔の一人だ。

僕の持つ謎夢の力は、いろんな事ができる。

例えば、予知夢なんかを見ることができたり、自分の思い描く理想の世界を作り上げたりなど、色々とできる。そして、今現在僕は、その理想の世界に籠っている。所謂引きこもりというやつである。


「今日の理想の世界も楽しかったけど、もうちょっと堪能したかったなぁ……。」


名残り惜しく、そう言葉を吐く。

とは言っても、また寝てしまえば戻れるのだが…。その前に腹を満たさなくてはならない。いくら夢の世界が幸せでも、飯を食わなければ生きられない。

僕は怠い足を動かして、重たい足取りでリビングにへと足を運んだ。


簡単な朝食を作り、食卓に並べて、一人合掌して飯を食らう。これがいつもの僕の日課である。

因みに僕は今大学生で、アパートで一人暮らしをしている。お金は、親からの仕送りでなんとか取り持っているが、一様バイトはしているので、卒業してもバイトとしてずっとそこで働き続ける所存である。

大学には、自分の将来の夢の為に通っていたのだが、社会の厳しさを知った事により、それからというもの、僕は不登校となった。


「うまい…。」


普通に焼いた卵焼きを一口食べながら、ほのかな笑みを浮かべる。

ふと、ピコンッ!という音が、静かなリビングに大きく反響する。

なにかと思い、携帯を覗くと、幼馴染の木葉からだった。大方、学校に来ない僕を気にして、メールしてきたのだろう。

木葉とは、昔からの腐れ縁で、小中高と同じ学校にずっと通い続けている運命みたいな友達だ。

僕はそのメールの文面を見て、返信を返す。

すると、すぐさま電話がかかってきた。出たくはなかったのだが、出なかったら出なかったで、後々うるさいので、仕方なく電話に出ることにした。


「……はい。謎夢ですがなにか?」


木葉『なにかじゃないわよ、バカ!!アンタ大学に来なさいよ!!』


出るや否や、携帯越しにやかましい怒号が飛ぶ。だが、僕は平然と言葉を交わす。


「うるさいな…、声量を抑えてくれ、鼓膜が破れる…。」


木葉『なっ……!アンタを心配して言ってやってるのに、なによそれ!』


木葉『もういいわ、勝手にしてちょうだい!』ピッ!


そこで電話は切れた。

僕はそのまま携帯を置いて、食べ終わった朝食を片付けて、なにも無かったかのように自室へと向かいながら、こう言葉を吐き捨てる。


「…余計なお世話だっ……!」


□□□


今日も理想の世界を堪能して、幸せな一日を過ごす。

はずだったのだが、僕が夢の中で目覚めた場所は…。

何も無い、ただ真っ暗なだけの空間だった。


「なんだ、ここ?」


いつもなら僕が思い描く理想の世界で、目を覚ますはずなのに、今回は全く違った。

僕が不思議に思い込んでいると……。


??「やっほ〜…!聞こえてるかな?」


背後から見知らぬ声が響き渡った。

僕はゆっくりと声がする方向へと視線を向けた。するとそこには、黒ローブを纏った異質な人が、そこに居た。


「…誰だ、おまえ?」


当たり前の質問を速攻で投げかける。


??「まあ、最初の第一声はやっぱりそれだよね…。」


??「え〜〜とっ、わたしが誰かって?我は夢の探究者。」


「ユメノタンキュウシャ?」


なんとも馬鹿らしい事を言ってきたソイツに、僕は唖然としてそう言葉を吐いた。


??「ちょっとちょっと!聞いて置いて呆れないでくれないか?言っとくけどこれはマジだから!」


??「あっ、因みに名前はミントだよ!」


「へ、へー……。」


どう反応すれば良いのか分からず、困惑する。


ミント「まっ、それは置いといて…。それより……。」


ヘラヘラとした夢の探究者と名乗る男の顔が、急に笑顔を消し始めた。すると男は、真剣な顔つきで僕にこう言った。


ミント「君さ…、夢に囚われすぎなんじゃない?」


男は、僕の直ぐ近くまで距離を詰めて、聞いてくる。


ミント「君のやってることはね、まごうことなき“逃げ”なんだよ…。わかるかな?」


厳しくかつ、冷たげに男はそう告げる。

男の目は、とても冷ややかで、思わず重圧がのしかかる程だった。


ミント「…いいかな。どんなに辛い事でも、嫌な事でも、必ずそれを乗り越えなきゃいけないよ?」


その通りだ。この男の言っていることは正しいことだ。だけど、それでも僕は、認めたくなくなかった。心の中ではわかってはいたけれど、僕はどうしても認めたくなくて、思わず言い返した。


「そんなの、ただのお前のエゴだろ…!!お前のエゴを俺に押し付けるんじゃねえよ!!」


僕は怒りをあらわにして、そう男に強く反論した。だって、ポッと目の前に現れた奴に、僕の気持ちなどわかるはずないのだから。


ミント「たしかに、これはただのわたしのエゴでしかないだろう…。だけど、案外わたしは的を射ているのではないかと思っている。」


ミント「まあ、たしかに逃げる事も悪い事とは言わない。だけどね、ただ逃げている事は、悪いことなんだよ?」


男の一つ一つの言葉が、僕の心に強く突き刺さり、のしかかって来る。僕はそれを振り払うかのように、大声でソイツに怒りをぶつける。


「さっきからなんなんだよお前…!勝手に現れては、お説教か?!どいつもこいつもお節介なんだよ!僕の夢から失せてくれ!!」


僕はさっきよりも強く、その男に怒鳴り散らした。男は少し気圧されたが、直ぐに平然と戻る。


ミント「そうか……。では、これだけ言わせてもらえないかな?」


男は、人差し指を立てて、そう聞いてきた。

本当ならば、この場で今直ぐにでも追い出してやりたかったが…。なにを思ったのか自分でも分からないが、聞いてやることにした。


「…あぁ、構わない。」


ミント「では言わせてもらいますね。」


男は一呼吸して、軽く咳払いをした後、こう言葉を述べたのだった。


ミント『…逃げれば逃げるほど、あなたは道を見失う事になるだろう。』


男がそう言い終えると同時に、僕の視界は瞬く間に暗闇と化して…。

やがて、視界は明るく照らされた。


□□□


目を開けると、そこはいつも通りの幸せで、陽気に包まれた世界だった。

どうやら、やっと僕の理想の世界に戻ってこられたようだ。

自然豊かなこの世界は、僕にとって一番気持ちが良いところだ。社会や常識に囚われる事なく、のんのんとしてられる、気ままなところだ。


「社会に囚われない、静かな世界……落ち着く〜…。」


でも、なんでだろうか……。

このままじゃいけない気がしてしまった。いや、もともとこのままではいけないというのはわかっていたが、今はその時以上だった。


「なんだか……モヤモヤ?みたいな感覚がする…。」


あの男が消えてからか、変なモヤモヤが僕の心にへばり付く。


「……逃げれば逃げるほどあなたは道を見失うだろう……か。」


ふと、あの男が言っていた言葉が口から溢れ落ちる。そこで僕は、やっとその言葉の意味に気づく。


「…だよな。逃げてどうにかなるわけないよな。だったら、もう逃げない為にこの世界を……。」


僕は思い切って、それを行動に移す。


「…終わらせよう。」


瞬間、世界が勢いよく割れ始めた。窓ガラスが、粉々に砕け散るかの如く、ひび割れた。その破れていく世界の中、僕はひとり、強く決心を固めて、こう宣言するのだった。


「僕の夢を叶える為に、もう僕は逃げない!!」


そうして、世界が崩壊。僕はそのまま落下して行く。共に、視界も暗転する。そのまま眠りにつくかの如く、僕はそのまま落ちていって、元の世界で目を覚ますのだった。


□□□(午後16時過ぎ)


目覚めると、そこはベッドの上。僕は、現実世界へと帰ってきていた。ふと、周りを見渡すと木葉がそばに居た。寝息を経てながら、布団で被さった僕の膝の上で頭を乗せて寝ていた。僕は、そんな可愛い寝顔をした彼女の頬を、ツンツンとつついた。すると、彼女が目を覚ました。


木葉「……んっ?」


「おはよ、よく眠れたか?」


木葉の顔を覗きながら、僕はそう声をかける。


木葉「………んっ!!」


木葉「あっあああアンタ!いつ目覚めたの!?」


すると、木葉は僕の顔を見るや否や途端にその場から跳ね起きて、距離をとった。何やら、困惑した様子でこちらを見ている木葉。とりあえず僕は、木葉の質問に答えることにした。


「いつって、さっきだけど?」


木葉「何分くらい前?!」


「2.3分くらい前。てっいうかお前なんでここに居んだ?」


単純な疑問が頭からよぎる。


木葉「なんでって…、べっ別にアンタの事が心配で来たわけじゃないわよ!ただちょっと、アンタのそのふぬけたつらを見にきただけ…。」


木葉は強気な感じで、目を逸らしながらそう言った。木葉を顔を良く見ると、何やら赤くなっていることに僕は気づいた。なので僕は、ベッドから出たあと、ゆっくりと木葉の方に距離を詰めた。


「どうした木葉?顔が赤いぞ?」


そうして僕は、木葉のオデコに自分のオデコをくっつけて確認した。


木葉「っ?!」


「ん〜……。これといって熱は無さそうだけど……。んっ?」


木葉が、さっきよりも一層顔が赤くしだした。

すると、木葉は僕から大きく距離を取り始めた。


木葉「わっ、私もう帰るから!」


そう言うと、木葉は鞄を持って玄関にへと向かった。


「あっ!待って!」


僕は、彼女に一つだけ、言いたい事が一つあったので、声をかけて引き止める。


木葉「なっ、なによ…。」


そうして僕は、一呼吸加えて、やがてこう言葉を吐くのだった。


「ありがとな。それと、明日から僕…大学行くよ。」


……と。


□□□


ミント「どうやら彼は、これに気づけたようだね。」


暗闇に包まれた空間の中、私は椅子に一人座りながら、その光景を鑑賞していた。彼の行く末がどうなるか、気になったからだ。

夢の探究者だからこそ、いろんな人の夢を見て研究をしている。

だが今回は、私と同じ力を持つ少年と対話をした。少年はどうやら、その自分の力をしっかりと我が物にしていた。ということは……、いや……今はまだいいだろう。


ミント「さて、この私すらも傍観する観測者よ…。」


「今度はどんな世界で、私を動かすのだね?」

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