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ドラ猫の憂鬱  作者: 英泉
21/25

20 邂逅閉口

時系列同時進行のアナザーストーリー

「ドラゴンスレイヤーの憂鬱」

が進行中です。

https://ncode.syosetu.com/n2697gu/


同じ事件を別のパーティ視点から記述しています。

「バートさんって、アーデルバート様なんだね」

「バートでいい」

 同い年くらいと思ったか尻娘がやたら気易いけど、答える方も何時いつの間にか肩肱張った侍風さむらいかぜが消えてるにゃん。


「大姫さまが居るってことは、小姫さまも居るんですよねー?」

「居るには居るが、あんまり会ったこと無いな、箱入り御令嬢さんには」

「下の姫様、箱入りなんですかい?」

「先代伯爵が可成り早い時期に大姫様の婚約を決めちゃった左右うだから、その反動かもな」


「大姫さま、もと修道騎士団長のお坊さまをお待ちになってたって、どういう事なのでしょう?」

「そんな人が来るのか?」

「あれー、話しませんでしたっけ。昔すごい豪傑騎士だったお爺ちゃん」

「俺はいま戦える相手しか興味ないなあ。それに、俺ら親の跡継いで御城に出仕した二代目ばかり。俺なんて一番歳下で、たかだか三年目だ。昔の話は知らないよ。ただーー」

「ただ?」

「ーーあんまり真偽に自信はないが其の昔、西谷から来た姉妹の姫が、先代伯爵二人の息子に夫々それぞれ嫁いだんだ左様そうな。その兄上殿が早世し、弟殿が襲位して今の伯爵。兄上殿の忘形見を我が子としてお育てに成ったのが大姫様、実の我が子が若様とそして小姫様だと云う」

「ええ話やんか」

「してさぬ仲の大姫を将来疎まぬ誓いにと、北嶺寺社に赴いて高位聖職者を大姫の後見人に立てられた・・そういう話だ。数々の異聞の一つだから適当に聞いてくれ」

「『ええ話』じゃ、済みませんわよね」

そうだ。嶺北から来る大物とやらが後見人殿其の人ならば、真ッ実まっこと由々しき事態だな。伯爵の妹の嫡男と兄の娘の夫婦だぞ。高順位相続権者の二人が相互に法定後見人、盤石不動の連合だ。其れを更に教区の大立者が後見うしろみとは、如何様程の陣容だ? 三対一の多勢に無勢。はや若様に立場無しだ。白々地あからさまに立ち話もなンだな」

 別館の奥へ。


「それで最後に、俺らが若様の側近でも腹心でもないって此の状況、う思う?」

「わかります。なんとなく」

「じゃ、俺の案内はここまでだ。話は通してある。じゃな」

 踵を返して去っていく。


「若様に付き合っちゃうんですね」


「男って、馬鹿ねー」

「馬鹿なおとこは可愛いですよ」

「そう思う女も馬鹿よ」

                 ☆ ☆



 奥に行くと、顰め面して書き物をしていた老人が貌を上げて、

「おお! 町の駐留部隊の生き残りか。難儀だったのう」

「生き残っている者はまだ何人も居りますが、指揮官不在で組織が崩壊しました。包囲を掻い潜れる我ら斥候部隊だけが辛くも報告に参れた次第です」にゃ

「よう報らせてくれたが、旧臣ならざる其許そこもとらには、もう尽くして呉れる義理がない。どうかこの金子きんす持って無事落ち延びておくれ」

「それ頂いたら町で潜伏してる仲間に申し訳立たないにゃ。おれら報告したこの足で落ちるから、資金は留め置いて再起につかってくりゃれ」

「留め置いても金盗んで逐電したい不忠者に狙われるだけじゃ。収めてくれやい」

「なら頂戴いただいて町で市警に、仲間を見逃してくれるようまいないにでも遣うべえ」


「気持ちの良い野郎どもじゃ。どうか恙無く生き延びてくれ」

「年寄本役殿は?」

「今更敢えて名乗りもせんの許せやい。此処で姫に殉じるゆえ、ラーテンロットにも忠義者の一人や二人は残り滓がおったとだけ何時の日か思い出してくれ」

「御目通りとは言わず、せめて姫ご容体遠くからひと目見て罷りたいにゃ」

かたじけない。いまネモ殿の手配した薬師くすしが診ている。静かに覗いて行ってくれ。長居すると町のややこし連が来てまた無態を言い出すから、努めて巻き込まれんようにな」


 奥に通される。


                 ☆ ☆

 鬱蒼とした杉林を背に、街道脇には小高い岩山。

 道ならぬ脇道に馬車の轍を丁寧に消した痕を、目敏く見付けるのは勿論素人でない。

「ロベルティ、どう見る?」

「四列で兵士三十九人。合掌の姿勢で胸元に剣と一握の土塊。戦友を埋葬する余裕のない時の略礼です。伍長が六人、軍曹が三人、兵卒三十人。指揮官除く1個小隊が全員死んでいますが、外傷がありません。嘔吐の跡もなく、ほぼ即死です。死亡時の状況は見当も付きません」

「一斉に服毒自殺とか、無いよなあ」

「似ているとすれば、トリヴェロ山砦攻めの遺体検案書にーー」

「あれな。神に祈ったとか祈らんとかの、あの怪しげな」

「しかし検案書は軍医官の作成した真面目なものです」


「魔法だの妖術だの、何処が真面目だ!」

「書いた本人大真面目です」

「人攫いの異端者ら遂に官軍に追い詰められ、山頂の隠し砦に立て篭もる。天険の要害攻めあぐね、麓から火攻めにしたら、悪の教祖は妖術使い。黒雲と豪雨を呼んで火を消し止め、余勢を駆って暴風雨で寄せ手を悩ます。まるで辻で飴売りが子供集める活劇講談じゃねえか」

「んまあ、役人の付けた公的記録にゃ見えません」

「鉄砲水が官軍を呑み込まんとした其の刹那、高僧が祈ったら邪法が破れ、立ち昇る煙が逆に山を包み込み、悪者に呪詛が跳ね返って異端は全員死んでいたって、どう考えても教会側の作り話だろ」

「いえ、いかにも粉飾臭い部分を単純に除けば、私たちのよく知っている事実が出てきます」

「あ、成る程。人は焼かなくとも燻せば死ぬ、か」

「天候見ずに火計仕掛けて失敗したが、偶然に結果オーライだったっのを調子よく宣伝に使ったとか、そんな話でしょう」

「煙・・なぁ・・」

「でも此処はこんなひらけた場所ですし」

「うん、火を焚いた痕も無い」

「だから見当も・・」

 

「詰まった時ゃ、頭ぁ切り替えようぜ。王国軍なら1分隊十二人、ゲルダン流なら十三人で1分隊。どっちも3分隊で1個小隊だ。なんで十人毎の四列で並べた?」

「並べた人が軍人や兵卒じゃない、とか」

「うん、村から徴用された補助兵とかなら、十二人とか十三人単位で数える習慣は染みついてないよな。だが、この戦場の作法に適った略葬礼はどうだ? 釣り合いが変で訝しいぜ」

「・・・」

「ここいらで、十人単位編成な軍といえば?」

「・・北嶺の・・修道騎士団です」


                 ☆ ☆


 門前に箱馬車二台。

 馭者が番兵に黙礼して通過。

 下馬門前で町の紳士がわらわらと降車。

 帽子をとって番兵に一礼するや足早に内曲輪へと入っていく。

「あの宝剣だれかに盗られちゃった件、若さまに勘弁して貰えるかな」

「悩むのは『許さん』て言われてからでいい」

 本殿玄関に入って行く。


 物陰に二十代半ば位の男

「プロスペロー・スぺス=プロキシモ・・」

 長剣の柄に手を掛ける。


「おい、待て」と、背後から。

 振り向かずとも声で判る。

「ルカおじさん、矢っ張り奴らの仲間ですか!」

「そう言われると複雑だけど、仲間だからこそ判るんだな。知らぬ顔が混ざってる」

「知らぬ顔?」

「そ知らぬ顔して混ざってる。たぶん腕利き護衛だろ」

「護衛いたか!」


「あの、右手ふところに入れたまんまの奴。たぶんバールのようなもの握ってる。襲いかかってみろ。最初の一合でおまえ細剣ポッキリ折られて、二合目からは殴られ放題だな。まあ死なないようにボコボコ殴ってくれるよ、拷問で背後関係吐かしたいから」


「それ、ウォーハンマーって云うんですよ」

「僕ぁ、おまえの頭を叩く木槌が欲しいよ。ペッコンって音のする玩具おもちゃのやつ。武器の名前だきゃ知ってても、護衛はみんな兵隊っぽい格好して馬廻衆みたいに要人を取り巻いてるとばっかり思ってる奴が、現場で役に立つかよ」

「おじさん付き合いが目上ばっかで鬱積してんでしょ。ぼくに当たらないでよ」

「それは否定しない。あの人も昔は素敵なお姉さんだったのに」

 誰だかは敢えて言わない。

「おまえを御城に預けたのは、出来るもんなら騎士にと思った故だけど、やっぱり狭き門だった。剣に盾、弓馬の腕前あらばこそだ。腕を磨けと言っただろ。それが半端な腕のまま、こんな所で返り討ちでは名誉も実もありゃしない。いくら侍の子だろうと、無役のままじゃ、おれら自由な町人と同じ枠だ。仕官叶って初めて武士だぞ其奴を忘れて碌な事ぁ無い」

「はいはい碌も無しなら碌で無しですよ」

 不貞る。

「おい! 仕える騎士も居ないお前を従騎士にするの、どんな横車押したと思ってんだ。名前だけ借りちゃったんだから、教え鍛えてくれる師匠が居ないって自分の抱えたハンデがどんだけ大きいか理解ってんのか!」

「はいはい」

「真面目に聞け! プロスペローの奴は深慮遠謀ありそな顔して時に何も考えてない。お前の親父に一服盛った件だって、本当にヤバい秘密を知られたからじゃなくて、侍風吹かされてムカついたって虫の居所だけの話かも知れないんだ。大ごとってのは存外つまんない事で起こるんだよ」

「おれ、おじさんが思ってるほど、変な身分意識持ってませんよ」

「嘘つけ。腕づく勝負を懸けようとしたのが証拠だ。ルナールの兄貴と同じ。やたら『侍になれる身分』の自分に拘泥る。『仕官できれば侍になれる自由人』は、仕官してなきゃタダの『自由人』だ。なのに自分がタダの『自由人』と違うという自意識が自分自身を無用な軋轢に巻き込んだ。おまえは、そんな破滅を迎えちゃ駄目なんだ」


「で、どうするんです?」

「逃げる」

「へ?」

「『ゲルダン侵攻阻止作戦』どころじゃ無くった。先に御城に火の手が上がる。非戦闘員を逃がすから手伝え」

「なんでそんな急に!」

「昨夜遅く、哨戒に出てたポンティ小隊四十人が全滅した。変事を知らせる伝令も出さず救援も呼ばず、ぷっつり消息絶ってみんな死んだ。そんなの、何倍もの敵が密かに寄せて来てて包囲殲滅されたって以外に考えられないだろ!」

「この御城を攻めてくる敵って? まさか!」


「そんな兵力って云やぁ、西谷でなきゃ嶺北の修道騎士団のほか無いだろ。来るなら総力戦で来る。最悪、早ければ今夜」

「どうして?」

「昨日、公文書館で二十四年前の捜査記録が前騎士団長名義で押収された。異端審問より悪い事態かも知れん」

「まさか、異教徒討伐ですか?」

「異端審問なんて、宗教裁判も所詮は裁判だ。異教徒討伐は有無言わせねぇ制圧。征服戦争だぞ。異教の地への外征なくなって久しいだろ。鬱憤溜めまくった修道騎士おっかねえぞ」

「王国は黙認?」

「王国だって、外様大名お取潰しして王弟殿下の鎮座まします大司教領に編入とか、大歓迎だと思わないか? 少なくともエルテスの大司教座にはその横車押す力があるし、王国にも都合がいい」

「きったねえの!」

「それが政治だろ。嶺南が一つに纏まれば王国もおいそれと手を出せない力だが、伯爵家が西谷とまた関係悪化して分裂してたなら、いつ何どき狙われても可訝おかしくない。逆に言えば、お国としちゃ西谷の惣領が伯爵後継に決まっちう前に方を付けたいんだよ。でないと、この巨大藩に王国は手が出せなくなる」

「公文書館での資料押収って! 騎士団が嶺南侵攻の大義名分見つけたのだとしたら!」

「いま来るだろ」

「それが今夜ですか?」

「昨夜は四十人ほど皆殺しになった」

「で、次の修羅場が今夜なわけですか」

「取り越し苦労ならそれでいい。最悪に備えて包囲される前に非戦闘員逃がすぞ」


 幸か不幸か武骨な要塞、陸の軍艦さながらに、御城勤めは下々まで多かれ少なかれ戦闘員の部類だ。事務方は皆な町の下屋敷勤めな筈だから、夕方過ぎても居残っていそうな文官を上手に誘い出せば良い。女手も殆ど通いの女中だ。夕刻までには怪しまれずに誘導出来るだろう。問題は・・

「しかし、なんで皆が皆、俺のことを『ルカ』って呼ぶんだろう。名前はルチオなのに・・」

 考え事しながら、ぶつぶつ呟く。



                 ☆ ☆

 塔の前の果樹園の茂み。

「なんか刹那いよねー」

「みんな、もう気付いてるよなあ? 俺ぁ一年前、あのお姫さん探し出す任務を帯びて此の国に潜入した。それが、母国が滅んで仕事やる必要なくなった途端、こんな簡単に会えるなんて皮肉なもんだな。う、見つけて暗殺部隊に知らせるなんてクソ任務は無くなった。そんな部隊もう無いし」

「ネモのおっちゃん、遠回しに復讐はやめろって言ってたよにゃ」

「今は任務でも何でもないし、殺生になんぞ関わりたくもねぇよ。お姫のあの顔見ちまったら『回復魔法とやら失敗しろ』と毒づく気さえ起こらねえ。ルカの坊ちゃん探しに専心しようぜ」

「お兄ちゃん昨日のうちに来てる筈なのに、別館に顔出してないしネモ小父さんにも会ってない。何処行ったのでしょう」

「隠れて何か奔走してるっぽかったからねー。名前出して尋ね回るのは控えてたけど、限界かなー」

「あの奥方様が『尋ね人にも直き遇える』って言ってたから、じき逢えるんじゃね?」

「神頼みにゃ?」


 と、遠方で

「故ポンティ准男爵殿の葬列にて候。礼拝堂は何方いづかたかぁぁ」

「あらー、聞いた声」


                 ☆ ☆

 物陰から窺う。 

「やっぱりお坊さまだー」

「八人か。また濃ゅいメンツ揃ったにゃ」

「合流するぅ?」

「それ、よくない。あんまり おおじょたいになると うごきにくい」

「それも一理あるわねー ・・って、あんた誰よ!」

 振り向くと、見た顔。


「ほら、ギルドの・・おつかい小ぞう。なんども会ってる。 でしょ?」

「だっけ?」 ちょっと年嵩の浮浪児ふう・・ って夢の中じゃん!

「ほんとだよ。 会ってる」

「だっけー?」

「ルカ兄ぃ、今いそがしい。 あとで、むこうからジャンの妹にあいにくるから」

 スッと行ってしまう。


「ちょっと、ジャンの妹って誰よ!」

「尻娘、なに一人でぶつぶつ言ってるにゃん」

「え?」

「ジャンの妹って、多分わたしですが。 行方不明の兄がジャンカルロです」

「それって・・」

 と、言い掛けたとき、大扉の開く音。


 お坊さま一行の前に初老の偉丈夫が姿を現した。

 伴の一人も連れず衣服も地味な柄のウプランド、華美でないが荘重。

 辺りを圧する威厳で四人組にもそれと分かる。

 伯爵その人である。


 一同固唾を飲んで柱の蔭から様子を窺う。

 其処は先刻、若い男とルッカ・スパダネーロが密談していた柱の蔭。

 また擦れ違いであった。



                 ☆ ☆

ウプランド:Houppelande(frz.), Pellanda(it.), =Goun(en.)


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