拓也の夢
……夢の中で、俺は小学生に戻っていた。
現実ではもう亡くなったモモも、その当時はまだ生きていて、彼女を散歩に連れて行くのは俺の役目だった。リードを手に持って「モモ」と名前を呼べば、どこにいようと尻尾をフリフリして駆け寄ってくる、そんな可愛いやつだった。ちなみに「散歩」でもやってくる。自分の名前を「散歩」だと認識していた可能性が若干あるが、今となっては確かめる術も無い。
俺の実家はちょっとした田舎にある。失礼、見栄を張った。結構な田舎にある。最寄りのコンビニが車で行くレベルの距離で、人口より案山子の方が多いのでは冗談交じりに囁かれる、そんな僻地中の僻地だ。人がいないということは、すなわち犯罪者もいないので、ガキンチョが一人で出歩いても特に危なくない。モモと散歩に行くのも俺一人だった。
その日はちょっとした気紛れで、いつもとは違うコースを歩いてみた。川沿いの道から山側に上って、大きなため池のところまで。グルッと地域を一周するルートだ。初見ではないが、あまり詳しくない道だった。
探検気分で呑気に歩いていると、山の麓に寂れた神社を見つけた。
落ち葉が散らばり、うっそうと茂る木々に囲まれたそこは、外から見るとちょっと不気味なように感じられた。もちろん、知らない場所だ。俺は好奇心にかられ鳥居をくぐった。
誰もいない。手水場にたまった雨水は汚く、鼻を近付けると嫌な臭いがする。木漏れ日に照らされた本殿も、遠くからなら幻想的なものだが、傍に寄ってみれば酷いものだった。壁は割れ、蜘蛛の巣がそこら中に走っている。ここがまったく手入れされていないことは、幼い俺でも直感的に分かってしまう程だった。
「……そうだ。お参りしないと」
神社に行ったら神様に挨拶をしましょう。そう学校の先生に教わったのだ。神社の敷地をグルリと一周してから、俺は賽銭箱の前に立った。
「小銭は……しまった、持ってないや」
ポケットにあめ玉が入っていたので、代わりにそれをお供えした。お参りの作法もよく知らなかったので、分からないなりに手を合わせてみる。
こんにちは神様。
取り敢えずそう唱え、そこから何を言おうか言葉に詰まった。どうしよう。そうだ名前を言ってない。俺は高峯拓也です。次。どうしよう。えーっと……静かで素敵な場所ですね。それではまた。
最後に鈴をシャランと鳴らして、俺は神社を後にしようとした。
「行くよモモ」
愛犬の手綱を引き、古ぼけた石の鳥居をくぐる。
その時だ。
――シャラン。
「え?」
ハッとなって振り向く。後ろから鈴の音が聞こえたような……。
俺が不思議に思っていると、応えるように、神社の奥から生ぬるい風が吹いてきた。モモが唸り声を上げ、何かに向かって勢いよく吼え始める。何が何だか分からなかったが、木陰から粘っこい視線を感じて、全身に鳥肌が沸き上がってきた。
「モモ……帰ろう」
ここに長居してはいけない。そんな感じがして、俺たちは足早にその場から立ち去った。