第1話 個性的なメンバー 続
お昼、私はある人に呼ばれて大通り公園に向かった
指定された場所に向かうと、ベンチに座り手をふる男性が一人
私はその姿にため息をつくとベンチに向かった
美雪:「地検の鬼と呼ばれている人がそんな顔してここにいていいの?拓也兄。」
手を振っていた人物は東京地検特捜部で「地検の鬼」と呼ばれ恐れられている
私の兄、南雲拓也だった
187㎝の長身に銀縁眼鏡で眼光が鋭く、頭がキレて検挙率は地検トップ
そんな兄は・・・重度のシスコンである
拓也:「いいじゃないか。今はプライベートだ。
それより帝国橋ホテルのランチボックスを買っておいたよ。一緒に食べよう?」
そんな兄は周囲のことなど興味はなく・・・兄妹そろって変人というわけ
すっかり寒さもなくなり、外でランチをするのには最適な気候だった
拓也:「どう?美雪、美味しい?」
美雪:「うん、おいしいよ。ありがとう。」
もうデレデレの顔
2歳しか年齢が変わらないが、昔から兄はこんな感じだ
拓也:「最近、仕事が立て込んでいて一緒にランチや食事に行けなかったからな。
せめてこれぐらいはいいだろう?」
美雪:「まぁ・・・。」
拓也:「それでどうだい?刑事部刑事課第七係は。」
美雪:「私には合っている気がするわ。みんな変人で。」
拓也:「あははは!美雪は変じゃないよ。俺の大事な妹だ。」
いや・・・変人に変じゃないと言われても・・・
美雪:「拓也兄、私、一人暮らしした方がいいと思うの。バレないためにも。」
拓也:「駄目だ!俺は反対!こんな可愛い美雪を一人暮らしさせたら、第七の連中をはじめ、
周囲の男性が襲いに来るに違いない!!」
・・・襲うって・・・
美雪:「一応父と私の関係は隠しているわけだし。誰が私達の行動を見ているか分からないわよ?
父は私が仕事しやすいようにあえて母の旧姓を名乗らせてくれているというのに。」
拓也:「しかし俺も親父も一人暮らしは反対だぞ?」
美雪:「そうなの!?」
拓也:「ああ。大丈夫だ。たとえバレたとしてもおまえには迷惑かけないようにしてくれるさ。
それが駄目だったら地検に来ればいい。美雪は天才だからどこでも通用するさ。」
・・・だめだ、危機感がない・・・
私はあからさまにため息をついてみた
美雪:「戻りました・・・あれ?御堂さんだけですか?」
悠一:「ああ。みんなまだ昼から戻ってこないよ。」
美雪:「なるほど。」
時刻は13時ちょっと過ぎ・・・時間にだいぶルーズということは分かった
私は机の上を整理していた
悠一:「美雪はどうして左目だけカラコンなの?」
え・・・?
御堂さんはパソコンを軽快に叩いていた
美雪:「どうしてわかったのですか?」
悠一:「なんとなくね。」
美雪:「すごい観察力ですね。」
悠一:「そう?」
美雪:「私、左目だけブルーなので。」
悠一:「オッドアイなのか。遺伝だね。」
美雪:「祖母がクオーターで左目がブルーなので。」
悠一:「そっか。ここでは無理に目の色を変えなくても平気だよ。
俺達そういうことを気にするような人間じゃないし。カラコンって疲れるだろう?」
美雪:「ありがとうございます。でも聞き込みとかだとブルーの目は相手に恐怖を与えてしまうので。」
その言葉に御堂さんの手が止まった
悠一:「美雪は偉いね。相手のことを考えて。」
美雪:「そうですか?それにしても御堂さんのパソコン裁きさすがですね。」
悠一:「そう?ただ好きなだけだよ。」
美雪:「私、パソコンはあまり得意ではないので。」
悠一:「だったら今度教えてあげるよ。」
美雪:「ありがとうございます。」
ガチャっと扉が開き尾ノ上さんと杉原さんが戻ってきた
智和:「悠一、レベル上げしてくれた?」
悠一:「ああ。」
智和:「さんきゅ!って勝手に宝箱開けたのかよ!!」
悠一:「雑魚ばかりだった。」
智和:「ったく・・・。」
美雪:「お二人は高校からの同級生だと聞きました。」
智和:「そうだよ!」
美雪:「いいですね、同級生が側にいるというのは。」
智和:「そうだね~。まさか同じ進路を選ぶとは思わなかったけどね。
ゲーマー仲間であり俺の大親友だね。」
悠一:「・・・・。」
言葉にはしなくても御堂さんは嬉しいみたいだなぁ
智和:「ところで美雪はゲームする?」
美雪:「はい。時間があれば。休日は1日やってますね。」
その時杉原さんの目が光った
智和:「美雪・・・意外とゲーマー?」
美雪:「うーん、普通かと。」
智和:「じゃあ一緒にこのゲームしようよ。」
大輔:「ちょっと待ったー!」
智和:「うわっ、びっくりした。なに?大輔。」
悠一:「・・・・・。」
大輔:「君は武道をたしなんでいるときいたよ。少しお相手できないか?」
智和:「女性に戦いを挑むなよ。でも文武両道だと安元さんから聞いたな。」
美雪:「まぁ、それなりにですが。いいですよ。じゃあ杉原さん、ゲームはあとで教えてもらえますか?」
智和:「いいよー。怪我しないでよ。」
私は尾ノ上さんと一緒に隣の部屋に向かった
大輔:「さすがだなー、女性でここまでできるのは!!」
かれこれ一時間みっちり組み手などをやらされた
胴着を持ってきておいてよかった
パチパチパチ
拍手が聞こえ、扉の方を見ると、高貴さんと夏樹君がいた
夏樹:「美雪すごーい!綺麗な技のかけ方だったよ。」
高貴:「さすがだな。大輔相手にここまでできるのはいなかったよ。」
美雪:「ありがとうございます。でもさすがオリンピック候補だっただけあって、気迫と技術がすごかったです。」
大輔:「武道は元々心を鍛錬するところであって、戦うものではないよ。
だからオリンピックなどは興味ないよ。」
美雪:「でも見たかったですよ、尾ノ上さんの戦う姿。」
尾ノ上さんは顔を真っ赤にしていた
夏樹「あー!大輔さん、顔真っ赤!可愛い女性に言われてドキドキしちゃった?」
大輔:「う、うるせー!」
そういって夏樹君を追いかけ回した
高貴:「大輔の相手、ありがとな。コーヒー入れてやるから着替えてこい。」
美雪:「はい。」
私はシャワー室を案内され、着替えを済ませ部屋に戻った
家に帰ったのは19時を少し回っていた
あれから杉原さんからゲームを教わり、ついつい長居してしまった
みなさん、個性的だけど優しい方と感じた
由香:「あらあら、おかえり、美雪。どうだった?」
母、南雲由香が出迎えてくれた
美雪:「うん、事件はなかったけど何かと引っ張り回されたよ。」
由香:「ふふ、男所帯だと健一さんから聞いたわ。大変ね。」
美雪:「それは慣れているけど・・・あぁ、お昼に拓也兄とランチに行ったの。」
由香:「あら、拓也ったら。また美雪を振り回して。きっと最近仕事続きで一緒に食事ができていないからね。」
美雪:「あの様子だと、私と父との関係がバレるのは時間の問題な気がする。」
由香:「そうね。まぁなんとかなるでしょう。」
母ものんきだ
私は着替えると言って部屋に戻った
携帯を見るとLINEが入っていた
志麻:『初日はどうだった?』
志麻美悠、女性みたいな名前だけどれっきとした男性
高校からの同級生で、探偵業を営んでいる
私をなにかとサポートしてくれて、今までの功績のほとんどは志麻君のおかげ
私は返信をした
美雪:『志麻君、お疲れ様。特に事件がなかったけど、みんないい人そうで安心。』
すると電話がかかってきた
美雪:「もしもし、志麻君?」
志麻:“無事初日を終えたみたいだな。”
美雪:「うん。志麻君はまだお仕事中?」
志麻:“ああ。張り込み中。”
美雪:「電話して大丈夫?」
志麻:“この方が相手も尾行されていることなど分からないと思うよ。
いい環境でよかったな。“
美雪:「うん。また志麻君には色々手を貸してもらうけど・・・よろしくね。」
志麻:“いいよ。美雪のためなら力になるよ。それより、次の休みはいつ?”
美雪:「うーん、まだ分からない。」
志麻:“美雪が好きそうなカフェがあったから今度行こうか。”
美雪:「うん!志麻君、朝晩はまだ冷え込むから身体に気をつけて張り込みしてね。」
志麻:“ああ。ありがと。じゃあな。”
そういって電話は切れた
志麻君はいつだって優しくて頼りになる
そしてなによりイケメンだ
美雪:「志麻君、頑張れ!」
由香:「美雪―、夕飯は食べるのー?」
美雪:「食べるー!」
私は急いで部屋着に着替えてキッチンに向かった