老後を考えることが大事なのです。
朝食。大事。
老後。大切。
唐突だが、冒険者と呼ばれている人種の活動は、主に二種類に分けられる。
一つは、街から街へと移り住みながら、世界中を旅する者。金銭は、旅の過程で遭遇する魔物や盗賊を狩る、もしくは薬草などを採取し、街で売り捌くことで稼ぎ、一か所に留まろうとはしない。その行動理念は多岐にわたるが、自由に生きたいという意思を持っている事が共通して言えるだろう。
逆に、一か所に留まり続け、「ダンジョン」と呼ばれる迷宮に潜ったり、ギルドで発行されるクエストをこなして金銭を稼いでいる者たちがもう一種類の冒険者だ。彼らもまた、様々な理由で一か所に留まり、生活をしており、僕もそんな冒険者の一人である。
そもそも冒険者とは、外に出ようが出まいが命がけには変わりが無いので、どちらが優れているとか、正しいだとかを言うつもりは無いので、分別することに意味は無いのかもしれない。
だが、敢えて言わせてもらおう。
世界中を見て回りたい? 新たな出会いやまだ見ぬ景色を見に行きたい? 笑止である、と。
人間いつかは老い、旅など続けられなくなる時が必ず来る。どんな英雄だって、適齢期を超えてしまえば、一つの街に留まるものが増えるだろうし、旅先でいい人が見つかれば、家庭を築き、やはり冒険者は引退する。
つまり、冒険者になるうえで、最も効率的な生き方は、将来のことを考えて、一つの街に留まり、老後の為の蓄えをすることなのだ! 出会いが欲しければ、人の行き来の激しい街にいればいいし、世界中の情報なんてすぐに集まるから、旅をする必要なんてない! さらに言うと、冒険者の死亡率だって、一か所に留まっている者のほうが断然少ないのである。
―――ということを宿屋の食堂で出される朝食の場でミーシェちゃん(宿屋の一人娘、11歳)に、僕は語っていた。
「……フリトは相変わらず夢がないよね~。まだ若いんだし、今から老後のことを考えてどうすんのよ」
まだ若いんだし、なんていう言葉を自分より八つも年下の子に言われたくは無い……てか、女将さんににておばさん臭……
シュンッ……サクッ(食べていた魚の煮物にナイフが刺さる音)
「あらあら、ごめんなさいね~。食後に果物でもと思って、皮を剥いていたら、手が滑っちゃったわ~」
女将さんは、厨房のほうから出てきて、すぐさまナイフを回収して、戻っていった。
昔は、やり手の冒険者だったという女将だが、職業は暗殺者だったのだろうか。魚に刺さるまで、ナイフの軌道が全く見えなかった。
「おかしいな。声には出していなかったはずなのに(ガクブル)」
そんな僕を見て、呆れた顔をしているミーシェちゃん。
「フリトったら、またお母さんへの禁句なことを思ってたんでしょ? ただでさえ、顔に出やすいうえに、お母さんは読心術も心得てるって言ってたから、気を付けないと」
「前々から思ってたけど、君のお母さんの前職は何だったのさ!? 読心術なんて、普通の宿屋の女将が持ってるわけないから!」
「ん~……わかんない。なんでか教えてくれないんだよね~。なんか、コッカキミツ? とかに引っかかるとか言って」
「……ごめん。気にはなるけど、聞かなかったことにしといて」
国家機密ってなんだよ……怖えよ……
「ミーシェちゃんは、普通の女将さんになってね。応援するから」
「? そんなことフリトに言われなくたって、立派な女将になるもん。お母さんだって、今度ナイフを使った正しい対人戦のやりかたとか、読心術を教えてくれるって言ってたもん」
おっと、すでに色々と手遅れでしたか。無邪気なミーシェちゃんの笑顔がまぶしくて、正視できないよ……
「なんでフリトは泣いてるの? 何か悲しいことでもあったの?そんな時は頭をなでなでするんだよって、お母さんが言ってたから、してあげようか?」
「大丈夫……。ミーシェちゃんはそのままの優しいミーシェちゃんでいてね」
それから少しして、お仕事があるからと、去っていったミーシェちゃん。僕もそろそろ、いつものようにギルドに行く時間が迫っていたので、急いで残っていた食事を終わらせて、宿屋を出発した。
今日も、一日ダンジョンに潜って、お金稼ぐのだ。
そう。全ては老後の為に!!
これが冒険者の僕、フリト・ハンバードの生き方だ。