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二度召喚された歴代最強の勇者  作者: 真鍋仰
帰還と再召喚編
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007 和解と会議

 しばらくして、拘束されたままの魔王が目を覚ました。拘束と言ってもさっきのように四方八方ではなく、手足のみに巻き付けた。これでも十分に動けないだろうし、下手なことをしなければ、魔力切れも起こさないだろう。


 そのとき、オレと京里は即座に創ったイスに座っていた。テーブルも作成し、奥の方にあった紅茶を勝手に、だがいただいていた。最初は入れるのを渋っていた京里だったが、その紅茶の良い香りに屈し、入れてくれた。

 その紅茶の銘柄は知らないが、とても良い香りで味もしっかりとしている。上等な品物だろう。


「あっ、おはよう」


「む、おはようなのじゃ」


 魔王は寝ぼけているようで、律儀にもオレに挨拶を返してきた。

 だが、起きようにも四肢が言うことを聞かないので立ち上がることはできないようだった。そして、それをきっかけにしだいに覚醒していった。


「な、妾は捕まっておるのかっ! おい、勇者。これをはずせっ! っていうかそれは妾のお気に入りの紅茶っ! 勝手に飲むんじゃないっ!」


「うるさいやつだな。……京里、済まないがあいつを起こしてイスに座らせて紅茶を飲ませてやれ。これにはどうもリラックス効果があるようだからな」


「わかったよ、兄ぃ」


 オレがやろうと思って立とうとしたが、京里からの視線が銃弾のように突き刺さったため、その役目を京里に譲った。

 京里は満足したようで、笑顔で事に当たった。

 ひょっとしたら、京里は<滅全の魔王>よりも強いかもしれない。少なくともオレは手出しすらできない。


 わずかな抵抗をする魔王だったが、この世界の住民の最大値に迫る筋力を持つ京里には敵わなかったようで、素直に運ばれていた。召喚時のチートスペックには魔王もご愁傷様である。

 そのあとに拘束されているので、紅茶が飲めないので京里が飲ませてあげていた。これにも魔王は最初渋っていたが、良い香りに負けすすっていた。はたから見れば仲のいい姉妹のようだ。拘束されているのは問題だが。


「どうだ? 落ち着いたか?」


「うむ。よい香りじゃ、この紅茶の風味がよく引き出されておるのぅ。誰がこの紅茶を淹れたのじゃ?」


「えっと、私です」


「む、そちが淹れたのか。……妾に雇われないかのぅ。こんな良い紅茶を淹れられるやつは他におらんからな。そちがよければ、雇ってもよいぞ。優遇はもちろんする」


「ありがたいですが、お断りします。私には他の用があるので」


「むぅ。残念じゃ。また、飲ませてほしいのじゃ」


「は~い」


 そんなやり取りがオレの前で行われていた。オレはもうすでに空気である。というか、今この瞬間に人族と魔族の隔たりが取れていたような気がする。片方が拘束されているという問題点はあるが、これがもしかしたら平和になった未来なのではないのだろうか?


「なぁ、魔王。人族にはもっとよい紅茶を淹れるやつがいると思うぞ」


「そうなのかっ! これよりも良いものだとっ」


 もちろん、はったりだ。まだ、この時代の人々をオレは見ていない。だが、そう言った細々とした技術は人族の専売特許である。魔族はそれ以上に大きな力がある。平和の一端というには小さなものかもしれないが、オレにとっては三年間求め続けたものである。

 こんなまだ欠点はあるが、仲良くできる時代がオレは欲しかったのだ。大きな夢だがそれも時間の問題だろう。


「魔王、お前が何故、人族に戦いを強いるのか、オレは知らない。だがな、魔族にも人族にも長所があり、短所がある。確かに、現状はどちらにも非がある。だが、民をそれに巻き込んでいいわけではない。

 もし、お前から積極的に人族を攻めないのならば、オレは人族から魔族を攻めないようにしてやろう。

 最初は、不干渉でいいんだ。それからだんだんと平和にしていけばいい。お前だって、戦いしかない日々なんて嫌だろう。オレも嫌だ。だから、これはオレ、<創世の勇者>の名において約束しよう」


「………やはり、其方が<創世の勇者>だったか。道理で手も足も出ぬわけじゃ。先祖様でも負けを喫したのに妾ごときじゃ無謀もいいところじゃのぅ。

 しかも、語り継がれてきた<創世の勇者>と同じことを言う。平和なんぞ、妾は想像すらしなかった。だが、其方にはできるのであろう。

 世界すらも創り変える<創世の勇者>。妾もそんな世界が見たいやもしれん。そのそちの計画、妾も参加させてもらおう。戦いだけなんて辟易じゃ」


「ありがとうな。じゃあ、オレたちはそろそろ行くわ。紅茶全部飲んでいいぞ」


 オレの目的は小さいながらも達成できたので満足だ。以外にも満足な回答が返ってきたのですんなりと済んだ。やはり魔王にもそれぞれだな。


 魔王の手足を縛る<戒めの鎖>をほどいて、オレは京里とともに魔王の部屋から出た。



「よかったね、兄ぃ」


「ああ、そうだな。……とりあえず、帰るか。――【創造(クリエイト):<転移魔法陣>】」


「うんっ」


 そうして、オレと京里は蒼い輝きを放つ、<転移魔法陣>に乗り込み、召喚された大聖堂に戻った。



 *   *   *



 <創世の勇者>がいなくなってから、その場は騒然となったが、官僚のおかげで異世界からの勇者たちは落ち着きを取り戻した。


 勇者一行が案内されたのはオートリージェの王城の一室へと案内され、急ぎ料理が振る舞われた。本来ならば、そのまま王との謁見を執り行う予定だったのだが、如何せん、問題が生じすぎたためにそれは見送られることとなった。


 何せ、伝説の<創世の勇者>が召喚され、本来予定していたよりも多くの人間が現れてしまい。さらには<創世の勇者>が魔王城に乗り込んでいったのだ。

あまりにも早急な出来事だったので、思慮深く、常に思案を続け、驚くことの少ないオートリージェの国王でさえも目をむいて驚いていたのだから。


 その後、早急に貴族たちが収集され、さらにはその場にかつて<創世の勇者>が創った遠距離通信用の魔道具<総連の鏡>を用いて、各国の王すらも招き会議を行った。

 こんなにも大規模で早急な会議は歴史的に見ても初めてであった。普段争い合っている国ですら、招集に応じ会議は始まった。それほどに<創世の勇者>の出来事は大きかったのだ。




 そこでは、大体が強力な味方の登場に歓喜し、この機に魔族を攻めようという意見が多く出た。

もちろん、それを否定する国などない、はずだった………。


「その意見には賛同しかねますわ」


 その少女の声にその場にいた全員は驚きを見せた。否定意見は出ないと思っていたからである。


「それはどういうことですかな?」


 場が静まり返るが、今回の招集国の国王である<オートリージェ王国国王>セリドリック=フォン=オートリージェが代表として、その声を上げた者に尋ねた。


「これは失礼いたしました。わたくしは<ガーシャネーゼ魔術女王国女王>ハーミナス=フォン=ガーシャネーゼですわ。

 わが国には、<創世の勇者>の秘匿された伝承が伝わっておりますの。それを今回公開させていただければ、わたくしの考えが伝わると思うのですが、よろしいでしょうか?」


 そう言って、名のりを上げたのは美しい蒼の髪と美貌を持つ、だいたい十五歳くらいの少女だった。だが、見た目とは裏腹に一国の責を担う女王であった。


「よろしいのですか?」


 その言葉に一同は驚きを隠せなかった。高々、と言っては聞こえが悪いが、臨時の招集であるにもかかわらず、一国の秘匿された情報を伝えるというのは信じられないことだったのだ。


「ええ、かまいませんわ。どうせ<創世の勇者>様はお戻りになっているのだから、直にわかっていくことですわ」


「では、お願いいたします、ガーシャネーゼ女王」


「最初から、話し始めましょうか。

 <創世の勇者>は、二千年前かつて暴虐と虐殺の限りを尽くした歴代最強の魔王である<滅全の魔王>を討つために召喚された勇者ですわ。

 今では歴代最強の勇者と言われていますが、かつては歴代最弱の勇者と言われていました。魔法も唯一の<創造(クリエイト)>以外は使うことができなかったからですわ。ですが、そこから彼の勇者は人族の救済を求め、ひたすらに戦い続けました。その多くの戦いの果てに得たのが、世界を創り出してしまうような強力な<創造(クリエイト)>の魔法だったのですわ。

 あくまで、比喩だと歴史的には載っていますが彼の勇者は本当にできるやもしれませんわ。

 そして、ここからがわが国が秘匿とした歴史です。

 確かに、ここまでの歴史は間違ってはおりませんの。ですが、ここに交わるはその時々の<創世の勇者>の心情ですわ。

 彼の勇者の本来の目的は、人族の救済だけではなかったのですわ。彼の勇者は『平和』を望んでいたのですわ。魔族も人族も隔たりなく、ただただ同じ場所に暮らし、生活を育み、ときに争うもときに手を取り合う。それが<創世の勇者>が望んだ世界ですわ」


 その話にその場の全員は息をのんだ。自分の知っていた<創世の勇者>は人族を守るのではなく、すべてを守ろうとしていたということに。


 誰もが否定しようとした。「そんなことは妄言だ」、「嘘に決まっている」と。

 だが、この情報をもたらしたのがガーシャネーゼ魔術女王国だと話は変わった。その国は<創世の勇者>の歴史が一番残っており、<創世の勇者>について一番の情報があるといってもよい国だったのだ。


「本当は歴代の女王たちも秘匿にはしたくなかったようですが、こればかりは<創世の勇者>がいなければどうにもならないと判断し、<創世の勇者>が再び戻ってきたときに公開するようにしていたのです。

どうせ、<創世の勇者>がいなければどうにもならなかったのです。人族が、魔族が、どちらかが滅びるまで争い続けるとわかっていたからですわ」


 ハーミナスは悲しげにそう言い切った。だが、その表情は役割を務め切ったという満足感があふれているようだった。


「そ、そんな。我々はずっと<創世の勇者>が必要だっていうんですかっ!?」


 オートリージェ王国の貴族のひとりからそんな声が上がった。


「少なくとも民を平和に導くためには」


「そんなもの<創世の勇者>の望みじゃないかっ。魔族がいなくなれば我々が平和になるじゃないかっ!」


 これが現代の人族の考えだった。「魔族は忌むべき敵、滅ぼした時こそが人族に真の平和が訪れる」そんな差別で凝り固まった偏見からこの考えは生まれてしまったのだ。


「ええ、そうでしょうとも。それは彼の勇者の望みにしかすぎません。ですが、あなた方は魔族の営みを、温かみをご存じで?」


「えっ?」


 このハーミナスの言葉に大勢の者が驚いた。そんなものは考えたことすらなかったからだ。


「魔族だって人族のように普通の生活を送っているのですよ。何ら変わりのない生活を。確かに、魔族は我らの同胞の多くを討ちました。ですが、それは自分の生活を我々から守るためでもあったのです。

 どちらにも非はあるのです。魔族は害ではなく、ただよく知らない相手なだけです。知らず、怖いから、ないものとしてしまえばいい。その考えからこのような事態になったのです。歩み寄りもせず、可能性すら見ない。そんなだから、延々と二千年よりも昔からこの争いが続いているのです。

 かつてやって来た勇者様方は我々にいろいろなことを教えてくださったではありませんか。文化を、物を、考え方を。そうやって我々は勇者様方に歩み寄ってきたではありませんか。未知だからと言って怯えているだけではどうにもならないのです。

 憎しみを忘れるなとは口が裂けても言えません。各々がつらい思いをしたのですから。そう言うわたくしだって、いくばくかの親族が魔族との戦いで命を落としております。二千年前など、民の全員が滅ぼされました。だから、憎しみを忘れろ、なんて言えません。

 ですが、どうか魔族全体を憎むのではなく、殺した魔族を恨んでくださいませんか。これがわたくしの考えです」


 その言葉の重さに一同は沈黙した。

 魔族はただ害としか見ていなかった彼らにとって、今の言葉は非常に重いものだった。彼らとて戦闘卿ではないのだ。ただ、親族を、民を守りたいだけに過ぎないのだ。

相手にも守るものがあった。これを知らずにただ虫のように排除した。それを魔族という者たちに対して常日頃から行っていたのだ。心に来る負担は大きいだろう。


 また、このことに納得していないものもまたいた。自分の常識をいきなり違うといわれたようなものなのだ。当然の反応である。


 だが、あることには納得していた。何故なら、この国だけが積極的には魔族に攻めいっていないのである。




 そんな沈黙が続いていたが、それは崩れ去ることになった。


 突如として魔力場が崩れたのだ。

 魔力場が崩れれば、魔力が四方八方に飛び去り、魔法の行使が安定しない。さらに魔力に長く触れている者ならば、身体に影響を及ぼす。それが大きなものであれば、より強く。


「大丈夫か!?」


 当たり前のように<総連の鏡>での通信先には届かない。なので、オートリージェ王国内にいるものにしか影響は与えなかったが、その場が荒れたことを不安そうに見つめていた。


「こ、こちらは問題ありませんっ」


 その場にいた何人かの宮廷魔術師に被害があったもののそれ以外の国王を始めとした重鎮たちは被害が少ないようだった。


「何があったのだっ!?」


「はっ。大聖堂より巨大な魔力場が発生した模様です。先ほどまで、召喚された勇者様方がおりましたが、今は無人の模様です。ことを考えて<創世の勇者>様がお戻りになられたかと」


「そうか。……ただちに向かう、準備しろ」


「「「「「はっ」」」」」


 そう返事をするやいなや騎士たちは駆けていった。


「すまぬな、<創世の勇者>様がお戻りになられたようだ。途中のようで悪いが、今回の臨時会議は解散とさせていただく」


 そうして、次々に<総連の鏡>は切れていき、国王も準備を始めた。

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