004 学校と再召喚
オレは久しぶりの登校に少し緊張していた。昨日は、学校の屋上にいたわけだが、それはあくまでいただけであり、したのも下校だけである。
更に言うと、あれは帰ってきてから三時間後ということだ。つまりは、午後の授業をさぼったということだ。流石に、慣れてきたとはいえ、まだ二か月ほどしか通っていないのである。どんな目で見られるかは想像に難くない。
まぁ、そんなことを考えながらも、こっちに居た時のいつもの登校時刻に家を出た。
大通りに出れば、うちの高校の生徒が多く、他の高校の制服もチラチラと見かけた。そういえば、ここら辺にはいろいろな学校があるんだったな。
そのまま、一人で歩き続け、学校に入り、あるところによってから、教室の自分の席に着いた。久しぶりすぎてどの席かわからなかったが、なんとか思い出して幸いどうにかなった。
「おっす、暁。昨日の午後の授業、来なかったけど、どうしたんだ?」
オレが席に着き、準備をしているとそんな声がかかった。
「おはよう、沢村。昨日はあいにくと用事が入っていて、早退したんだよ」
実は真っ赤な嘘だが、ここに来る前にそういうことにしておいた。書面上では嘘ではないので。オレは改めて<創造>の偉大さに感服していた。
こいつの名前を思い出したのは、ギリギリだったがなんとか間に合った。
「なんだ、そういうことだったのか。なら、言ってくれればよかったのに」
「すまん。忘れていた」
「……それはそうと、お前なんか変わったか?」
ギクッ。
オレは心の中で激しく動揺していたが、それを表には一切出さなかった。
グッジョブ、オレ。
「そうか。オレは何もわからんが」
「ほら、その一人称と口調。お前、自分のこと僕呼びだったはずだし、口調もそんな荒くはなかったぞ」
ギクッギクッ。
「そうか? そんなことないと思うぞ」
オレは極めて、冷静にそう言った。
「そうか、まあいいけどよ」
そうして、沢村は何事もなかったかのように去っていった。万事休すである。
そういえば、オレはあっちの世界で一人称も口調も変えたのだ。完全に忘れていたが。
それから、時間が経ち昼休みを迎えた。
授業の方は何となくおぼろげに覚えていたくらいなので、これは復習しないといけないと思った。まだ、高校の初期の方で助かった。高校三年とかそう言うレベルだと理解できなかった自信がある。
「兄ぃ。ご飯食べよ~」
そして、何故か京里が来た。
そう言えば、オレの分の弁当が置いていなかったので持ってきていなかった。忘れられていたのかと少し悲しくなっていたが、京里が持ってきていてくれたというならよかった。
でも、オレは京里と昼休みに一緒に飯を食っていた記憶はない。
たぶん、兄妹だということは〝暁〟という珍しい苗字なので、学年全体に知れ渡っているかもしれないが、別段仲が良すぎる兄妹ではないのだ。
オレはオレで。京里は京里で。
まぁ、京里は昔から兄離れが少し遅いと思ってはいたが、オレはいい妹としか思っていない。だから、京里の行動がいまいち、腑に落ちなかった。
「わかった」
「屋上でいい~?」
「ああ」
そう言うわけで何故か起こっている謎パートを進行させることにした。腹も減っているし。京里の飯、美味しいし。
「なぁ、どうしたんだ、京里? いつもは一緒に食べないだろ」
オレは屋上について開口一番に京里に尋ねた。屋上には誰もおらず、オレと京里のみだった。
その言葉に京里は一瞬きょとんとして、首をかしげたままこう言った。
「ん? いつものことじゃん」
——………えっ?
確かにオレの中には京里と昼飯を食っていた記憶がない。でも、そうなるといろいろおかしい。まず、京里は、冗談は言うが嘘はあまりつかない。これは自信を持って言える。そして、京里がオレの教室に来たときの周りの反応だ。どちらかと言うと周りは全く反応していなかった気がする。思い出してみれば「またか」という声も聞こえた気がする。
何かがおかしい。
だが、この時のオレにはまったく見当が付かなかった。これがあの出来事に繋がるのなら早く気が付いていればよかったのに。
結局、腑に落ちないことがあったが、それはわかることはなく、下校時刻になり、オレは一人で下校した。
ああ、甘味が食いたい。
途中、ある喫茶店から流れてきた甘い匂いに危うく誘われそうになったが、金欠気味のオレの財布では到底払えないので、あきらめた。
くそっ。あっちならエグイ量の魔物を討伐していたから、金はあったのに。如何せん、飯はそこまで美味しくはなかった。米とかもあったけれど、こっちのほうが断然おいしい。甘味もそこまではなく、「歴代の勇者、仕事しろよ」と言ってやりたかった。
* * *
オレが帰還してから、一か月が経った。
未だ腑に落ちない部分があるが、平和な学校生活は戦いに身を置いていたオレにとって娯楽でもあった。
勉強の方も万全で勇者としてのオーバースペックで暗記した。
たまに、いきなり背後に立たれたときに危うく剣を創り出してしまいそうになったが、大丈夫だった。まさか、オレのクラスに<気配感知>を抜けるやつがいるとは思いもしなかった。
そんな平和な日々でオレも気が抜けていたのかもしれない。
それは突然の出来事だった。
ある日の昼休み、天気は快晴とは言えないものの晴れていて気温的にも少し暑いくらいの日だった。
「兄ぃ、ご飯食べよ~」
「わかった。少し待っていてくれ」
最近では日常になり、あまり気にせずオレは京里についていこうとしたが、今日は少し違った。
前の授業が数学で、ある問題が解き終わっていなかったので、その問題を解こうとしていたのだが。あいにくと少し難しく、わからなかった。
「兄ぃ。それはね、こうするんだよ」
気が付けば、京里はオレの背後にいて問題を教えてくれた。
「おお、そうするのか。……よし、行こうか」
「うん」
そうして、オレは京里と一緒に教室を出るはずだった。
だが、それはできなかった。
突如として、教室を覆うようにして、幾つもの魔法陣が浮かび上がった。白い光を強烈に放ち、普通なら目も開けられないほどの光量だった。
オレもその一人だったが、この魔法の発動兆候からどんな魔法かはわかっていた。
「京里、オレにつかまっていろ」
「……うん」
この魔法は魔法が使えないオレには防ぎようがなかった。
「まさかな」
だって、その魔法は<召喚>の魔法なのだから。
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