020 章末 高校生ねぇ。
これは再召喚に会う前の一か月間のうちの一日を書いた日常回です。
適当に書いてみたので、楽しんでくださいますとこちらもうれしいです。
オレが異世界とか言う謎の場所から帰還して数日が経ったある日。オレはいたって普通の登校をしていた。徒歩二十分ほどの道のりを早くも遅くもないペースで歩いていた。徒歩二十分もかかるのならチャリ通でいいじゃん、と思われてしまうだろうが、オレ自身の性格的な問題で雨天時などに登校の時間がズレることが嫌だったからであった。
「平和っていいなぁ」
思わず声に出てしまったが、本当にその通りであった。
公道を歩いていても魔物とか言う化物もどきは襲い掛かってこないし、たまにいる盗賊なども当然いない。強いて言うならチンピラはいたが。そのくらいだった。
しばらくして校門にたどり着き、下駄箱で靴を履き替えて教室に向かう。未だ慣れたとは言えないが、自分の席に着く。運よく窓側に……とかはなく、どちらかと言えば真ん中の席だが、そこは気にしていなかった。
まだ、教室内にはちらほらとしか生徒はおらず、少し早かったか、と心の中で呟いた。
「おはよう、暁」
「ああ、いたのか。おはよう、沢村」
「いや、お前より早くここにいたぞ。気付けよ」
「そうなのか? 今度から気を付けるよ」
姿を消している(本人曰く影が薄い)沢村に挨拶を返し、いつも通りのような平和な日常が始まったのを感じた。
まぁ、沢村本人は朝からダメージを負ったようだが。
「なぁ、聞いてくれよ、暁。昨日な、隣の席の西城さんに声をかけたんだよ、用があってさ」
「ああ」
「そしたら、こう言われたんだぜ。『えっと、誰だっけ』って。こう、なんだろうな。まだ覚えていないクラスメイトもいるだろうけどさ、隣の人に覚えてもらえてないって結構ショックだよな」
「ああ」
「別に俺をいつも気に留めておけって言ってるわけじゃないけどさ。それでも、あれは心に来たなぁ」
「ああ」
「でさ。……って、暁。聞いてるか?」
「ああ」
「おい、暁」
「なんだ?」
「聞いてたか、今の話」
「すまん。聞いてなかった。悪気があったわけじゃない。ただ……」
「ただ。なんだよ」
「あれ」
オレは非常に端的に、かつ明瞭に、それを示した。具体的にはその方向に指を向けた。
そこはオレのクラス、1年E組の教室から見えるグラウンド。詳しく言えば、その一角の陸上部が60メートルハードルを行っている場所だった。
二階にあるこの教室からは、少なくともオレの席からはそこを見る事ができた。そして、そこを見たことで目に入ったのは、ひとりの女子が悠々と駆け抜けている光景だった。
「えっと、あれは。……お前の妹か?」
「ああ、その通りだ」
駆け抜けた本人は、息を整え、練習に戻っていく。そんな姿が見えていた。
「どうした? シスコンこじらせたか?」
「違う。……ただ、綺麗だなって思っただけだ」
「いや、シスコンこじらせたっていうんだぞ、そういうの」
「だから、違うって。ただ純粋に。人間として、とかじゃなくて、芸術的に綺麗だなって思ったんだよ」
「ま、それはそうかもな。たしかにあれは、芸術的な美しさがあった、と俺は思うが」
「だろ」
日本に戻ってきて、そういった些細なことを綺麗だとか、美しいとか思うようになった。ただの部活動のワンシーンでさえ何かしらを感じるようになった。今のもそうだ。あちらの世界とは違いただ純粋に、競技として体を鍛える。そして、ただ走る。それだけの行為でさえ綺麗だと思った。
「だが、自身の妹を見て、そういう感想を持つってことはシスコンをこじらせたようにしか思えないぞ」
「いや、なに、断じてシスコンではないが、京里はできた妹ではあるぞ」
飯もうまいし、家事も掃除もおまかせ。家庭に一人欲しいね。まぁ、家は譲らんけども。
「それをシスコンだというと思うんだけど……。真性の方には理解できない話でしたね」
「だから、真性でもなければ、シスコンでもないと言っているだろうに」
「はいはい。そんなこと言ってたら結構時間経っちゃったよ。今日の宿題まだ終わってなかったから、あとでな」
「ああ」
そんなこんなで、朝のフリータイムは終わりを告げ、授業が開始した。
授業はまだいくつかわからない点はあったが、放課後に勉強に勤しんだおかげで、なんとか平均ラインまでは持ってこられた。範囲が短かったというのもあるのだろう。そういうわけで、現状に特につらいことはなかった。
――キーンコーン、カーンコーン
「起立、気を付け、礼」
『ありがとうございました』
「……ふ~う」
ようやく、四時間目が終わりを告げ、昼休みとなった。わからないことはないといったが、あくまで今までの勉強は、という意味であって、この先の範囲の予習を終えているというわけではない。だから、座学と言えど、授業に集中していれば疲れが出てしまうのだ。
いや、下手すれば実技教科の方が楽かもしれない。体育は勇者スペックでどうにかなるだろうからな。
「よし、行くか」
どこに、か?
決まっている。飯を食べに、だ。
数日とは言え、いくらか慣れも出てき始め、昼休みにこうして教室から移動するのは普通のこととなってき始めていた。
「待ったか?」
「ううん。今来たとこだよ、兄ぃ」
そんな会話を始めながら、今日もオレは妹である暁京里の待つ屋上へとやってきた。ここのところ晴れが続く日々で雨が降った場合にどうするかは決めていないが、京里の持つ昼弁を食いにやってきたわけである。
「さて、今日は何かな」
「今日はね~。サンドイッチでした」
屋上と言えば、生徒が多そうなイメージがあるが、そんなことはなく、この昼休みという時間はオレら以外来たことを見たことはなかった。少なくとも帰還後から。
ゆえに、オレと京里はこうして兄妹水入らず的に昼食をとっているのである。
「ほぉ、これはうまそうだな」
市販の弁当箱からのぞくのはハムサンドやら野菜サンドとなかなかに種類が豊富なサンドイッチの数々だった。その小さく長方形に切られた食パンに挟まれ、並びに並んでいる姿はどこか食欲を湧きだたせた。
「そうでしょ~」
「ああ。だが、翌朝の短い時間でこんな豊富な種類をつくれたな」
「まぁね。こう見えても私はとても器用ですから、同時作業でつくったのだよ」
ふふん、と鼻を鳴らす京里。何というか、カッコつけようとしているのだが、どこか微笑ましさを感じた。
「それじゃ、」
「「いただきます」」
二人そろって手を合わせ、食事を始めた。
まずはありふれたタマゴサンドを食す。
(ん~。ゴロゴロとした触感が残っていて、マヨネーズは控えめだけど舌触りがいい。というか、触感から言って手作りのようだな)
小さい量だったので、すぐに食べ終えてしまった。だが、それとは裏腹に充実感があった。それでもまだ物足りずに無言で次のサンドを頬張る。
(野菜サンド。野菜の量と言い、組み合わせと言い。さらには調味料の加え方と言い。完璧に近いサンドだな)
シャキシャキ、と音を立てる野菜のサンドはボリュウムがあるわけではないが、心の癒しというか、そんなものをもたらした。
「うまし」
「うふふ、そう~。よかった」
京里も同じテンポで食していく。
「そう言えば、兄ぃ」
「なんだ?」
会話という会話は少ないが、静かに食事をするのは家族だからだろうか。そんなことを思いながら問いかけてきた京里に対し、ハムサンドを頬張りながらそれを促した。
「レイカ先生が兄ぃのことを気にしていたようだったよ。なんでも『以前より出来が悪くなったような気がするんだが』とか。勉強ついていけてるの?」
「そうか? そんなことはないと思うんだがなぁ」
話に上がった『レイカ先生』というのは、一年生の数学分野を担当している条領冷香先生のことである。真面目が服を着て歩いているような人だが、面倒見がよく条領という名が呼びづらいこともあり、生徒全般から『レイカ先生』と呼ばれている。
ちなみに、担当しているクラスはA、D、E、Fクラスなので、オレとも、Aクラスの京里とも面識がある。
「でも、少し前までは私が兄ぃに数学を教わっていたくらいできてたじゃん」
「そうだったっけ? だが、今でもそんなに悪くない点数だったとは思うんだけどなぁ」
数日が経ったと明言していたが、その間には実力テストという恐るべきものを受けた。当然、勉強を急ピッチで復習したために出来がいいとは言えなかったが、目が当てられないというわけではなく、平均的な点数だった。
「でも、兄ぃ。受験の時の数学の点数は?」
「………確か、98点」
「ほら」
「確かにな」
覚えは薄かったが、中学の時は何となしに受けたテストでも数学だけは必ず合格点を超えた。それを集中的に勉強していた受験はいい点数だったというのは頷け無い話ではなかった。
……他人事だったのなら。
それが自分の話となるとどうしても首を傾げてしまう。実感が薄いというのが、大半だろう。点数が良かった。それなら自分じゃなく、テストが安易じゃないのか? とか。そんなことを考えてしまうのだ。
「まぁ、どうでもいいじゃないか。70超えてればすべてよしってね」
「いや、69点じゃん。兄ぃの今回の数学のテスト」
「じゃあ、65超えればすべてよしってね」
「フォローになってないし、前言撤回してるし」
「いいんだよ。赤点さえとらなければ」
「ま~、それはそうなんだけどさ。妹としては兄がそう言うことを言うような人間にはなってほしくないなぁ~、なんて」
パクッ、とツナサンドにかぶりつきながら京里はそう言う。
「何を言っているんだ、今更」
オレも同じくツナサンドにかぶりつきながら言う。
「お兄ちゃんは割とダメな奴だぞ」
肉体年齢16歳、精神年齢19歳。年齢=彼女いない歴で、友達すら少ない。力とかそう言ったものは勇者スペックで何とかなっているが、対人関係とかは絶望的な人間的に割とダメな奴。それがオレ、暁悠汰である。
* * *
地味にダメージ(自虐)を受けつつ、時間的に昼休みが終わりを告げたので、オレは教室に戻ってきた。
ちょうど話に出ていた数学の時間が、タイミングを計ったかのように次の時間だったことに少し驚きつつも授業を受けた。外見はびしっとしていて鋭利な目つきはやましいことを持っている生徒には厳しく見えるが、反面、性格は真面目で優しい。ツッコみ属性を持っていることも確認済みである。ちなみに、美人なために秘かにファンクラブ的なものもあるらしい。
「――これからわかる通り、x<4であり……」
いや、わからないよ、と心の中で思いつつ、現実逃避気味に視界を窓の外へと移した。そこから見えるのは数日前から変わらない穏やかな空模様。蒼穹の空に真っ白な雲が浮き立ち、背景には燦々と輝き照らす太陽。異世界とも変わらない風景ではあるが、やはり故郷としての空はどこか落ち着くものがあった。
――キーンコーンカーンコーン
「起立、気を付け、礼」
『ありがとうございました』
ボーっとしていたらどうやら授業が終わったらしい。
「さて、あと一時間か」
そんなことを呟きつつ、放課後、つまりはある程度の自由が得られる時間へと思いをはせた。
――キーンコーンカーンコーン
「起立、気を付け、礼」
『ありがとうございました』
計六~八回位目のやり取り的なものを終えて、下校の準備をする。下校の準備と言っても家に帰って予習復習するわけでもないので、ロッカーに教科書の類はすべて入れてあるので、たいしたことはなく、ものの三十秒で終えてしまった。
「帰るか」
先も述べた通り友達が少ないと評判なオレになので帰りに誰かを誘う、とか言う事はない。ゆえに下校はいつも一人だった。
「ちょっと待て、暁兄」
下校に際して廊下を歩いていると背後から声がかけられた。まぁ、気が付いてはいたが。
「なんですか、レイカ先生」
「条領先生と呼べ、暁兄」
毎度おなじみ的な感じでツッコみを入れてきた黒の長髪の麗人。だが、雰囲気的には一切そう言ったものを感じさせない。いつもこうやってツッコみを入れてくるこの先生はどうやら条領先生と呼ばれたいらしい。
「いや、ツッコみはいいですから。で、何の用件ですか?」
「そうだったな。……いや、待て。条領先生と呼べよ。おまえ、そうやって話題をそらそうとするな」
「いやいや、別にそういうわけじゃありませんよ。でも、まぁ、用がないなら帰りますが」
「すまん、私が悪かったから話を聞いてくれ」
スタスタと歩いていこうとするオレを物理的に止めようとして懇願する女教師。だから、この先生はからかわれてしまうのだ。
「わかりましたよ。で、改めて何の用件ですか?」
「いやなに、たいした話ではないんだが」
(そうなのか……)
あれだけ懇願しておいて、たいした話ではないというのはなんだかこの先生らしく笑ってしまいそうになったが、今は話を聞くことにした。
「おまえさんの点数が悪くなっていたからな、わからないところでもあるんじゃないかと思っていてな。それでわからないところがあれば、いつでも教えるぞ、と言いに来ただけだ」
「ふ、はははは」
我慢できず吹き出してしまった。いや、おせっかいが過ぎるとは思っていたが、ここまでだったとは。オレの見る目もだいぶ落ちたものだ。
「なぜ、笑う!?」
「いや、そんなことか、と思いまして」
「そんなことでもないだろう。私の授業で点を落とす奴がいれば、それは私の責任だろう。だから、それをカバーするのは当たり前だ」
何というかこの人の責任感はとてつもなく強いものらしい。そして、オレはその意気込みは嫌いじゃないな。
「別に先生のせいじゃないですよ。ただ勉強をしていなかっただけですよ。オレが点数を落としたのはオレのせいですよ」
「そうか。でも、わからないところがあればいつでも来いよ」
「はい。わかりました」
そう言い残し、レイカ先生はオレのもとから去っていった。何というか、現代にはない熱血な教師だなとオレはただ単純にそう思った。
「ただいま」
「………」
いつも通り家には誰もいなかった。まぁ、実質、京里と二人暮らしのようなものだから仕方がない。京里は京里で陸上部があるのだから。
そんなわけで物静かな我が家に帰ってきたわけだが……。
「暇だなぁ」
荷物を自分の部屋にまとめ、片付けと着替えを終えた。そして、現在やることがなく現在進行形でリビングにおいてだらっ、としていた。
「そうだ、掃除をしよう」
そう思い、掃除器具を探してみるが。
「すでにきれいだ」
京里の習慣的な掃除によって、汚れというよりごみや塵すらも残ってはいなかった。
仕方がないので、掃除をやめ、そういえばと思い出したアニメを見ることにした。オレはオタクという人種とかではないが、京里の影響でアニメやら漫画やらラノベやらと暇つぶし程度には趣味を持っていた。
この事柄から言えば京里はオタクなのだろう。どの定義でそれが決まっているのかは全く見当もつかないが、たぶんそうだと思う。部屋を見れば、ずらっとラノベ、ずらっと漫画、壁にはポスターやらなんやら。オレにもすでについていけないほどだった。そんなでも清潔感はきちんとわかるのだから不思議なものである。
「ただいま~」
「おかえり」
六時を過ぎたころ京里が帰ってきた。
「ごめん、兄ぃ。汗が気持ち悪いから、さきにお風呂入ってくるね」
そう言いながらリビングに顔を出した京里は、なるほど通りで気持ち悪いわけだ、とオレに思わせるほど汗をかいていた。たぶんだが、相当に練習がハードだったらしい。
「別に謝ることはない。早く風呂入ってきな。それと晩飯は簡単なものしかできないがオレが作っておくからゆっくり湯船にでもつかってこい」
「わかった。よろしく」
「ああ」
疲れている妹の代わりにオレが飯を作ることとなった。というか、いくら料理のうまさがあるとはいえ、陸上部の妹と帰宅部の兄ではどちらが料理担当であるべきかは、言わずもがなだろう。
まぁ、京里の飯がうまいのは自然の摂理よりも確かなことなのだが!!
「さて何を作ろうか」
口に出してみるもなかなか思いつきはしなかった。というか、そもそもオレは料理がそこまでうまくはない。できないとは言わないが、男飯の域は越えないだろう。
「う~ん」
冷蔵庫を見ながら、そこにある素材を使った料理をざっと思い出してみる。そして、炊飯器の中に余っている米を見つける。
「よっし、チャーハンを作ろう」
簡単なものしか思いつかないが、まぁ、ないよりはましだろうとざっと作ってみた。具材は多めにせず、食べたことがあっておいしかったなぁと思ったもののみ入れて、数十分もしたのちに完成した。
「まずくはない」
――決しておいしいとは言えないが。
とは、心の中のみで零し、お疲れの妹にすぐに出せるように盛り付けをした。あとは適当にサラダでも、とサラダも野菜を盛り付けて食卓に並べた。
「兄ぃ、できた~?」
ちょうど食卓に並べ終わったタイミングで風呂上がりの京里がリビングにやってきた。風呂上りというのは一目でわかるほど火照っているようで、兄からすれば湯冷めしないかが心配になったが、きちんと就寝用の洋服に身を包んでいるので、それは大丈夫のようだった。
「ああ、雑把だが、これ以上のものは勘弁してくれ」
「ありがと~」
「どういたしまして」
そんなことを交わしながら互いに席に着いた。
「「いただきます」」
そうして、二人で晩飯をとったのだった。
「はー」
風呂につかるというのはどうしてか、とても心地いいものである。異世界にも風呂の文化は多少なりともあったが、自宅の浴槽というのは違いがあるようだ。なんというか、安心感や安堵感といったものがあるのだと思う。
とにかく、落ち着くのだ。
「あ゛~」
伸びていく、体が。
それにしてもこっちに帰ってきて不思議なことがある。というか、そもそも異世界に行ってきたっていうのもアレな話だが。
それは力加減の問題だ。確かに化物並みの力を持っているオレだが、私生活に支障をきたすということは今までも少なかった。ちょっと力が入って手に持っていたものを握りつぶすということはあったが、それでもその他はなかった。
「そう考えてみると不思議だよなぁ」
例えば、マラソン。化物並みの能力を誇るオレは42.195キロを二分で駆け抜けるほどのことができる。脚力、持久力、ともに化物だ。だが、意識しなければ普通の人間並みの速度で走れるし、歩ける。当然、体力の消費は軽いが。
加減しなくても慣れたのか、慣れたから加減できているのか。どちらかはわからないが、不思議なことではあった。
「まぁ、どうでもいいか」
ともあれ、風呂を満喫したオレはそのまま部屋に向かう。特になにもすることがないしな。家事全般は京里の分野だし、オレの出る幕はない。
こう振り返ってみるとだいぶ役立たずだな、オレって。
オレの部屋は、なんというか質素で特にこだわりというものがなかった。学校に必要な教科書の類、机、椅子、ベッド、洋服ダンス。そんな必要最低限の家具だけが揃っているような部屋だった。
この中で目立つのはパソコンや本棚に少し並んでいる本(ラノベ多数)くらいだろうか。
毎回、京里がこの部屋に入ると「趣味はあったほうがいいよ、兄ぃ。というか、もっと飾ろうよ」と言ってくる。さらには「兄ぃだって年ごろだろうに、エッチな本のひとつもないなんて」とも言われた。
いや、ないのは事実だけど。健全な男子高生とは言えないのが、オレなのだが。
普通かどうかわからないが、そう言った本すら集めることが苦手ではあった。なんというか、生活感のないそんな部屋が好きだった。これは病気なのだろうか?
まぁ、多少なりとも自分がおかしいのは知っているが、どうしたらいいのか見当もつかないな。友達と呼べる人種も少ないし。
「はぁー」
そんな部屋の中で唯一と言っていいほど生活感が残っているベッドにダイブした。
「何を悩めばいいんだろうか」
これが最近の悩みである。こっちの世界でオレがいなかった時間は三時間程度。だけれど、その間に三年という月日を味わった。現実かどうかはオレの唯一の魔法<創造>が使えていることやその他のことから分かる。
「何というかなぁ」
現実感が薄い。もちろんそれは帰ってきたこの世界のことだ。地球での生活のことだ。
「いや、現実感というより中身かな」
魔族の軍隊に単独対処、人族の軍隊に単独対処。魔物や魔獣狩りに、武器の生成。どちらがハードな人生か言うまでもない。だから、日本のような何気ない日々というのは憧れではあったが、退屈なものだった。
「するべきことも、やるべきことも、たくさんあるんだろうけど。オレにとってはそれらは必要なものだろうか」
まぁ、いいや。
「おやすみなさい」
オレはそこで思考を放棄し、眠りに落ちた。ただこの望んだ世界が思ったよりも退屈で、あの世界を完全に平和にできなかったなぁ、と若干の後悔を抱きながら。
感想評価などあればお願いします。




