018 準備と鍛冶
あれから、やることが決まっていき、栢木たちも着々と実力を伸ばして行った。京里も最初の方はオレといることが多かったが、次第に魔法についての勉強に専念するようになりオレは単独行動が多くなった。
まぁ、京里はファンタジー好きだし何かに専念することはいいことだ。たまに、高度な魔法陣魔法について聞いてくることからかなり学んでいることが分かった。
そんな日々が続き、さらに一か月が経った。
リナに会うまでは暇を持て余していたオレだったが、『休戦協定』の準備は多忙を極めた。と言っても、難しいことはなく準備が終われば決行はできる状態になる。
「ふー」
少し振り返りながらもオレは息をついた。額には大粒の汗が浮かんでおり、首にかけてあるタオルでそれを拭った。
「暑いな」
月はよくわからないが、気温的に外は夏真っ盛りだった。ここは日があたらないとはいえ、風通しがよくないということもあり、熱気が体に纏わりついてきた。
オレがいる場所は小屋といえばいいか、名前はないが鍛冶場のような場所だった。王城から外れた場所にあるひっそりとした場所で、町中にあるが目立つことのない場所だった。
本来なら、『休戦協定』はなんか部屋に籠って永遠と書類を書き続けるような作業を必要とするが、あいにくとオレが使うのは〝第三勢力による休戦化〟であるためにそれは必要なく。『休戦協定』に必要なものを創っていた。
「すいません。誰かいますか?」
そんなとき、店でいうところの入り口。ここでいえば、たくさんの武器が並んでいる場所から声が聞こえた。その声は少女のもののようで、どうやらここに用があるようだ。
「はい。何でしょうか?」
すぐさっきまで作業をしていたが、ちょうど境だったのでオレは声の上がったほうに顔を出した。シャツに半ズボン、首にタオルという格好であったが、無礼にはならないだろう。作業着だし。
「あ、こんにちは」
「こんにちは。それで、何用ですか?」
オレを呼んでいたのはたぶんオレと同い年くらいの少女だった。長い銀の髪を垂らし、こちらを見て驚いたように見開いたのは美しい金の瞳だった。そして、その少女、いや、オレ観点では十分な美少女の服装は見覚えがあった。
「えっと、ここに珍しくて品質の高い魔道具があるといわれて来たのですが、ここは武器屋? でいいんですよね?」
銀髪の少女は不思議そうに店内を見渡す。いや、正確には店内ではないが、彼女からしたら店内だろう。
見渡した先には確かに武器とは言えなくもないものが多くあった。
柄の部分が極端に短く明らかに投擲目的に作られた剣。
一見普通に見えるが担い手からしたら間違いなく批判を受けるだろう槍。
何というか地獄の番人あたりが持っていそうな盾。
………etc.
「まぁ、そんなところです。お伺いしますが、学生さんですか?」
「はい、そうです。王立学園に通わせていただいているのですよ」
そう、少女は日本ではまず目にかからないコスプレのような制服を着ていたのだ。見覚えがあったというのもかかわりはなかったが、たまにこの制服を着た少年少女がここを訪れるのだ。一か月前にここを開いたというのにすごい頻度であった。だが、どうやらこの緑を基調としたコスプレのような制服がこのオートリージェ王国の王立学園のものだったのか。
「学園ですか? 優秀なんですね」
オレは驚いたふりをして、少女に称賛を送った。
「ありがとうございます。……で、魔道具を見に来たのですが」
「ああ、すみません。えっと、こちらですね」
すでにオレにとっても複雑怪奇な場所となっているが、一応区画は分けてあるのでその区画を示した。少女はそこの品を食い入るように見つめ、驚きをあらわにした。
それにはオレも驚いてしまった。まさか、〝見えたのかっ〟と。
「す、すごいです。効果が見えないなんて、初めて………」
その独り言を聞いてオレは秘かに安心した。というか、見えてしまうのなら正体が知られることはないと思うが、近づかれてしまう可能性があるからだ。
「すみません。〝見えない〟とはどういう意味なんですか?」
魔道具に集中していたせいでオレの存在を忘れていたようで、少女はまたもや驚いていた。いや、その反応はある意味正しいかもしれないが、相手の心は傷つくものだぞ。
「えっと、あーっと。……………忘れてもらえませんか?」
少女は長い空白を開けてそう言った。オレの解答? すでに決まっている。
「無理です」
無言のごり押し。よくあるだろう無言の笑顔にはいかなる弁論ができないということが。
「………………自己紹介からしましょう。ボクはアルーナ=ニクルス、オートリージェ王国王立学園の一学年生です」
実は、ボクっ娘らしい少女は観念したのか、無駄だと悟ったのか。自己紹介から始めるようだった。
「自分はヒュータ=アーツキーです。ここで鍛冶師をしています」
オレはこの前作った偽名と設定を使って自己紹介に応じた。名前のセンスなど最初からないとわかっているので、適当に似た発音のものだ。
ちなみに設定は特にない。蒼い瞳と髪のいたって普通の少年で鍛冶師というだけだ。
バレるのだけは勘弁してほしいので、少女には悪いが偽名で通させてもらう。
「あまり話さないで欲しいのですが、ボクは<天鑑>を持っているのです」
「それはすごいですね。驚きです」
特殊技能:<天鑑>。<鑑定>の上位互換に位置するその能力はオレ自身も詳しくは知らないがあらゆるものの特性を見抜くことができるらしい。まぁ、でも流石にすべてというわけではないらしい。
もしそれが可能ならいくら【魔法隠蔽】を用いても通用しないというわけで、【存在隠蔽】も【閲覧隠蔽】も不可能ということになってしまい。オレの店のすべては公になってしまうというわけだ。
言葉通り驚きである。
「んー。薄い反応ですね。もしかしてボクのこと知っていましたか?」
オレの反応が不服のようで少女はそう聞いてきた。
「いえ。これでも驚いていますよ。ただ感情が顔に出ずらいものですから」
内心では「あっぶねーっ」と大声で叫んでいるが、それは表に出さずにいるだけだったので、適当に話を作っておいた。
「効果の方はそこに書いてある通りです。自分は<鑑定>持ちの知り合いがいないので、完全には保証できませんが、自分的にはいい出来栄えだと思っています」
話をそらすように魔道具の方を指してそう説明した。
そこには傍から見れば何の変哲もない装飾品の類が飾ってあった。
はめ込んだ鉱石にかすかだが魔法陣が描かれている指輪。
細部まで手を入れられそのすべてが効力を発揮する腕輪。
その他、ネックレス、イアリング………etc.
「そうですね。どれも<天鑑>を使っても見えない代物ばかり。こんな魔道具は初めて見ますよ。それにどれも手が込んでいますね」
——当たり前です。【効力隠蔽】をつけていますから。
心の中でそう呟き、少女がそれらから選び終えるのを待った。
結局、アルーナと名乗った少女は飾ってあったうちの自信作を幾つか手に取って買って行った。見えてはいなかったらしいが、感知はできたらしい。
一人になり、静かになったところでオレはここを開こうと思った時のことを思い出していた。
* * *
魔王城から帰ってきた翌日。
オレは『休戦協定』の計画を進めるために王宮の一部を貸してもらって作業を進めていたのだが……。
「うん。進まない」
オレは大勢の人が集まったその部屋でそう呟きを漏らした。その部屋は鍛冶作業には明らかに邪魔になる冷房魔法が使われており、鍛冶作業は進まず。オレの魔法陣を描く作業を眺める者ばかりだった。
「……てか、鍛冶仕事できないんだがっ!!」
オレは声を荒げ、部屋を占める人たちに視線を向けた。
「も、申し訳ございません。ですが、その<刻印魔法>は今の時代には劣ったものでして。ましてや、優秀すら生温い魔道具、いえ、アーティファクトの数々を生産されていくその手腕。我々が学ばないといけないものでございますゆえ」
代表してあきらかに職人の男性が言い訳を始めた。
「知るか! どっかでやれ。オレの邪魔をするなっ!!」
「いえ、いえ。決して邪魔にはなっておりません。我々はその失われた<刻印魔法>を! 学び、広めていく使命があるのですからっ!!」
その男に合わせて後ろにいる職人たちも一斉に頷く。目を輝かせながら流暢に語るその姿はまるで夢にあこがれる少年のようで……。
——それが果てしなく気持ち悪かった。
「うん。わかった。オレは出ていく。――【創造:<転移魔法陣>】。起動」
刹那の間に魔法陣が形成し終え、蒼い光が部屋を埋め尽くす。
次の瞬間には、目を輝かせた男たちだけがその部屋に残った。
「ふぅー。よし。静かなところで鍛冶仕事をしよう」
オレはオートリージェ王国の王都。活気のある街の中を平然と歩いていた。別に目立つこともなく、少し長くなり視界に映るようになった蒼い髪を揺らして、蒼い瞳でその活気づいた街並みを眺めながら、オレはある建物を目指して歩を進めていた。
「よし、これの性能は抜群だな」
その最中、街にあるガラスで姿かたちを確認して、オレは独りでにそう呟いた。そして、手元の指輪を見つめた。
「<姿擬の指輪>。出来栄え良く創れただけあるなぁ」
魔力を少量だが常時流し続けることで、人物を見分ける時によく見る髪と瞳の色を魔力の色に変質化する魔道具。それによって、黒だった髪と瞳は蒼に変わっていたのだった。
それを見終え、オレは目的地に向けて歩いて行った。
「いらっしゃいませ」
オレは建物の前に着くと当たり前のようにそこに入った。そこは何があるでもなく、こじんまりとした店だった。
「鍛冶仕事のできる目立たない場所の物件はあるか?」
そして、躊躇なくそう言った。
そうここは、いわゆる不動産屋だった。
……………。
「ええ、ちょうどいい物件があります。これはどうですか?」
「いいな。そこをもらおう」
「では、これに………」
「ああ、わかった………」
* * *
という風にして、この辺鄙な場所にある物件を買ったわけだ。金については腐るほどある(王様相手に叩き売りをして国家予算並みの金貨がある)し、辺鄙なところならば静かで作業もしやすい(職人に見つかる可能性も低い)ということもあり、ここに住んでいる。
何故か京里は一週間後くらいに当たり前のような顔をしてここにいたことがあったが、それ以外では見つかっていない。……あとは武器を求めてとやってきたクラスメイトとかもいたが、絶対秘密にすることを約束させたので大丈夫だろうと思う。対価としてオレが腕によりをかけた剣を造ってやったが。
ともかく、そんな感じでアーツキー工房を建てたわけだ。よくこんな場所に客が来るものだと思うが、王都だし、逆に全く人が来ない方が珍しいというわけではありそうだ。
ここで疑問に思ったことがあるだろう。
オレの唯一と言ってもいい能力。すなわち、<創造>である。それがあるにもかかわらず。一瞬で剣を創ることができるにもかかわらず。
何故、鍛冶をしているか。
——答えは簡単である。
まず、<創造>について説明するとすれば、
利点として、何もないところから物質を生み出すことができる。ただし対価として魔力を払う。イメージ通りに創ることができ正しくイメージすれば何でも創れてしまう。
欠点として、魔力を大幅に消費する。集中力が必要。出来栄えがイメージに左右される。
と、このような説明ができる。
つまり、<創造>で創ったものと鍛冶で造ったもの。どちらが優秀にできるかは言うまでもなく、鍛冶であったからだ。
ただし、例外はある。オレは鍛冶の腕に自信はあるが、ファンタジーの産物。つまり、聖剣や魔剣、神剣などといった規格外のものは造り出せない。だが、それは<創造>で可能である。
そう言ったものを除けば、優秀な武器を造るのには鍛冶が向いているというわけであった。
「よし。完成」
頭の片隅でそんなことを考えながらも手だけは動き、目的のものを造り上げていく。
「あと少ししたら、準備は完了、かな」
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