017 勇者と魔王の因果関係
まもなくして、またもや何故か食堂で一同は会した。本当にそこは疑問なのだが、雰囲気に流され誰も問うことはできなかった。まぁ、当たり前のように王様が食堂に座っている姿はどこか滑稽に思えた。
しばらくして、情報の報告を行うことになった。しばらく経ってしまったのは主にリナのせいである。
「改めて、こいつは<魔術の魔王>リナキリット=ジーザオウキス、長いからリナでいいと思うぞ」
リナが口いっぱいに菓子を頬張りながらもオレが口を開いたことで話し合いは始まった。自己紹介をされながらも未だに菓子を頬張るその姿は魔王というよりも年相応の少女に見えた。
「よろしくなのじゃ」
名前が呼ばれたことで反応したのか、菓子を頬張るのをやめてそう言った。
「まず、魔族について。リナ自身は魔王としてオレたちの案に賛成すると認めた。要は『休戦協定』を結ぶことができるようになった。そのことで、多くの魔族が反旗を翻したそうだ。まぁ、オレもそれは予想していたし、人族側でも同じことだろう。というか、すでに起こっているだろうな。まだ、目に見えてはいないが」
いったん言葉を切り、周りの反応をうかがった。それは本当に様々で、驚愕、怒気、安堵、不安、といったものだった。
「よって、この『休戦協定』は人族と魔族の間ではなく、オレとリナ。すなわち、<創世の勇者>と<魔術の魔王>の名のもとに調停する」
この言葉に次に反応したのは、王族のみ。つまりは異世界組は何が違うのか? と言いたそうな、表情だった。
「? 兄ぃ、何が違うの?」
京里にも理解が及ばなかったようで、首をかしげていた。まぁ、そんなすぐにわかってしまうほど簡単に考えたわけじゃない。
「ここにきて幾分かの歴史を学んできたな。それで、<創世の勇者>はどんな風に書いてあった」
「たしか、『力の象徴』だったよね」
「ああ、その通りだ」
自分のことを他人のように話すのはあれだがまぁいいだろう。
「オレより前に召喚され、魔法の体系を編み出した<術式の勇者>は『知恵の象徴』として、<創世の勇者>は圧倒的な武力から『力の象徴』として現代に残っている。つまり、現代においてオレの存在は最強そのものを意味しているというわけだ」
——―だから、何者もオレに武力では敵わないと思う。
「要するに、オレの存在……<創世の勇者>の存在は人族と魔族において最強を意味し、<魔術の魔王>であるリナは魔族最強を意味する。ということは、そんな存在による〝決定〟を邪魔すれば、どうなるか言われなくともわかるだろう」
「武力による排除、っていうことになるね」
「その通りだ。だから、これは『休戦協定』というよりも『脅し』と言ったほうが近いな」
『力の象徴』たる<創世の勇者>に喧嘩を売る馬鹿は当然のようにいるだろう。もしくはただの質の悪い冗談だと思う奴もいるだろう。だが、それはわからせればいいだけだ。
圧倒的という言葉すら生温い、そんな事実を起こせばいいだけなのだから。
「まぁ、それは今度の話だな。具体的な根詰めだとかをしなければならないしな」
世界的な規模においての人族魔族間の『休戦協定』だ。思いついて即実行はできない。だがまぁ、それは遠くない話であるというだけだ。
「とりあえず、『休戦協定』についての話は置いておこう。というか、これからが本題というか、リナを招待した理由だな」
「お、ようやく、妾の出番かっ」
話を終わらせ、次の話題に持ち込むと名前が出てきたのに反応して声を上げた。というか、こいつさっきまでの話を表面上だけ聞いていたようでずっと菓子を頬張っていたな。そう考えるとただの幼女だな。賢いのか幼いのかがまったくもってわからない奴である。
それは置いといて。
「突然だが、栢木。こいつを見て思うことはないか?」
「えっ!?」
さっきまで傍観に徹していたからだろう急に呼ばれて驚いているようだった。といっても、たいしたことではなかったため、栢木の視線は自然とリナに向けられた。
それを気にせずに空になったために運ばれてきた菓子を先と変わらずに頬張り続けているリナ。そして、それをジーっと見つめるイケメン。
次第に段々と周りが思うことが一つになってきた。
すなわち、
「これ、犯罪者じゃね」
と。
決して意図して作り出した状況ではないが、自然にそう思ってしまった。たぶん、周りもそうだろう。
だって、この世界ではすでに成人とされている少年が、明らかに幼い少女を凝視している。誰が見てもそう思ってしまうだろう。不可抗力の一種であった。
「……いや、特に何もないかな」
そんな奇妙な静寂が、栢木によって破られた。痛いほどの視線は主人公の〝鈍感スキル〟で無効化されたらしい。
「……そうか。ということは、お前には『こいつを倒したら帰れる』という思いは感じなかったということだな」
「ああ、そうだな」
栢木はその言葉とともに首を縦に振って肯定を示した。だが、その表情は困惑の色が濃かった。何というか、こいつらは物分かりが悪いように感じる。
「つまりはそう言うことだ。オレが魔王を見たとき、かすかだが『こいつを倒したら帰れる』と感じた。そして、事実、オレは帰還された」
「? 帰還された? 帰還したじゃなくて?」
「その通りだ。オレが魔王を倒した瞬間、唐突に突然に強制的に帰還された」
何よりもこの世界の『平和』を望んでいるはずのオレが〝自ら帰還を望む〟はずがないのだ。だから〝心残り〟で〝後悔している〟のだから。
「だから、〝魔王を倒すこと〟がトリガーとなって帰還されるようなシステム。勇者はそのことを何らかしらの要因で知ることができる。そんな風にオレは考えていたわけだ」
元々、勇者と魔王は因果関係が存在している。
「オレが前に知った話だが、世界にとって勇者及び魔王は特異点だ。つまりは世界にとって不必要な存在。いてもいなくても関係のない存在というわけだ。それが特異点という意味だからな」
地球にとってこの世界が妄想の類だと思われている。否、そうなっているのはひとえにそれが無いからだ。それを考えて言えば、魔法の存在するこの世界にとっても勇者と魔王は必要のない存在なのだ。
「だが、謎は多い。まず、<魔王>という存在はここの世界から生じている存在だ。つまりは俺の知っている話とは矛盾している。無論、オレの話が間違っているという可能性も否定はできない」
——―まぁ、間違っているわけではないだろうが。と、言って話を続ける。
「そして、勇者と魔王の関係『魔王がいるから勇者がいて。勇者がいるから魔王がいる』。どっちが正しいか皆目つかないが、ともかく。この世界にとって魔王も勇者も必要ない存在ということだ」
魔王は魔族の中で最強の力を持った個体。ゆえに、呼称を<魔王>とするのは世界が関係するのか否かはわかるはずもなく世界について調べる必要があるが、ともかく。
世界にとって意図して生み出した存在。ではないということは、オレが知っている。
だが、いくら神だろうとミスはしてしまうのかもしれない。というか、人間を創った時点でそれは完全なミスだ。だって、人間自体が致命的な欠陥品なのだから。
力がないのに力を求め、いざ負けが迫れば神頼み。
魔法が在ろうと無かろうと本質に一切の変わりはない。それが祟って異世界という最早、世界すら違う場所から力を借りようというのだ。世界にとって予想外もいいところだろう。
だから、勇者は完全な特異点。それに因果関係を持った魔王も特異点。
「世界にとって予想外のモノ。異物。つまり、特異点というのが一番表しやすいだろ」
いつの間にかオレの説明だけが、聞かれていたようでそれが終わった今、一同は静まり返っていた。まぁ、言わせてしまえば、オレ、栢木、リナにしか関係のないことなのだろうが、帰りたいと望む者も多くいるこの状況で何も案がなく。かつ、方法すらも明確ではない。
一つあるとすれば、<魔王>の殺害。つまりはリナを殺してみれば可能性はあるかもしれないが、低い可能性ではあるし、彼らには殺す覚悟というものもないだろう。というか、実力差がありすぎるだろう。戦闘になれば、一瞬で決着がつく。リナの勝利という形で。
それをかすかにでも感じ取っているのだろう。いや、悩んでいる様子の者もいるが、言わないだろう。
「だからというか、一つ提案をしよう」
長い沈黙が続いたそこではそのオレの声が明瞭に響き渡った。
「報酬は〝帰還魔法の作成〟。オレの全能力を以て創ってやろう。可能性は薄いが、召喚魔法がある以上、帰還魔法つまり〝世界を渡る魔法〟もないわけがないからな」
その言葉で全員が顔を上げた。その表情は全員同じで希望の色が灯っていた。
何といってもここは異世界である。自分の居場所など最初から無いに等しい。『俺TUEEEE』を夢に見る変人もいただろうが、現実はそんなに甘くないものだ。それをここにいる間で学んだだろう。
「で、依頼の方だが………オレが創るまで<勇者>として力を貸してくれ。それがあれば、人族も魔族もある意味では安定が取れるはずだからな」
勇者というのは規格外の存在である。オレの創った<ステタ―スプレート>を見てもわかる通りスペックが違う。この世界の優秀な者でも100が限界なのだ。それを軽くオーバーする勇者と言う存在は凄まじい戦力なのである。
戦力だけでなく、生産系の職業の奴もいるのでいろいろな場所で活躍できるだろう。まぁ、オレ自身が生産系の代表だが。
「もちろんだ。帰ることができるのなら、そのくらいのことはする。俺たちに出来ることなら何でも言ってくれ」
答えは栢木によってすぐに返ってきた。他の奴も頷いて、その通りだと言っていた。まぁ、オレからしたらこれが最低条件なのだが、それは黙っておこう。
そのあとは、あまり話すことも無くなったので、話し合いは終いになった。
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