013 新勇者と強さ
しばらくして、新勇者一行とオレたちを召喚した王女がやってきた。その表情は様々で不安を残す者、希望を灯す者、オレを見て驚きの声を上げた者。そんな表情ばかりだった。
まぁ、いきなり異世界に召喚されました。で、困らないやつがいるならそいつは相当に優遇されているか、天然もしくは馬鹿だけだろう。
「よう、元気してたか?」
とりあえずオレは全員に声をかけた。はっきり言ってよく知らない顔ばかりなので、どう声をかけていいものかわからず、適当なことを聞いてみた。
だが、周りの反応は芳しくなかった。というか、返答がなかった。だが、「お前は元気が一番ないだろっ」と言おうとした奴が何人かいることはわかった。口を開きかけて周りの雰囲気で言えなかったようだ。だが、言っていたのなら「ナイスツッコみ」と言っていた自信がある。
「……暁、お前はこの世界で言うところの<創世の勇者>なんだな」
しばらく、沈黙が続き、そう口を開いたのはリアル主人公、栢木だった。
「ああ、そうだな」
特に否定する気もないし、というか名乗ったので普通に肯定した。
「ということは帰る方法はあるんだな」
「……わからない。オレも<滅全の魔王>を倒したら、急に日本に戻っていた。だから、可能性としては魔王を殺すと日本に戻るのかもしれない、が………」
はっきり言ってそこはまだ謎が多い。だが、魔王を殺したところで日本に帰ったのは事実だ。そこを否定する要素はない。問題点があるとすれば、オレが帰るときに感じたのは魔法の兆候でそれは<召喚>の魔法に類似したものだった。
「じゃあ、魔王を殺せば家に帰れるのかっ」
「可能性はある。が………」
一つだけ疑問が残る。まず、思い返してみれば<滅全の魔王>は放っていた魔力から不思議と殺せば帰れることが分かったような気がしていた。オレは『平和』を望んでいたので気にはしていなかったが、そのような気がする。
だが、あの幼女<魔術の魔王>からはその感覚が一切なかった。どうしてか、は未だに腑に落ちないがそう感じたのだ。
「……まぁ、良いだろう。お前たちがそんなに帰りたいなら<魔術の魔王>をここに連れて来てやろう。そのときに判断するのはお前たちだ」
オレ自身の計画に他人を巻き込むつもりはない。ましてや、異世界に連れてこられた者など論外だ。だから、帰るというならば好きにすればいい。まぁ、オレはここに残るが。帰るための魔法くらいオレなら創り出せるはずだ。
「ありがとう、暁。感謝する」
その言葉を聞いた新勇者たちはまたも様々な表情を見せた。が、オレは気に余裕もなく、だんだんと意識が薄れていくのを感じた。体が疲れているのだろう。
「すまない。そろそろ限界だ。オレは寝る」
オレ自身が限界を迎え、意識を落とした。<起動:全回復>はペナルティーが強すぎるな、とそんなどうでもいいことを考えていた。
* * *
俺が質問をすると暁は悩みながらも答え、寝てしまった。それほど傷が大きかったのだろう。俺は暁がどんな症状でこうなったのか知らない。だが、暁が最初に気を失う前「神族に殺されそうになったから殺そうとしたけど」的なことを言っていたな。
まだ、暁悠汰という人のことを良く知らないから俺もなんとも言えない。クラスメイトではあるが、いつも一人でいてたまに他の奴と話しているくらいだった。正直、俺はあまり話したことがなかった。というか、暁が避けていたように感じた。そこらへんはよくわからないが、俺にとっての暁はそんな感じだ。
でも、異世界に召喚された俺たちの中で目立ったのも暁だった。というより俺のステタ―スとは比べ物にならないほど高かった。俺はこの時代の魔王を倒すために<勇者>として召喚されたらしいが、はっきり言って俺はいらないんじゃないだろうか?
暁はどれほど強いのかわからないが、今代の魔王とはすでに話をつけてきたらしい。何でも俺たちが見た蒼の光は、暁の<創造>という魔法で創った<転移魔法陣>らしい。はっきり言って、意味は分からなかったが、そういうファンタジーものが好きな奴に聞いてある程度教えてもらった。
なんでも暁は〝チート〟とか言うやつらしい。直訳すると「ズルい」っていう意味みたいだ。確かに、いきなり魔法が使えるなんてズルい。俺だって魔法があると聞いたときはドキドキしたし、実際使いたいと思った。
だが、こっちに来て魔法の特訓を始めたがようやく今日小さな光を出すことができた。それでも早いらしい。それを魔王城まで転移できる魔法。実際にはそれを起こす道具を一瞬で創ってしまうということには驚きを禁じ得なかった。
規格外すぎるし、俺の<勇者>という役割はいらないんじゃないかなぁ。なんて思ってたりする。嫉妬なんてしなかった。というか比べられるほどではないし、俺の理解を超えているのだ。
だから、俺はとりあえず元の世界、日本に戻るための方法を聞いてみたのだ。俺ははっきり言うとこの世界を救うより家に帰りたい。周りの人は救おうよ、とか熱心なことを言っていたが、正直無理だと思っている。
剣も持ったことのない俺たちに何ができるというのか。確かに、身体能力は何倍にも強化されている。それは実感しているし、理解もしている。
だが、それが何なのだろう。聞けば、容易く命がなくなる世界。俺たちはそんな世界を生き抜くために生き物を殺さなければならない。俺にだっていざとなれば、人を殺す勇気ぐらい持てるはずだ。だが、それが日常的に起こったら? 俺たちよりも技術のある者が相手だったら?
答えは簡単。死ぬ。精神的に。肉体的に。
俺は死ぬのは嫌だ。ましてや人のために死ぬなんてなおのことだ。<勇者>なんて言われているが、俺はまったくその気はないのだ。
だけど、せめてクラスメイトくらいは守りたいとは思っている。同郷だし、友達だ。俺はそのくらいの力があるらしい。だから、せめて目のうちに入る者は守ろうと訓練を受けているのだ。
それが俺。栢木亮喜という名の人間の考え方だ。
「すみません。兄ぃは疲れているみたいで、寝てしまいました」
暁が気を失うと隣にいた暁の妹さんがそう言ってきた。暁のことを「兄ぃ」と呼んでいるが俺とほとんど同い年の綺麗な人である。部活の先輩が何人か狙っているという話を聞いたことがあるほどだ。
「いや、こっちこそ悪いね。暁が俺たちの中では一番この世界を知っていて、信用できる人だから、無理をさせてしまったみたいだ」
「そう言ってくれると助かります。さっきまで私に昔話をしてくれていたので、そのことも疲れに繋がったのでしょう」
「……その話、今度聞かせてもらってもいいですか? ……いや、今は暁を安静にしておいた方がいいな。みんな、とりあえずここから離れよう」
俺は何故だか、その〝昔話〟が気になった。なんとなくだが。
「そうだな、食堂の方に行こう」
俺の言葉に圭祐がうなずき、俺たちは広さのある食堂に向かった。
「みんな、暁のことをどう思った?」
俺は食堂に着いて、全員が座ったところでそう声をかけた。そして、それに静かに手を上げたのは椎名だった。
「暁くんは不思議だった。みんな知っていると思うけど、私は特殊技能:<鑑定>がある。それを使ってみても暁くんは正常値であの異常な数値が見えた。あのステタ―スに間違いはない」
そう言いながらも椎名は律義にステタ―スプレートを見せるように出してあった。それにはこう書いてあった。
ステタ―ス
名前:シイナ=ナナツハラ(七ツ原椎名)
性別:女
種族:人族(異世界人)
レベル:1/100
職業:観察者
体力:70/70
筋力:90/90
敏捷:130/130
魔力:80/80
スキル:<視認魔法>・<音程魔法>
特殊技能:<言語理解>・<存在知覚>・<鑑定>
称号:<召喚されし者>
あれから訓練を行っているが、誰一人レベルという表記に変動はない。というか、こっちの世界の人でもなかなか上がらないらしく、オートリージェ王国の聖騎士長ファリックさんでもレベル:52だった。死線をいくら通っていてもレベルは一向に上がらない、と言っていた。
そして極めつけはこれを創ったのは<創世の勇者>、暁本人だということだ。まだ直接聞いてないが、そう言った情報を数値化しているだけだと魔道具に詳しいという人が言っていた。まぁ、簡単に言っているが不可能なことらしい。
で、俺たちは暁のステタ―スにあったレベル:94ということとその他のスキル、特殊技能が偽りではないのかと疑っていた。というか、三日間だが相当頑張っているのにレベル:1なのにレベル:94というのは信じがたかったのである。
そこで椎名の出番というわけだ。椎名は職業:観察者で特殊技能:<鑑定>を持っている。そして、鑑定はステタースプレートのように相手の能力を見たり、見たものや魔法を少しだけ詳しく知ることができるという能力を持っているから判断ができるというわけだ。
「これが暁くんのステタース」
そして、椎名はそれが書いてある紙を取り出した。いつ書いたのだろうか? それがとても気になる。
ステタース
名前:ユウタ=アカツキ(暁悠汰)
性別:男
種族:人族(異世界人)
職業:創造士
レベル:94/100
体力:260/790
筋力:180/830
俊敏:170/780
魔力:20/2060
スキル:<剣術>・<刀術>・<双剣術>・<二刀術>・<大剣術>・<盾術>・<武術>・<格闘術>・<槍術>・<斧術>・<槌術>・<棒術>・<杖術>・<投擲術>・<暗器術>・<弓術>・<鞭術>・<身体能力強化>・<気配感知>・<気配遮断>・<魔力操作>・<魔力感知>・<錬成術>・<鍛錬術>・<錬金術>・<構築術>・<集中>
特殊技能:<言語理解>・<創造>・<全属性魔法使用禁止及使用不可能>・<並立魔法使用>・<魔法陣構築最適化>・<解釈拡大>
称号:<召喚されし者>・<創世の勇者>・<歴代最強の勇者>・<魔王を滅ぼし者>・<再召喚されし者>
「随分と消耗しているようだね」
思わず俺は呟いてしまった。だが、他の奴らもそう思っていたらしい。
「けど、消耗していても俺たちじゃ勝てそうにない」
「そうだな」
沢村がそう言ったのに、何人かが首肯した。だが、数人は「お前、いたのっ!?」と言いたそうにしている。俺をそう思った。沢村はいつも気配を消していて、(本人が言うにはもともと気配が薄いらしい)誰も気が付かないのだ。
ちなみに沢村のステタースはこんな感じだ。
ステタース
名前:カイト=サワムラ(沢村快斗)
性別:男
種族:人族(異世界人)
レベル:1/100
職業:暗殺者
体力:150/150
筋力:90/90
敏捷:210/210
魔力:60/60
スキル:<暗殺術>(投擲術や暗器術、その他暗殺者が持つ統合スキル)・<風属性魔法>
特殊技能:<言語理解>・<気配完全遮断>・<確立操作>
称号:<召喚されし者>
ご覧の通り、隠密行動に特化している。職業:暗殺者、というのを聞いて物騒だと思ったが、ファンタジー好きに聞くと斥候役だそうだ。
というか、俺よりも能力が高いところがある。今の時点では俺に一番近い実力を持っているのが、沢村快斗だ。気配が薄くて気が付いている奴は少ないが。
「それにしてもまさにチートだな。戦闘術のほとんどのスキルを持ってやがるし、特殊技能も多い」
「だけど、〝<全属性魔法使用不可能>〟っていうのは明らかによくないものだね。二千年前の<創世の勇者>の伝説にも魔法が使えなかったって書いてあったし、そもそも称号に<創世の勇者>ってあるしね」
「他にも、たくさんのスキルや特殊技能があるし、今の私たちじゃ歯が立たないわね」
全員が暁のステタ―スについて議論している。そこに俺も意見を述べていったが、これを話し合っても何が進むわけでもなかったので、全員が訓練に行くことになった。というか、暁のステタ―スを見て、火がつけられたようだ。
今は何を話し合っていてもどうにもならない。だから、すべてを知っている暁の復活を待って、その間に力を蓄えておくことが大切だ。
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*八月十八日*
主人公のステタースに<錬金術>を加えました。




