011 昔話と壊れた勇者 Ⅱ
その日の翌日に討伐に出向くことになった。何でも準備がしたかったそうだ。オレも一応は冒険者の端くれだが、一切準備はしていない。
別に武器も防具も持っていないし(創り出せるから)、ポーションの方も常備している。食材の方はあいにくと持っていないが、その場で狩ればいいだろうし、保存食も一応は持っている。
そのことについてシャルティア姫は不満を持っているようだが、「だったらついてくるな」といつも言っているので、気にするべきことじゃない。しかも、何故かそれでもついてくる。オレは帰るなら送ってやるぞと最初に言ったが、それでもついてくるのである。
はっきり言って、この行動は謎でしかなかった。
翌日の朝早く。
オレとシャルティア姫、ライデン、アルク、メリッサの<深緑の絆>と合流した。
「おはよう〜」
「やっと来たか、ユータ」
「こちらは準備が整っています。合流したことですし行きましょうか」
メリッサ、ライデン、アルクの順に口を開いた。朝早くから元気なことである。
メリッサは、明るい茶髪が目立つ二十歳くらいのお姉さんだった。絶世の美女というわけではないが、美人な人でこの街のギルドではかすかにファンクラブが存在しているらしい。人当たりがよく、気軽に接するできる女性である。それでいて頼りがいもあるらしく多くの女性が「お姉様」と慕っているらしい。ちなみに、シャルティア姫もその一人である。
ライデンは、体格の良い男で金色の短髪がとても似合っている。かっこいい男というべき人だな。見た目通り前衛だ。
アルクは、細身の男性でどちらかと言うと二人に対して目立たないが、裏方の準備や相手との交渉、戦闘時の支援などを担う後衛型。武器は剣に弓矢に魔法と、所謂器用貧乏であった。
「今回はよろしく」
「よろしくお願いしますね、皆様っ」
オレはいつも通り、シャルティア姫は心なしかいつもより元気そうに挨拶をした。
「うんっ。よろしくねっ。シャルちゃんっ!」
「おう」
「はい、こちらこそ」
オレはこのパーティーがとても良い組み合わせだと感じた。
これから討伐に向かう<暴虐の赤竜>は、最近現れて、数多くの村や街を襲い、暴れる竜種の魔物である。二つ名の通り、暴虐の限りを尽くし、それを止められるものがいないということから超高難易度依頼として張り出されていたのである。
失敗をすれば、最悪近くの村が滅びるので失敗時に取られる料金が大きく、難易度が高く失敗料金が高いということで誰も受けることのない依頼となっていた。
オレはその頃にはあらゆるものの強さから群を抜いており、これしきの依頼では負けることもなくなっていた。油断はないが自信はあった。
だが、魔王には到底敵わない。挑んだことはないが、幹部の強さが今のオレと同等ということがわかれば、どのくらい強いかはわからなくとも勝てないことくらいは容易にわかる。
オレも異常だが、<滅全の魔王>は文字通りの化け物だ。勝てるビジョンは未だない。
まぁ、平和を望むことで魔王と対立するかはまだわからないことだが。
………話が逸れた。
<暴虐の赤竜>は赤の成竜で森を一つ消し飛ばすほどの威力を持った超火力火属性ブレスを放つらしい。また、接近戦においても外皮は竜鱗覆われ、まともに刃は通らない。魔法も同様だ。近、中、遠距離においてまともに攻撃が決まらない。それが竜種の特徴なのだ。
だから、みんなこの依頼は受けない。どんなに達成金が多くとも不可能な依頼なのだから。少なくともこの世界の住民の多くは。
オレの場合は、武器の無限生成が可能で折れても何本でも同等のものが用意できる。さらに、オレの<創造>にはひとつの特徴があるのだ。
「そういえば、ユータ君って武器持っていないよね。魔法使いなの?」
馬車に揺られ、<暴虐の赤竜>の住まうマーテセン火山に向かっている道中、メリッサがそう尋ねてきた。
馬を操るのはアルクで、それ以外のメンバーは馬車の中に居た。本当なら見張りをつけたほうがいいのだが、あいにくとオレは勇者スペックである程度の距離内の気配を感知できるので、つけないことになったのだ。
「いや、オレには属性魔法の一切が使えない。だから、こう見えても剣士だ」
それを聞いたオレとシャルティア姫以外の全員は驚き、混乱しているようだった。
「でも、剣なんて持ってないじゃない」
「オレは属性魔法は使えないが、ひとつだけ魔法が使える。見てろ」
そうしてオレは、手を前にかざしそこに蒼の魔法陣を浮かび上がらせる。そして、次の瞬間にはオレの手元に一本の剣が現れた。その剣は市販のものと見た目が変わらず、剣を見ているものでなければこの剣の質はわからないだろう。
「えっ。もしかして<空間魔法>!? あの、<術式の勇者>の」
「いや、これは<創造>という魔法だ。何もない場所から何もかもを生み出す魔法。その分使い勝手も悪く、難しいが魔力が尽きない限りは武器の無限生成ができる」
<空間魔法>とは、かつて召喚されたあらゆる魔法を使った勇者<術式の勇者>が使えた【無限倉庫】という魔法のことだろう。何故、<術式の勇者>と言われるのかは、今現存する魔法理論を体系化した者だったからだ。
あいにくとオレとは違って随分と優遇された勇者というわけだ。
「……って、<創造>は新しい勇者の固有魔法よね。もしかして、ユータ君って」
「その通りだ。オレは召喚された勇者で絶賛冒険者中だ」
実はシャルティア姫の身分がばれると冒険者生活に支障が出ると判断したため、オレは勇者ユウタ=アカツキではなくユータ、シャルティア姫はシャルとして、一般の冒険者として活動しているのだ。
もちろん、誰も知らない。国の奴らも姿隠しをしているために気付いていない。まぁ、気がついている奴がいないわけではないが。
ちなみに、冒険者とは冒険者ギルドという組織に加盟していて、依頼を受けて生計を立てている者のことを言う。ゲームなどに登場する組織そのまんまである。その大規模な組織は、やはりかつて召喚された勇者によって創設され、それが現在に続くという形である。
だが、ランク制は面倒だったようであまり使われていない。時が経てば使われるかもしれないが。
「そうなんだ。まぁ、そうだよね」
それを聞いた彼らはそこまで動揺していない様子だった。
「なんでそう思ったんですか?」
オレが疑問に思ったようにシャルティア姫も疑問に思ったようで、そう聞いていた。
「だって、こんな危険な依頼を受けようとする男女の二人組なんて死にに行くか、相当な実力者だもの。
でも、ユータ君もシャルちゃんも自殺するようには見えないし、ユータ君の纏う雰囲気は実力者のそれだもの。しかも、他にも高難度の依頼を達成しているって言うんだから、逆に理由がわかって納得したくらいだよ」
まぁ、確かにな。バレた原因も実力の問題だったもんな。逆に周りから見て異常だったということに気がつけただけでもいいか。
「そうだったんですか。ユウタ様、簡単にバレてしまうようですよ」
「ああ、お前には言っていなかったか。実はこの前バレかけたけど、脅しておいたから大丈夫だ」
「……そうなのですか。で、その哀れな方にはなんと言ったのですか?」
「確か、『別に報告してきてもいいぞ。だが、そのあとでお前の知っている人たちがそろっていなくなったとしてもオレは知らんぞ』だったな」
その場にいた全員は引いた。「こんな勇者っているの? まず、勇者なの?」と言いたげである。そして、それが実行可能だと知っているシャルティアは背筋が凍った。
「まぁ、あくまで脅しだ。気にすんな。………あと、オレは、絶対に約束を守るからな」
全員が理解した。この男は恐怖の象徴であると。そして、本気で言っているのだと。最初にあった時は不愛想だが気のいい奴だと思っていた<新緑の絆>のメンバーは少し後悔していた。
* * *
それから、しばらくして<暴虐の赤龍>の住まう火山の中腹まで来ていた。流石に、山を馬車で進むのは無理だったので、馬車は馬とともに麓に置いてきた。なので、一行は必要な荷物を各自で持ち、山を登っていた。当然のようにユウタは身軽な姿である。隣を歩くシャルティアは自分の身長を上回る杖を持ち、背中にはいくらかの荷物を背負いながら歩を進めていた。
男としてユウタはシャルティアの荷物を持つべきだが、一切そんなそぶりは見せなかった。また、シャルティアも気にしていなかった。二人にとってはこれが普通だったからだ。
魔法の才はあるものの戦闘には不向きの支援系の魔法が得意で、戦闘時においてもユウタの弱点はシャルティアだった。それをなくすためにユウタは考えた。「オレがやられる前に片付けてしまえばいい」と。だから、負担となる者は最小限に。必要なものはシャルティアが持つ。ということになっているのだ。
「………ほら、もうお前は休んでいろ」
だが、流石にいつものこととは言え、休憩もなく何時間も進めば疲れてしまうだろう。ましてやシャルティアは王女である。逆に冒険者並みの体力があるほうがおかしいのだ。
不意に、よろけたシャルティアに気が付いたユウタは即座に支え、抱き上げるように持ち上げた。荷物の類は<創造>した荷台に乗せてあった。
「ユウタ様、ごめんなさい。わたしは足手まといでしょう。本当にごめんなさい」
疲れ切っていたシャルティアは思わず、本音を零した。自分の勝手で彼についてきていることもそれを彼があきらめて容認していることも自分自身が彼の弱点だということもすべて知っていた。そんな考えで自分が弱くなっていくのを感じながら今まで過ごしていた。いつもは隠していたのだが、思いもよらないほどの体力の消費に気が緩んでしまっていたのだ。
「何言ってんだ? オレはお前に帰れ、とは言ったが迷惑とは言った覚えはないぞ。オレは言ったよな、お前は本当にそれでいいんだな、と。オレが聞いたのはお前の選択だ。帰れと言ったのも、お前が無理をしているからだ。
オレに追いつこうとするな。オレは規格外だ。仮にも勇者だぞ。こんなんだがな、オレは強くならないといけない。オレは『平和』が欲しいんだ。そのためには力が必要だ。だから、オレは成長し続けてやる。
だがな、お前はその必要はないんだ。シャルティア=フォン=セネキリシトル。お前は何を求めているんだ? オレとは違うだろうに。……まぁ、いい。今はせいぜい眠っていろ。
ライデン、アルク、メリッサ。お前らも疲労しているようだな。ここらで休憩にしよう。寝てもいいぞ、オレが見張りをしている」
シャルティアをはじめ、<新緑の絆>は困惑しながらも静かに耳を傾けた。すべてを抱擁するような声の質とそれとは裏腹にいつもの口調。それは何故か全員を安心させた。多分、それは普段無表情のユウタ表情がほんの少しだけ緩んでいたからかもしれない。
「じゃあ、ありがたく眠らさせてもらいますっ」
「さすがの俺も疲れたしな」
「ですね。ユータさん悪いですがお言葉に甘えておきます」
メリッサ、ライデン、アルクは次々にそう言い、寝巻きを出し始めた。
「ちょっと待ってろ。そこで寝るのは体に悪い」
ユウタは手を伸ばし、魔力を込めた。すると徐々に魔法陣が形成していき、それが一層に光り輝くとそこには一軒家が立っていた。と言ってもただ壁をつくったようなものだから内装はなく、簡易な木造式の家だった。
「すごぉ〜い。流石、勇者」
その光景に再び、彼らは驚きの声が出たが、眠気が勝ったらしくその中に入っていった。ちなみに、シャルティアは別の建物を創造し、その中で眠っていた。その中はベッドがあり、<深緑の絆>たちには悪いが、一応王女であったのでそこはユウタの気遣いであった。
「さて、行くか」
全員が満足して起床したのは、翌日の朝早くだった。実はというと休憩をし始めたのはすでに夕暮れ時だったので、疲労も相まって翌日まで眠ってしまったのだ。というか、木造の家には安心感が出来たようで、眠りやすかったのだ。
「ユータ君、大丈夫なの?」
だが、ユウタは夜中見張りをしていたので、一切眠ってはいなかった。また、食事もひとりだけ取っていなかった。流石に、いくら勇者だとしてもおかしいと思ったメリッサはそう聞いた。
「なんのことだ?」
だが、本人には自覚がないようだった。
「えっ、でも」
困惑気味のメリッサに事情を知っているシャルティアは口を開いた。
「メリッサお姉様、ご説明いたします。……ユウタ様は、欲望がほとんど出なくなってしまいましたの。睡眠欲も食欲も。唯一残っていたのが『平和』を欲する心だけ。多くの悲劇を見すぎてこうなってしまいました」
「……らしいな。オレも不思議なことに欲を感じないんだ。正確に言えば、強い欲求だな。だから、食事も睡眠も体が根を上げるようだったら取ることにしている。まぁ、そんな理由で大丈夫だ」
ユウタの顔付きはさして良いものには見えなかったが、痩せ我慢をしている様子は微塵もなく、それすらも自然のことのように振る舞っていた。
「さっさと行こう。今日中に倒しておきたい」
ユウタは他に声をかけられる前に歩を進めていった。それを追うようにして一行は出発した。
しばらく歩を進めるとちょうど山の巨大な壁に大穴が開いているところがあった。そこからはかすかな熱と魔力の流れが感じられた。そこを前にして一行は緊張した面持ちで佇んでいた。約一名を除いて。
「なに突っ立ってんだ。さっさと片付けて帰るぞ」
ユウタはお構いなしに洞窟の中に入っていった。あまりにも自然だったので一行は止める間もなく、ユウタに遅れないようにと急いで駆けていった。
洞窟内は暗く、かすかに照らすのは入り口からの明かりだけだった。まぁ、自然の洞窟なので当たり前である。逆に壁が光っている等の場所であったら迷わずに回れ右していただろう。明らかにそれは不気味だ。
洞窟は下の方に深くなっている構造らしく常に進むのは下り坂であった。また、入り口付近には数多くの傷跡があり、よく見ればそれが竜鱗で付いている傷だということがわかった。
「今明かりをつけますね。――あまねく光よ、集いて照らしたまえ」
シャルティアがそう言った途端にいたる箇所から小さな光が集まりだし、ちょうど視界が見えるようになるほどの光ができた。
「やっぱり魔法はずるいよな」
人知れずそう零したユウタの言葉を聞いたものはいなかった。
一行は明かりをもとに下へと進んでいった。
下れば下るほど道幅は広くなり、壁の傷も少なくなっていたがないわけではなかった。地面には大きな爪痕や足跡があり、ここは成竜が住む場所だということがわかった。それを見ていた一同だったが反応はほとんどなかった。
それよりも強大な魔力の反応と明らかに強くなっている熱気がここに<暴虐の赤竜>はいると物語っていたからだ。音はないことから眠っているのだろうが、気が付かれる可能性がないとは言い切れない。そのことの方に尚更、一同は気を張っていた。
「こいつが………」
一番下についたとき、それはいた。
その体は大きく視界すべてにはぎりぎり収まる程の大きさで、その体表を覆うは赤く硬質な鱗。存在するだけで熱気を発し、もともと持つ魔力は桁違いに大きい。背には強大な翼を持ち、その尾は長く太い。鞭のように振り回されれば、一帯が崩れ去ることだろう。
伝説に生きる竜種。<暴虐の赤竜>。
「おそらく、そうだな。こんなに魔力を持った個体は初めてだ」
「……えっと、その言い方だと竜種と戦ったことがある、というふうに聞こえるのですが」
思わずといったふうにアルクは冷や汗を流しながら、そう呟いたユウタに尋ねた。
「あるぞ。なんか襲ってきたから殺した。他にもいくつか出会い頭に襲ってきたから殺したことはある」
その言葉で一同は黙った。また、ユウタはこんな目の前でそんな質問をするなんてなかなか度胸があるな、と感じていた。自分の言っていることに疑問を持っていないようだ。
すると、静まり返っていたその場にある声が聞こえた。
『うるさいぞ、我は眠っておるのだ。……いと小さき者たちよ、我を竜種と知っての行動か』
その声は音ではなく、頭に直接響いているかのように明瞭に聞こえた。偉大さがにじみ出ていて、なおかつ畏れを持った声だった。
「へぇー。お前は喋るのか。てっきり竜種は魔物の類なんだと思ってた」
『いと小さき者よ、我を魔物扱いしてくれるな。我は偉大なる竜種ぞ。敬い崇め給え、それが唯一お主達、いと小さき者たちに許された権利ぞ』
「知るか。お前が竜種、だからどうした。存在するだけで偉いのか? 強いのか? 己の力は実際に行動で示してみろ。かかってこい、………お前がどれほど弱いのか教えてやる」
『生意気な。ならば、残らず消し炭にしてくれようぞ』
<暴虐の赤竜>の威圧により放心状態だったユウタを除く面々はどんどん進行していく事態についていくことができていなかった。だが、<暴虐の赤竜>が大きく息を吸ったところでようやく再起動した。簡単だ、目の前に死があったのだから。
「やって見やがれ」
次の瞬間、暗い洞窟内が極光によって照らされた。<暴虐の赤竜>から放たれたブレスは熱量が高すぎたために赤ではなく、白のブレスだった。極光のブレスが迫る。
「――【創造:<連鎖式守護障壁>】」
その声を残して極光はユウタたちを襲った。
『……流石に、消し炭か』
極光のブレスが途切れたとき、<暴虐の赤竜>はそう声を上げた。そして、その考えは必然だった。ただの人族では竜のブレスを耐える者などいないのだから。
「残念ながらその考えは間違っているぞ」
その声はブレスを吐いたその方向から聞こえた。流石に長きを生きる竜種でもこの出来事は予想外だったのだろう。
「……まさか、八枚も突破されるとは、危なかった」
今のブレスは一切の手加減はしていなかった。久しぶりの恥辱に頭に血が上っていたためだ。だから、何者であろうと耐えることはできないと思っていたのだ。だから、さきの考えが通常だったのだ。
『おぬしは何者だ?』
<暴虐の赤竜>は問う。たった今、砕け散った壁から現れた人族に。いや、信じられないほどの力を感じる存在に。
「オレはユウタ=アカツキだ。一応、召喚された勇者だ」
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