テツガクテキ・マ・テキテキ 9
玲奈ちゃんは何とか呼吸を整えた後で、一体何がどうなっているのかと私に尋ねてきた。
私は玲奈ちゃんに今まで起こったこと、つまり怪しげな男から苗木を受け取り、それからあの二人が生まれてきたということまでをできるだけ簡潔に、そしてわかりやすく話した。玲奈ちゃんは、話を遮ることもせず、辛抱強く私の話を聞いてくれた。
私がようやく話終えた同時に、玲奈ちゃんはメランコリックに大きなため息をついた。私は少しだけ不安になりながら、信じてくれたかどうか恐る恐る聞いてみる。玲奈ちゃんは私を安心させるような微笑を浮かべ、信じられるわけがないと言い放った。だけど、と玲奈ちゃんは言葉を続ける。
実際にこの家に二人のおっさんがいることは事実だし、あんたがこんなバカな嘘をつくことなどしないということをわかっているから、とりあえず頑張って信じてみると言ってくれた。
私はうれしさのあまり、涙で目をにじませながらありがとうと玲奈ちゃんに何度もお礼の言葉を伝える。玲奈ちゃんは何も言わずに、私の目に浮かんだ涙をそっと手でぬぐってくれた。私たちはそのまま互いに見つめあい、示し合わせたように一緒のタイミングで笑い合う。
さて、決別前のニーチェとワーグナーのように深く結びついた私たちの友情を確認したところで早速本題に入ろう。
私がそう言うと、一瞬で玲奈ちゃんの顔が強張った。
私は玲奈ちゃんにまだ苗木が一本残っていること、そして、これ以上多くのおじさんが生活できるスペースが家にはないことを告げる。私がそれだけ話し、じっと玲奈ちゃんを観察していると、玲奈ちゃんは残された希望に手を伸ばすかのような切実な声で、「それが私と何の関係があるの?」と切り返した。
私は玲奈ちゃんの手を取り、再婚を決意したシングルマザーのような口調で新しいパパが欲しくないかと問いかけた。
玲奈ちゃんは私の手を振り払い、「うちはまだお父さんが健在だし、今後一妻多夫制を採用する予定もない」と少しだけ怒ったような口調で答える。私と玲奈ちゃんはそのまま互いに何も言わず見つめあった。私たちの間に気まずい沈黙が流れる。あまりに気まずかったので、思わず玲奈ちゃんの右のおっぱいを触ろうと右手を伸ばしたが、それの手は無情にも玲奈ちゃんに冷たく払われてしまう。
「あんたが勝手に育てたおっさんでしょ。ちゃんと自分で責任もって世話しなさいよ!」
玲奈ちゃんは堰を切ったようにくどくどと説教を始めた。最初私はなぜそこまで玲奈ちゃんが怒っているのか理解できなかったが、お説教の中身から推測するに、どうやら次のような理由かららしい。玲奈ちゃんは初めは突然の出来事で精神的に弱った私が真っ先に自分を頼り、秘密を打ち明けてくれたのだと思ったのだが、結局それはおっさんを押し付けるためにそうしたに過ぎなかったからだということ。
私は玲奈ちゃんの言う通りだと自分の行いを反省した。玲奈ちゃんのやさしさに甘え、少々エゴイスティックになっていたのかもしれない。私は玲奈ちゃんに何も言い返せず、ただ黙って玲奈ちゃんの説教を受け入れた。
説教は次第にヒートアップしていき、それに伴い玲奈ちゃん自身の感情も高ぶっていった。そして最後には顔を真っ赤にさせ、「もうあんたなんて知らない!」と叫ぶと、そのまま怒ったような足取りで客間から出ていった。
しばらくしてから玄関の扉が開閉する音が聞こえてきて、玲奈ちゃんが帰ってしまったということを理解する。