テツガクテキ・マ・テキテキ 7
二人目のおじさんも田辺さんと同様、裸の状態で、なおかつ身体全体に土や黒いビニール片が付いた状態で発見された。前回と同様ベランダにはおじさんを生んだ苗の残骸や土が散乱しており、ぱっくりと割れたつぼみも見つかった。
そして特筆すべきは、新しいおじさんの容姿や態度が田辺さんとは著しく異なっていたということだ。
二人目のおじさんの体つきとしては、筋肉が少なく、贅肉が見苦しくついてはいたものの、田辺さんよりはずっと健康的で、ぎりぎり醜いとは言えないレベルだった。
腹も少しだけ膨らんでいるくらいで、ビール腹のような奇怪なアンバランスさもないし、へそ毛と胸毛も薄い。顔は童顔の田辺さんとはうって変わって縦に長く、髪の毛も短くに刈り込まれていたが、所々に白が混じっているだけで、決して薄毛ではなかった。あごと鼻下には無精ひげが生えていて、全体の評価をとしては、よく言えばワイルド、悪く言えば粗暴、私の個人的評価としては下の上といった感じだった。
そして態度についても、自分の置かれた状況が理解できず、挙動不審気味であった田辺さんとは対照的に、二人目のおっさんはこの状況について理解はできなくとも、事実そのものはきちんと受け止めており、冷静でどこか堂々とすらしていた。
実際ベランダの扉を開かれ、私と初めて対面したときにも、おじさんはベランダで正座坐りをしたまま私を見上げ、自分の動揺を必死に抑えながら淡々と私と会話を交すことができていた。田辺さんとの共通点と言えば、自分の局部を手で覆い隠していたところくらい。
とにかく、二人目のおじさんと田辺さんはまるっきり違う人間だった。同じ種類の苗から、これほどまでに異なるおじさんが生まれてくることは学術的にとても興味深い。
とりあえずそのままにしておくのもまずいと思い、田辺さんの時と同じように、足を拭き、風呂場で身体を洗ってもらうことにした。
着てもらう下着は田辺さんが結局履かなかったママの紐パンでいいかなと一瞬考えたが、先輩である田辺さんが嫉妬してしまうのではと思いなおし、田辺さんとおそろいの縦じまトランクスを渡すことにした。
その他いろいろな説明は同じ苗から生まれた田辺さんに任せるとして、私はその間三人分のご飯を作る。私が調理を終え、それらをリビングに持ってきたとき、田辺さんと二人目のおじさんはすでに打ちとあっていた。やはり同じ境遇である人間同士、共感する部分が多いのだろう。
お腹もすいていたのでとりあえず私たちはご飯を食べ、その食事中に、二人目のおじさんの名前を話し合う。民主的に話し合って決まった名前を私が鶴の一声で覆し、二人目のおじさんは「原田」と呼ぶことになった。
食後は、田辺さんと原田さんが二人仲良く台所で皿洗いを引き受けてくれた。その後姿を私はリビングからじっと観察した。パンツ一丁の二人のおじさんが時々身体を接触させながら皿洗いをしている光景はまり見ていて気持ちの良いものではなかったが、それでも裸エプロンと同じようなものだと考えたら少しだけ気持ちが楽になった。
しかし、新たに原田さんがこの家に生まれてきたことにより、ちょっとした問題が私の中に生じていた。
私の家は比較的裕福であり、三人を養うだけの経済的ゆとりはある。だが、住居スペースに関してはそうもいかない。成人男性二人はギリギリ許容できても、まだ苗がもう一つ残っている。少しだけ本格的に考えた方がいいのかもしれない。私はおじさんの汚い背中を見つめながら、腕を組み、眉をひそめて考え込んだ。
うちでは三人とも飼えない以上、犬とか猫とかと同じように里親に出すべきなのかもしれない。そう結論付けた私はスマホを取り出し、友達である玲奈ちゃんに電話をかけることにした。玲奈ちゃんは私の昔からの幼馴染であり、同じマンションの二階に住んでいる。玲奈ちゃんは人付き合いが苦手な私の唯一無二の友達で、少し怒りっぽいところがあるが、女の子らしい繊細さも持っている。器量も性格もよく、そして何より、おっぱいが大きくて柔らかい。
十秒ほどの着信音の後、玲奈ちゃんが電話に出た。玲奈ちゃんは私からの電話に対して明らかに警戒していた。困ったことが起きたので二時頃家に来てほしいと私が言うと、玲奈ちゃんは「どうせ、またなんかいたずらをするつもりなんでしょ」と苛立たし気な口調で答えた。私は本当に困っていると訴えたが、「絶対に引っかかってやんないんから!」とだけ言い残し、玲奈ちゃんは一方的に電話を切った。