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喜劇的☆マ☆テキテキ  作者: 村崎羯諦
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カイキテキ・マ・テキテキ 20

 俺は持っていたバックやビニール袋をそっとその場に置き、二人へと近づいて行く。


 どうして俺の妻は裸でいるんだ? 暑いからといって、こんなにはしたなくベットに横になる女ではない。いや、もしかしたら俺が知らないだけで、妻は俺のいない所ではだらしない性格をしているのか。しかし、暑いから裸でいるにもかかわらず、律儀にも布団を自分にかけて寝ていることが理解できない。


 そして、次に横にいるこの男は何者だ? 俺は男の方へと回り込み、じっとその男を観察してみる。妻と同じように仰向けのままぐっすりと寝ているため、じっくりと男の寝顔を観察することができた。


 その男は若く、高校生くらいの年齢で、その容貌は、ギリシア彫刻のように整っていた。凛々しく一直線に伸びた眉に、ツンとした鼻。髪質は男とは思えないほどにさらさらとしていて、輪郭も無駄のない三角形をしていた。まさに絵にかいたような、中性的な美少年といったところか。


 なぜこのような美少年がこんなところで裸になって寝ているのか。


 俺は頭を必死に落ち着かせながら、男をもう一度確認した。男はその片方の腕を妻の方へと伸ばし、妻の頭をその上に置いている。妻は男に腕枕をされた状態で、まるで雌ヒョウのように妖艶な雰囲気を醸し出しながら眠っている。そして、妻がいつになく、顔に化粧を塗りたくっていることに気が付く。


 その光景を俺は三十秒ほど見つめ続けた。そして、とりあえず男の顔を右フックで思いっきり殴りつけた後、ようやく俺の頭の中に「不倫」という言葉が浮かび上がってきた。


 気持ちよく寝ていたさなか、突然強烈なパンチを食らった男は、その衝撃でベットから情けなく転がり落ちた。そして、真っ赤にはれた左ほおに手を当てながら、何が起きたかわけがわからぬままうつろな目で俺を見つめた。


 そして、ようやく状況を理解できたのか、間抜けな声で叫び声をあげる。その男の声でようやく妻も目が覚めた。この時間にいるはずのない俺の姿を目視するやいなや、「なんで、あんたがここのいんの!?」と、まるで俺の方が間違っていると言わんばかりの口調で俺に叫ぶ。


「うるせえ!!」


 俺は妻に一喝しながら、ベッドの横でなすすべなく固まっているその男の肩をつかみ、そのまま立ち上がらせる。俺と男はお互いにお互いを見つめあう形となった。俺が男を睨み付けると、男は青ざめた顔で俺の顔を伺い、そしてなぜか不意にへらっと笑う。


 その瞬間、俺の怒りが爆発し、空いていた方の腕で男の顔を殴りつける。


「この! 口で! 俺の女をたぶらかしやがったのか!」


 俺はそう叫びながら、男の顔、特に口のあたりを重点的に殴り続けた。なぜ、顔ではなく口でたぶらかしたのかと言い放ったのかは自分でもよくわからない。


 多分、無意識的に俺の小さなコンプレックスを守るためだったのだろうが、そんなことは実際どうでもいい。


 俺は衝動に駆られるまま男を殴り続ける。男の顔は真っ赤になり、原型がわからないほどにはれあがっていく。すると、このままでは死んでしまうとでも考えたのか、ベッドの上から裸の妻がなんとか俺を制止させようと俺の腕にしがみついてきた。俺はそれを振り払いつつ、男を寝室の扉の方へ向かって荒々しく放り投げる。


「さっさと出ていきやがれ!」


 男は慌てふためきながら、床に散らばった衣類を漁り、そこから自分のパンツを探し当てる。そしてようやく青と白のストライプ柄のトランクスを見つけると、俺に白くきれいな尻を向けた状態で履こうと試みる。しかし、急ぐあまり、足がパンツの穴に上手く入らない。


 俺は後ろからその様子を見ていたが、その滑稽な挙動に苛立ち、こちらへ突き出された尻を思いっきり蹴り押した。男はそのまま無様にバランスを崩し、前のめりになって倒れ込む。そして、倒れた状態のまま、身をよじらせて何とかトランクスを履き終えると、そのまますくっと立ち上がる。


 そして、屈辱のせいか、それとも羞恥のせいかはわからないが、顔を真っ赤にしながら俺の方へ振り向き、甲高い声で叫んだ。


「あ! あぉええをこおっつて!!」


 何を言ってるかわからねえんだよ。俺はそう怒鳴りつけるとともに、ベットのサイドテーブルに置かれた時計をつかみ、それを男に向かって全力で投げつけた。


 時計は男のすぐ横を通り過ぎ、壁にぶつかって大きな音ともに砕け散る。男が振り返り、無残に砕け散った時計を見ると同時に顔が青ざめる。


 俺の激情に気圧されたのか、男は俺の方をおびえたように見つめ返した後、慌てて足元に転がっていた荷物やら何やらをかきあつめる。そして最後に、毒キノコがプリントされた趣味の悪いアロハシャツをつかむと、情けない声をあげながら部屋を飛び出していった。


 少しだけ落ち着いた俺はそのまま男を見逃そうとその背中を見送ったが、その時、ある事実に気が付く。俺が先ほど扉近くに置いたビニール袋がなくなっていたのだ。


「あの野郎! 親父が残した種をさらっていきやがった!!」


 俺は慌てて男の後を追いかけ、そのまま家の外の廊下へと出た。その廊下からすぐ下のアパートの駐車場を見ると、すでにトランクス一丁の男がわき目も降らず走り去っていく様子が見える。俺は男に向かって、止まれと叫ぶ。


 しかし、男がその言葉で立ち止まることもなく、むしろさらに速度を上げて遠ざかっていった。俺は廊下の手すりに思いっきりこぶしを叩きつける。そして、男の背中を見届けながら、もう一度だけ、あらん限りの大声で叫んだ。

次回、最終話です。

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