表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喜劇的☆マ☆テキテキ  作者: 村崎羯諦
54/56

カイキテキ・マ・テキテキ 19

 家にいる妻に向かって、一番最初に何を言うべきだろう。いや、その前に妻の方から、なんでこんな時間に帰ってきたのかと尋ねられるだろうな。その質問に答える形で、今までの嘘と真実についてぶちまけたよう。


 妻はきっと最初は俺の言うことを信じないだろうな。いや、もしかしたら俺が思っているよりもずっと妻は賢く、俺のことを気にかけていてくれていて、俺がとっくの昔に会社を首になったこと、そしてせせこましい空き巣稼業に従事していることを見抜いているのかもしれない。その方がずっと都合がいい。


 しかし、かといって妻の方からそのことを切り出してもらおうなんて考えは駄目だ。そんな考えはハードボイルド的ではない。ここは覚悟を決めて、俺から真正面に切り出すべきだ。


 たとえ、妻が今までの嘘を疑っておらず、俺の暴露話を簡単には信じてくれなくとも、俺はしつこく、本当に信じてくれるまで真剣に話し続けよう。そうすればきっと妻も俺の話を信じてくれるはず。冷めきった関係とはいえ、何年も連れ添った仲なんだ。きっと俺が本気であることくらいはわかってくれるだろう。


 そして、俺の話を信じたとして、妻は一体どんな反応するのだろうか。顔を真っ赤にしながらヒステリックにわめき散らすだろうか、それとも、健気にうなづき、あの少女のような寛容さで俺を優しく抱きしめてくれるのだろうか。


 変な期待を抱くべきではないのかもしれないが、それでも妻が優しく俺の懺悔を受け入れてくれる様子を想像してしまう。しかし、いずれにせよ、俺の取るべき行動は決まっている。たとえ、ヒステリックにわめかれようが、あるいはおおらかに赦しを与えられようが、俺は地面に突っ伏して妻に謝らなければならない。


 俺の気が済むまで、あるいは妻の怒りが静まるまで、俺は何度も妻の足元に身を投げ出し、彼女の足の甲に、今後の従属を誓ってキスをしてもいい。俺の根深い罪を贖い終えるまで、もしかしたら一日中、いやそれ以上かかるかもしれない。それでもやはりそうしなければならないし、それを終えなければ新しい一歩など踏み出せるはずもないのだ。


 エスカレートしていく自分の気持ちと呼応するかのように、無意識のうちに自分の足取りが早くなっていく。これほどまでに高揚した気持ちのまま自分の家へ帰ろうとしたことがあっただろうか。新婚の時にだって、これほど興奮してはいなかった。


 俺ははやる気持ちを抑えることもせず、ただその流れに身を任せることにする。息は少しずつ上がり、歩くスピードも、もはや競歩のそれと変わらぬほどになっていた。


 妻との和解を済ませた後はどうしよう。ふと、俺の頭の中にそんな素朴な疑問が浮かび上がる。


 妻との長年のすれ違いを清算し、新しい関係を構築した後、俺は、俺と妻のにはどんな素晴らしい日々が待っているのだろうか。歩きながら俺は素晴らしい未来について夢想してみる。妻の協力のもとで、なんでもいいから仕事を見つけた後、二人で慎ましく、されど温かみのある日々を送ろう。


 そうだ。今までの罪を贖うために、俺と妻で色んな慈善活動に参加するのも悪くない。町のごみを拾ったり、親のいないことどもたちと遊んだりするんだ。今まで人に迷惑をかけることで生きていたが、これからは人から感謝される生き方をしよう。


 それで今までの罪をチャラにできるなんて思わないが、それでも、誰かの役に立つ人生はそれ自身で尊いものなんだ。きっと妻もわかってるくれるはず。


 そんなことを考えているうちに、俺は自宅アパートの玄関前までたどり着いた。


 俺は軽い足取りのまま階段を駆け上り、妻が待つ俺の家へと向かう。


 早く妻に会いたい。俺の罪を懺悔し、生まれ変わりたい。疲れではなく、興奮のせいで俺の息は荒々しくなっている。最後にはほとんど駆け足になりながら家の前に着き、俺は三つのポリポットが入ったビニールを持ったまま慌ただしく鍵を開け、中へと入った。


 玄関に入ると、妻の靴の横に、見慣れぬスニーカーが並べてあるのが目に入った。しまった、客人が来ているらしい。俺は一瞬だけ戸惑ったが、それでも俺の決意は揺るがなかった。客人がなんだ。そいつがいようといまいと俺の決意に変わりはない。客人が横にいようとも俺は妻に対し、罪を告白するつもりだし、何ならその客人に対しても、俺の罪の赦しを乞うてやろうじゃないか。


 俺は靴を脱ぎ、部屋の中へと入る。しかし、玄関からすぐのリビングは、昼下がりというのに電気さえついておらず、妻の姿は見えなかった。


 おかしいな。もしかしたら、別の部屋にいるのかもしれない。俺は荷物を持ったまま、リビング横の寝室へと何気なく入っていく。そこも電気が付いておらず、カーテン越しに真夏の明るい光が部屋の中を薄暗く照らしているだけだった。


 寝室の中央にあるダブルベッドに俺の妻が仰向けになった状態で眠っているのが見える。


 そして、奇妙なことに、妻は裸でベッドの横に部屋着が脱ぎ散らかしてあり、妻の横、つまりいつもは俺が寝ているはずの場所に見知らぬ少年が、これまた裸の状態で眠っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ