カイキテキ・マ・テキテキ 12
俺の言葉におっさんの顔が強張る。そして、すぐさまおっさんも俺と同じように立ち上がり、俺の肩をわしっとつかんで考え直すように説得を始めた。
無謀すぎる。むきにならずにもっと冷静に考えろ。泥棒を止めるきっかけが欲しいのなら、もっと他に方法があるはずだ。
しかし、そんな言葉など俺の心には届かない。俺は荒々しくおっさんの手を振り解くと、地面に置いていた鞄を手に取り、河川敷から上の歩道へと歩いて行く。確かにこのおっさんは俺の親父に似ていて、頼れる相棒ではある。だが、こんなみすぼらしい、チキンな奴だとは思わなかった。
こんな奴は俺の計画を助けるどころか、俺の足を思いっきり引っ張るかもしれない。そうだ、計画を練り直せば、俺一人でだってやれないことはないはずだ。俺はそう心の中でつぶやきながら歩いて行く。同時に足音が後ろから聞こえてくる。おっさんも俺を放っておけず追いかけてきているらしい。
歩道に出たところで、俺が立ち止まり振り返ってみると、おっさんも小走りで駆けより、もう一度俺の肩をつかんだ。そしておっさんはもう一度、先ほどと同じような理由を並び立てて俺を必死になだめようとし始める。
しかし、その言葉は先ほどの言葉をほぼ繰り返しているにすぎず、俺はどんどんおっさんの俺に対する理解力のなさ、そして語彙力のなさにあきれ果ててしまう。俺はおっさんの両肩を強くつかみ、眼光を強めながら俺の気持ちは金輪際変わらないと宣言した。
これだけ強く言えば、おっさんも説得をあきらめる、あるいは渋々俺の計画に協力してくれるだろう。しかし、おっさんは少しだけひるんだものの、俺の予想に反して、俺にそれでも食って掛かった。しかも、先ほどまでの穏やかな口調から、強めの語気へと変わり、その変化がたまらなく俺の癪に障ってしまう。
何様のつもりだ、おっさんのくせに。俺は我慢の限界からそう大声でわめきたてた。きっと言い返してくる、そうなったら殴り合いでもなんでもしてやろうじゃないか。俺はそう思って強く右手のこぶしを握り締めたが、おっさんはというと、怒るでも怯えるでもなく、少しだけ驚いたような顔を浮かべるだけだった。
そして、俺がそのような反応に対してさらに怒りをぶつけようとしたその時、背後から威圧感のこもったハスキーボイスが聞こえてくる。
「お前たち、何をやってるんだ」
関係のない人間は引っ込んでろ。俺はそう叫び、真っ赤な顔を声の主へと向ける。
そして、その主の姿を確認すると同時に、今までの激情が一瞬で失われた。俺の後ろにいたのは、全身を紺色の制服に身を包み、頭には同じく紺色でその中央に金色の紋章が取り付けられた制帽をかぶった一人の男。つまり、俺にとっての地球上の天敵、警察官だった。
突然の天敵の登場に、俺は思わず声を失ってしまう。空き巣を始めて以来、一度も声掛けなんてされたことがないのが自慢だったのに、どうしてこのタイミングで現れやがったんだ。
このタイミングは非常にまずい。俺は空き巣の常習犯で、おっさんは住所と身元が不特定の徘徊者。その上、最悪なことには、俺は今銀行強盗の準備と称して、一丁のモデルガンを持っている。
うろ覚えの記憶だが、確か強盗ってのは、準備段階でも捕まってしまうんじゃなかったっけ。もし、このまま俺とおっさんが交番か何かに連れていかれ、そのまま俺の計画がばれてしまったら一巻の終わり。
俺の顔が不安と恐怖でどんどん青ざめていくのがわかった。そんな挙動に警官が気が付いた瞬間にアウトなのだが、幸いにもまだ警官はその様子に気が付いていない様子だった。パトロール中、言い争いをしている俺たちを見て、その職務を全うせんと仕方がなく声をかけてきたのだろうことが、その面倒くさそうな表情から見て取れる。
何とかしてこの場を切り抜けなければ!
俺はとっさに機転を利かせて、立ち尽くしていたおっさんの肩をぐいっと抱き寄せ、できるだけ爽やかな笑顔を浮かべる。そして、何が何やらわけがわからぬおっさんの横で、俺はちょっと些細な喧嘩をしていただけですから安心してください、と目の前の警官に言った。
すると、おっさんも俺の意図を察したのか、首を縦に振り、うわずった声でその言葉に同意を示した。警官はそんな俺たちの急な変化をいぶかりながらも、はあ、と相変わらずのハスキーボイスで相槌を打った。
早くどっかに行け、このおたんこなすが。俺は笑顔を絶やさぬまま心の中でつぶやく。
しかし、何とか笑顔を取り繕うとしてはいたものの、やはりその苛立ちは隠しきれなかったようで、警官は俺の方をじっと見つめながら、なに睨み付けてくれんだと凄みを利かせた声でにらみ返してきた。警官のやくざに劣らぬ迫力に、抱いていたおっさんの肩がびくりと震える。しかし、ここでひるんだり、あるいは不審な様子を見せたら負けだ。それにこのような権力を笠に着たやくざ野郎に屈服するなんて、ハードボイルド的ではない。
かといって、変に抵抗することができる状況でもないため、俺は口元はほころばせながら、目だけはじっと相手を睨み付けることにした。俺と警官の間で視線が交わされた後、言い争いをやるならもっと人目につかない所でやりなと警官は俺たちに向かって言い捨てた。
勝った。しかし、俺の心の叫びは、続けて発せられた言葉によって無残にも打ち砕かれる。
「まあ、でも一応、職務質問と持ち物検査だけはさせてもらうぞ」




