カイキテキ・マ・テキテキ 11
幸か不幸かはわからないが、結局三日たっても三人家族は家に帰ってこなかった。どうやら本格的に長期旅行に出かけて行っているらしい。
俺は落ち込むおっさんを慰めながら、心の奥底で、その事実をちょっぴりうれしく思ってしまう。そして、ついに財布とバックを換金した分の金を手渡すために河原で落ち合った際、俺は念を押すように銀行強盗の準備をきちんと進めていることを告げた。
おっさんはまだ俺がそんなことを考えているのかと露骨に驚いた後で、俺には感謝しているが、やはり銀行強盗はやめてたほうがいいとこの前の言葉をけろりと忘れたかのように主張した。
なんでもおっさんの言うところには、銀行はそもそも強盗用に厳重なセキュリティを装備していることが多く、さらには、昨今では多額の現金を生のまま所持している店舗は少ないという。つまり、リスクに対して、得られる利益があまりに小さく、それならむしろこの前みたいな泥棒をこつこつ積み重ねた方がよっぽど賢いやり方なのだと訴えた。
俺はそれを聞きながら、少しだけおっさんの言うことに納得しそうになった。なるほど確かに、海外ならともかく日本において映画のような銀行強盗が起きたなんてニュースは滅多にないし、あるとしても大体が失敗に終わってお縄に捕まっているありさまだ。
しかし、それでも男にはやらねばならない時がある。俺はおっさんに対し、俺がなぜそこまでして銀行強盗にこだわっているのかを告白した。今まで漫然と空き巣を続けてきて、今の今まで将来のことなど考えてこなかったこと、妻に対して、数年前に会社を首になり、それ以降このような仕事をしていることを隠し続けていることを改めて話し、そして、これをきっかけに新しい一歩を踏み出したいのだと説明した。
おっさんも真摯な態度で俺の話を聞いた後で、少しだけ考え込み、それでもやはり強盗が危なすぎる、もっと違ったやり方があるはずだと口ごもりながら反論した。
これだけこっちが腹を割って話しているのになんて野郎だという言葉を何とか飲み込み、俺はおっさんに対して、絶対に成功して見せると胸を張って答えた。明日、その証拠を見せる。おっさんはいぶかし気な表情と呆れ顔を半分ずつ浮かべながら、ゆっくりと首を縦に振った。俺はその返事にとりあえずは満足し、家に帰って準備の続きに取り掛かる。おっさんだって俺の本気度を見れば決心してくれるはず。根拠などはないが、俺は自信満々にそう言い聞かせた。
翌日。
俺とおっさんは昼過ぎに河原で待ち合わせをした。
俺はいつもと同じスーツを着、片手で黒い革鞄を携えてその場へと向かった。俺が河原に着いた時にはもうすでにおっさんが座って待っていて、俺が声をかけると、小さく片手を上げてあいさつをする。
昨日の話の続きだと俺が足早に告げると同時に、おっさんは何とも言えない困ったような表情を浮かべる。どうやらまだ銀行強盗の計画を快く思っていないらしい。しかし、そんなものは想定内だ。俺はおっさんをさらに河原のうちで人の目に着きにくい場所、つまりは高架橋の下へと連れていく。おっさんは不平不満も言わずに俺について来るものの、その表情はいまだに強張っていた。
高架橋下に着くやいなや、俺は周りに誰もこちらを見ている人を確認してから、おっさんの前に持っていた鞄を置く。そして、俺はもったいぶった調子で、ゆっくりと中からあるものを取り出し、それをおっさんに手渡した。
おっさんの表情が少しだけ変わり、小さな目が驚きで大きくなる。俺がおっさんい手渡しもの、それは黒くつや光した、一丁のモデルガンだった。
おっさんはそれを手でゆっくりといじくった後、問いかけるような目で俺を見つめてくる。一体これはどういうつもりなのか。まさにそのような言葉を今にも口にしそうな表情だ。とりあえず俺はこれが本物の拳銃ではなくモデルガンであることを告げてから、おっさんに対して、最初に見た瞬間、これを本物の拳銃だと思ったかどうかを尋ねてみた。
おっさんは困ったように眉をひそめながらもう一度モデルガンをなでまわすように触った後、モデルガンだと言われたらそう見えるが、自分はテレビでしか本物を見たことがないので、確かに突然突き付けられたら本物だと見間違うかもしれないと恐る恐る答えた。
俺はその返事に満足し、そうかそうかと言っておっさんに笑いかけた。そうだ。確かに映画やら何かでは、本物の拳銃で銀行強盗をやってはいるが、実際にはそんなものは必要ない。銀行の受付に、それが本物だと思わせればいいのだ。まだこれには何の細工もしてはいないが、これからもっと本物に近づけるために色々とパーツやデザインをいじくり、そして極め付けには一発だけ銃口から爆竹が鳴るような装置を取り付けるつもりだ。
受付に拳銃を突き付けた後、それが本物だと騙すため、一発だけ天井に向かって爆竹を鳴らす。そこまでやれば、相手だってこれが本物だって信じ込むはずだ。
興奮しながらまくしたてた俺の説明に対し、おっさんははあ、とだけ口を間抜けに開けながら返事を返す。俺の作戦を理解しきれていないか、あるいは俺の喋りが早くて全部を聞き取れなかったかのいずれかだろう。まあ、そんなことはこの際どうでもいい。
必要なのは、おっさんの協力を確実なものとすることなのだ。俺はおっさんに向かって、改めて銀行強盗への協力を要請した。ここまで俺の熱意と張り巡らされた計画を聞けば、きっと首を縦に振るだろう。そう思っていた。
しかし、俺の期待に反し、おっさんはなおもためらったようにもごもごと口を動かすのみで明瞭な答えを言う様子がない。そのような曖昧な態度に段々と苛立ち、俺は唐突におっさんの胸元をぐいっとつかみ、やるのかやらないのか、どっちなのか答えろといきり立つように怒鳴りつけた。
おっさんももう俺のそのような癇癪には少しばかり慣れっこになっていたようで、少々顔を青ざめただけで何の返事もしなかった。そして、なおもにらみ続ける俺をその小豆のような小さい目で見つめ返した後で、やはり銀行強盗は無謀だと優しくなだめつけるように言った。
気まずい沈黙が俺たちの間に流れる。
俺はおっさんをその状態のまま見つめ続けた後で、おっさんから手を離し、立ち上がった。そして、心配そうな表情で俺を見上げるおっさんに対し、俺は「わかった」と小さくつぶやいた後で、そこまで言うのなら強制はしない、俺一人だけでも実行してやると興奮と怒りを必死に抑えながら吐き捨てた。




