カイキテキ・マ・テキテキ 10
銀行強盗をやる。俺の口からでたその言葉は、傍から見れば単なる戯言に過ぎないだろう。その時はこれ以上にないほど酔っぱらっていたから、戯言ですらなく単なる妄言だと言われるかもしれない。
実際、俺自身空き巣をやり続けてはいるものの、根っからの小心者であることは疑いようがない。しかし、その場のノリというものは恐ろしいもので、そのことを繰り返し考えることで、俺はもしかしたら本当に銀行強盗ができるんじゃないかと本気で信じるようになってくる。
これからもずっと今のような空き巣を続けていくのか、なんて自己問答は今まで何回もやってきて、そのたびごとに結論を出せないまま、うやむやのまま忘れてしまう。ある意味、おっさんとの出会いというきっかけがなければ、ずっとこれから何十年もそのようにうだうだと空き巣を続けていたかもしれない。
俺はそのような可能性を考えただけで身体の底から震えあがった。
よく考えてみろ。家族をこれからもずっと騙し続ける自信があるのか? 将来ふとしたことで身体が駄目になった時、収入はどうするのか?
なまじ今まで程よくお金が手に入っていたせいで、俺はそのような問題を直視することはなかった。今こそ、つまり俺と心が通じ合うパートナーと出会ったこの出来事をきっかけに、俺は変わる必要があるんじゃないのか? 銀行強盗が成功すれば、その資金で何不自由ない余生を過ごせるかもしれないし、それを資金に何か事業を始められるかもしれない。
いや待て、そんな小さいことで満足することなく、おっさんと手を組み、日本中の銀行を震え上がらせるような連続強盗犯になるのも悪くないな。映画や小説を参考するには、確かに強盗をするだけならそこそこ行けそうだと考えられなくもない。その上、俺は数年以上空き巣をやってきた実績があるわけで、その分のアドバンテージはきっとあるはずだ。
こうして、ノリから生まれた言葉は妄言から願望に代わり、そしてついには、ひょっとしたらできるんじゃないかとさえ思えるような真実味を帯び始める。俺は家に持って帰った覆面を見つめながら、頭の中で様々な考えをめぐらせ、そしてついに、銀行強盗の決行を決意するに至った。
そうと決まれば、やることをやらねばならない。
もちろん俺一人でやるには荷が重い以上、頼れる相棒としてのおっさんの協力が不可欠だ。俺は早速、件の家族がまだ帰ってきていないことを確認しにマンションへ現れたおっさんを捕まえ、自分の計画を洗いざらいぶちまけた。
おっさんは最初俺がまだ酔いからさめていないのだと勘違いし、陽気そうに俺をからかったが、俺が鋭い眼光で睨み返すと、口を閉じ、俺の話を真剣に聞いてくれた。
おっさんは俺の計画に対し、何度も強く反対した。もちろん協力は必要だが、おっさんの抵抗ごときでこれほど偉大な計画を中止させるつもりはない。俺は半ば強引におっさんを説き伏せようとすると、おっさんは観念したのか、あの家族が戻ってくるまでだったら協力してもいいと渋々承諾する。おっさんの反応からは、俺は本気で銀行強盗をするつもりがなく、今はただ一時の感情に流されているに過ぎないと判断しているということがありありと見て取れた。
俺はなめられていると無性に腹が立ってくる。絶対にその家族が戻ってくる前に強盗をやってやるからなと俺は宣言するようにわめき、その日はとりあえずおっさんと別れることにした。協力者とはいえ、あんなおっさんに見くびられては男が廃る。俺は半ばむきになりながら、慌てて強盗の準備を始めることにした。
おっさんはこの前の泥棒で得た金と俺から前借りした分の金を当座の資金として、近所の安いカプセルホテルに寝泊まりしている。あの家族が帰ってくるまでなら十分暮らしていける金があったし、仮にあの家族と出会い、それでも結局自分の素性について知ることができなかったなら、このまま俺と一緒に泥棒家業を続けるのも悪くないとおっさんは笑って言っていた。
俺としてはハードボイルド的に一人でこの仕事を続けていくことも嫌いではなかったが、やはり人間は社会的な生き物であり、もしおっさんが今後とも俺と一緒に働いてくれるのなら万々歳だった。そして、だからこそおっさんとの絆を深めるため、そしておっさんと俺の生活費のため、そして何より新たな伝説の幕開けのために、この銀行強盗は絶対に実行して見せたかった。
俺は映画のスターと自分の姿をイメージの中で重ね合わせながら、手に入った財布や時計を換金する作業と並行して、強盗時に用いる武器やらの準備を着々と進めていく。




