カイキテキ・マ・テキテキ 4
俺が商品を手に持ったまま、公園へ戻ると、おっさんが寝ているベンチを数人のガキが取り囲んでいた。
風で飛ばされたのだろうか、かけられていたジャケットはベンチの足元に落ちていて、おっさんは丸裸のままベンチにあおむけの状態で横たわっている。ガキどもはそんなおっさんを好奇の目で見つめ、互いにひそひそと頬をだらしなく緩めながらささやき合っていた。
俺はそのうちの一人が、先ほど俺にサッカーボールを取ってくれと言ってきたガキだと気づく。俺がゆっくりと歩み寄る中、そのガキはおもむろにポケットからスマホを取り出し、それでパシャリとおっさんの身体を写真に撮り始める。
その瞬間、俺の中で再び怒りが沸き上がり、俺は怒号を上げながらガキどものもとへ駆けだした。ガキどもが一斉にこちらを振り向く。そして自分たちの方へ走ってくる俺の姿を見るやいなや、さっと恐怖の表情を浮かべ、反対方向へと走り出した。
もちろん、そのまま逃がしてやるつもりもない。俺はおっさんを素通りし、ガキども追いかける。すると、足がもつれたのかガキの一人が勢いよく転び、地面に倒れこんでしまった。先を走っていたガキたちは仲間の姿、そしてなおも追いかけてくる俺を見てさらに恐怖の表情を強める。二人は仲間を見捨てて、先に逃げるだろう。とりあえず倒れたガキをけちょんけちょんにしてやる。そういきり立ちながら俺は足の動きを速めた。
しかし、俺の予想に反し、その二人は仲間を見捨てることはしなかった。二人のうちの一人はさっとしゃがみ込み、グラウンドの砂をかき集め始めた。そして、十分な量を手に取ったかと思うと、すぐさまこちらへと走り始め、俺に持っていた砂を情け容赦なくぶっかける。
ガキの砂は顔全体に直撃し、俺はその衝撃で不覚にも一瞬だけ足を止めてしまった。もちろんガキどもはその隙を見逃さない。
先制攻撃をくらわしたガキに続き、もう一人のガキも砂を俺に投げつけ始め、それがもろに俺の口元や首筋にかかる。ガキどもはサッカーボールの恨みを果たさんと、二人がかりで間断なく砂を投げかけ、しまいには倒れたガキも立ち上がって二人の真似をし始めた。砂が直撃するからといって、それがとてつもない痛みを引き起こすと言うわけではない。ただ目や耳に入らないよう顔を手で隠さなければならないし、浴びせかけられた砂は今までかいた汗にこべりつき、言いようのない不快な感覚を招く。
ぶっ殺してやる。
俺は襲い掛かる砂から顔を守りながら、そう叫んだ。その勢いのまま、俺は顔を腕でガードしたままガキがいる方向へ走り始める。
しかし、時すでに遅し。ガキどもは本能から俺の行動を察知し、最後にもうひとしきり砂をぶちまけると、素早く逃げ去っていった。決して追いつけないとわかっていても、俺は怒りに駆られるまま追いかけようとしたが、足の疲れはもう限界にきており、諦めざるを得なかった。
俺は地面に転がっていた小石を蹴り上げ、大声で悪態をつく。そこでようやく、置き忘れていたおっさんの存在を思い出し、むしゃくしゃした気持ちのままベンチへと戻った。
おっさんは自分の裸がスマホで撮られたとはつゆ知らず、ベンチの上で身体を大の字にして眠っていた。片方の腕はだらしなくベンチからはみ出した状態でぶら下がっており、無駄に毛の生えていないきれいなお腹は規則正しく上下に動いている。そして、水と日陰での休息で大分落ち着いたのか、もはや出会った時のほてりは消え去り、顔には穏やかな表情が浮かんでいた。
どうやらもうとっくに回復しているらしい。俺は安堵しながらおっさんを観察する。
しかし、俺はそれをじっと見ているうちに、先ほどの記憶が思い返されてどうしようもなく腹が立ってくる。なんであんなガキどもに馬鹿にされなきゃならんのだ。俺の頭の中で、先ほどの屈辱がありありと再現されていく。
そして怒りのボルテージ最高潮に達した瞬間、俺は感情に流されるまま、おっさんを寝ているベンチごと蹴り倒し、あらん限りの声で叫んだ。
「さっさと起きやがれ!」
ベンチはおっさんを乗せたままゆっくりと向こう側へと倒れ、おっさんは強い衝撃とともに情けないうめき声を上げた。
おっさんはようやく目を覚ましたようで、一体何が起きたのかと、裸の身体をさすりながら顔を上げ、辺りを見渡した。そして、怒りで顔を真っ赤にさせているであろう俺と目が合った瞬間、おっさんの顔がさっと青ざめる。それは、理由はわからないが、きっと自分が何かをやらかしてしまったんだろうといわんばかりの表情だった。
見つめった状態のまま少しだけ沈黙が流れた後、俺は近くに置きっぱなしにしていたレジ袋から新品の洋服一式を取り出し、それをおっさんの身体に投げつけた。
「これを着ろ!!」




