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喜劇的☆マ☆テキテキ  作者: 村崎羯諦
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シガクテキ・マ・テキテキ 17

 先輩はついに待ち合わせの場所を見つけたようで、はたと歩みをとめる。


 私も十メートルほど後ろで同じように足を止め、すぐそばにあった猫の缶詰を手に取って、興味もないのに裏の成分表示を確認する。そして、時々さりげなく先輩の方を盗み見ていると、先輩は少しだけその場でうろうろした後、棚と棚の間の通路へ入っていった。


 私も缶詰を手に持ったままそっとその通路へと近づいて行く。もちろん自分は通路に入ることはせず、ばれないように片方の棚に隠れるようにして、通路にいる先輩の様子をうかがった。


 どうやらお相手はいまだに来ていない様子で、先輩は一人で、意味もなく通路を行ったり来たりしており、時々思い出したかのように棚の商品を手に取り、すぐさまそれを元に戻していた。落ち着きのない様子から、先輩が浮かれていることが見て取れる。


 私は棚の影から様子を観察し続けた。フロアに人がいないからいよいものの、誰かに自分の様子を見られたらきっとお店側に通報されてしまうに違いない。


 私が根気強く観察を続けているにもかかわらず、なかなか不倫相手はやってこなかった。もしかして、柏木の話は全くのでたらめだったのだろうか。私の脳裏にそんなこ考えがよぎった瞬間、そわそわと体を絶え間なく動かしていた先輩の身体がピタッと止まり、先輩は私がいる方向とは反対方向にその身体を向けた。


 私は慎重に身を乗り出し、通路の奥を様子見る。奥から赤いパート用のエプロンを着た女性が歩いてやってくるのが見えた。


 来た!


 私の心が興奮で跳ね上がる。二人はゆっくりとお互いに近づいていき、手と手が触れ合う距離で立ち止まった。そして、二人は何かを互いにつぶやきながら手と手を優しく取り合う。


 真昼間のスーパーで何をやっているんだ、なんて考えは思い浮かばなかった。ただ、生まれて初めて目撃する不倫現場に、今まで意識したこともなかった野次馬根性が燃え上がり、なんとか二人の様子をありありと見たいという考えで頭がいっぱいになっていた。しかし、残念なことに、私がのぞき見している場所からは、相手の女性の顔はよく見えない。そのことが私をずっとずっとやきもきさせた。


 二人は誰かから見られているとはつゆにも思っていないのか、二人の身体的接触は次第にエスカレートしていき、しまいには先輩の手が女性の腰辺りに置かれた。見つめあっていた二人は、まるでそれがいつものことだと言わんばかりの流れのまま、お互いに顔を傾け、互いの唇を熱く重ね合わせる。


 二人の口づけは甘酸っぱいフレンチキスではなく、互いに互いを貪り食うような下品で激しいキスだった。先輩は女性の尻へと手を動かし、繰り返し繰り返し円を描くようにそこを撫でまわしていた。離れた場所にいるため聞こえてくるはずがないのだが、耳元に二人の獣のような喘ぎ声が聞こえてくるような気さえする。


 私はその光景にくぎ付けになりながらも、今一度この状況を振り返ってみた。真昼間の、大型スーパーの売り場で、九条先輩と赤いエプロンをきたパート従業員が、誰が買うんだろうという日用品に囲まれた中で、アメリカ映画ばりのイカレタキスをしている。


 目の前には、私の知らない世界が広がっていた。いや、知りたくなかった世界と言った方が適切かも。


 私は放心しながらも、身を前に乗り出し、必死に相手の顔を確認してみる。しかし、予想通りお相手の顔は私が思い描いていたものとは遠くかけ離れていた。女性は四十代前半といった年齢で、年不相応の色気を身にまとっていた。決して器量がいいとは言えない顔に、しわを隠すように厚く塗られた化粧が痛々しい。というか、パートの仕事でそんな本気の化粧をしてくること自体が非常識な気がしなくもない。


 赤いエプロンの胸部分は山嶺のように高く盛り上がっていて、それが妙に彼女の色気を生々しく、そしてコミカルにしていた。九条先輩はその片方の峰に手をそっと手を伸ばそうとすると、女性はさっと手で払った。そしてようやく二人は唇を離し、もう一度何かをつぶやきあってから、まるで何事もなかったかのようにその場から別々に歩き去っていく。


 来た時と同様、こっち方向へは先輩が歩いてきた。私はすぐさま棚の陰に隠れたが、それでもその場を走り去る元気は湧いてこず、私はただ棚に寄り掛かったまま、その場を動かずにいた。先輩はすぐに通路から現れたが、すぐそばにいた私を気にかけることもなく、意気揚々と私の前を通り過ぎてしまう。


 軽い足取りでエスカレーターへと向かう先輩の後姿を見つめながら、さきほどこちらへ歩いて来る時や、目の前を通り過ぎた時にみた先輩の様子を頭の中で思い返してみた。


 先輩の顔は興奮のせいでうっすらと紅潮しており、また口元はだらしなく開いていた。そして、骨董品を訪れた時と同じように、先輩の股間はこんもりと膨らんでいるような気がした。

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