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喜劇的☆マ☆テキテキ  作者: 村崎羯諦
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シガクテキ・マ・テキテキ 16

 数日後。九条先輩と人妻が現れるという曜日がやってきた。


 この日は偶然にも部活が休みだったので、何の支障もなく噂通りの時間帯にスーパーへ行くことができた。件のスーパーは最近できた、家の近所で一番大きい店であり、三階建てで様々な日用品も売っている。品ぞろえと安さに定評があり、近所の商店街をその資本力で蹴散らしている。


 私はとりあえず店の中に入り、一通り店の中を歩く。しかし、一応くまなく探しては見たものの、九条先輩の姿は見当たらなかった。お相手である人妻の顔を知らない以上、不倫現場を目撃するためには九条先輩の後をつけるしかない。九条先輩が現れないと結局無駄足に終わってしまうのだが、まだ先輩はやってきていないと考えるしかない。私は店の入り口付近に設置されてあった回収ボックスに寄り掛かるように立ち、じっと先輩がやってくるのを待った。


 それにしても、パート従業員との不倫だとは。私は駐車場に入ってくる車をぼんやりと眺めながら考える。


 男子高校生と人妻との禁じられた恋というのだから、私はてっきり同級生の母親やらと関係を持っているとばかり想像していた。ふと同級生の家にあがりこんだ時に出会った妖艶な奥方。同級生がトイレで用を足している間に行われる愛のやり取り。同級生やその父親との愛を巡る泥沼の闘争。よくある昼ドラ的展開。しかし、今回は残念ながら違う。


 百歩譲って、外にいる人妻との関係だとしても、なぜよりによってスーパーのパート従業員なのか。私が脚本家だったなら、そんな庶民的な相手ではなく、もっとおしゃれな喫茶店を経営するマスターの奥さんとか、あるいは高級デパートの売り子を選ぶ。舞台が日用品と生鮮食品の陳列された三階建ての大型スーパーでは、どんな愛の言葉もたたき売りされた特売品に見えてしまうし、制服姿の高校生とパート用の赤い仕事着を着た女性とが見つめあったところで、すぐ彼らの間を子供かカートが通り過ぎていくだけ。


 現実はうまくいかないものだと私はため息をつく。いや、現実だからうまくいかないのではなく、九条先輩だからうまくいかないと言うべきなのか?


い、いや、違う違う! あんなフィレンツェ顔の先輩を見て、そんなことが言えるはずがない。悪いのは先輩ではなく、世間一般だ。それに今回だって、これまでと同じだって決まったわけじゃない。美しい女性が喫茶店とか高級デパートにしかいないだなんて、それこそお花畑を信じる子供の発想だ。


 あの美しい先輩が目に止め、そして、報われないとわかっていてもその愛を告白せざるをえなかった相手なんだ! ただ胸のでかい喫茶店の奥さんだとか、厚化粧で小じわを隠したおばさんとは違う、本物の女性に決まってる。


 私が興奮のあまりふんっと声に出して息を吐くと、回収ボックスに牛乳パックを入れようとしていた若い女性がびくっと肩をふるわせてこちらを振り返った。私は少しだけ恥ずかしくなり、顔を赤らめながらうつむく。


 そして、待つこと三十分。ついに待ち人がやってきた。


 制服ではなく、いつもと同じように、安い古着屋で見かけるような趣味の悪いシャツを着ている先輩は、回収ボックスそばに立つ私に気付くこともなく、軽い足取りで店内に入っていく。私は顔をうつむけたまま先輩を横目で追い、店内に入ったことを確認した後にその跡をこっそりついていく。


 先輩は陽気にあちらこちらを観察しながら売り場を歩き回り、そのままエスカレーターで二階へあがっていった。


 私は一瞬だけ戸惑ったが、先輩は不意にスマホを取り出し、微笑みながらそれを操作し始めたので、ばれることはないだろうと私も数人を間に挟んでエスカレーターに乗る。


 私が二階に来た時、私より先に二階に着いた先輩は降り場近くでなにかを探すように顔を上に向けていた。私は慌てて先輩から離れ、すぐそばに詰まれていたカゴ山の後ろから先輩の行動を待つ。そして、先輩は顔を上げたまま、二階売り場の奥へと進んでいく。


 二階売り場は雑貨や衣料品専用スペースで、一階や三階と比べてずっと閑散としていた。私は見失わないように、そしてばれないように先輩を追跡する。いや、今まで随分と先輩を尾行してきて、ばれたことはないことを考えれば、いらない心配なのかもしれないけれど。


 私が注意深く先輩の視線をたどってみると、そこには必ず何が売られているのかを示す案内板があった。なるほど。私はひとりでに納得する。先輩はその不倫相手との密会場所を探しているんだ。きっと相手方からあらかじめ場所と日時を指定されていたに違いない。


 というか仮にそうだったとすれば、仕事中にそんなことして大丈夫なのだろうか。

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