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喜劇的☆マ☆テキテキ  作者: 村崎羯諦
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シガクテキ・マ・テキテキ 15

 九条先輩が川に墜落した翌日。


 この日は部活の練習があったのだが、さすがの私もあれやこれや色々と反省していて、この前と同じように部活に全く身が入らなかった。そのため、全く同じように帰り道で柏木から問い質されることになる。


 もちろん、最初は悩める乙女よろしく抵抗したものの、すぐに昨日の一件を含めた一連の出来事を洗いざらいぶちまける。


 先輩に恋文と一緒に詩集を送り付けたこと、クリケットのラケットを掲げて追い回したこと、そして最後に先輩が川から真っ逆さまに落っこちたこと。少々脚色はしたけれど、まあ、許される範囲内でしょ。


 柏木は私の話に一通り大笑いしたのち、いくらなんでもやりすぎだと私を笑いを抑えながらたしなめた。続いて、柏木は「もう十分わかったでしょ。そろそろ意地を張るのもやめにしたら」と、高慢ちきな態度で私を諭し始める。


 もちろんプライドの高い私がそんな柏木に屈するわけがない。けれど、もしかしたら誰かからそんな言葉をかけられることを心のどこかで望んでいたのかもしれない。私の柏木に対する反発は以前よりずっと小さく、それでも九条先輩のイケメンなんだと、口をくぐもらせながら言い返すのがやっとだった。


 柏木もそんな私の性格をよく知っているのだろう。その後もしばらく挑発するような言葉で私をからかい、十分にサディスティックな嗜癖を満足させきると、小さくため息をつき、私にある重大な情報があると告げた。兄から聞いた情報で、しかも、かなり信憑性が高い噂だという前置きをつけたうえで柏木はささやくような声で言った。


「九条先輩ね。今、人妻と不倫しているらしいよ」


 私はその言葉を聞いた瞬間、少しだけ眉をひそめる。しかし、私が反射的に取った反応はそれだけだった。


 柏木は淡白な私の反応に驚いたようで、私を真似して同じように眉をひそめた。


 なぜそんな反応しかできなかったのか、正直自分でもわからなかった。九条先輩ならやりかねないと思ったのか、それとも私の先輩に対する評価はすでにその程度では揺らがないというところまで落ちきっていたからなのかだろうか?


 いや、そんな失礼なことがあってたまるか。私は自分を戒めるように自分の顔をきつけした。


 柏木はさすがに先輩に愛想が尽きたかと率直に尋ねてくる。私は慌ててそんなはずがないと声を荒げて抗議した。


 九条先輩がそんな不道徳な恋愛をするわけないし、仮にそんなことをしているとして、なんでそんな簡単に噂が広まっているのか。普通ならもっとこそこそと隠れてしているはずだし、それが友達でもない同級生にばれることもないはず。


 柏木は少しだけ考えた後、それももっともだと答えた。しかし、それでも首を横に振った後、噂にしては相手のこととかもかなり具体的に知れ渡っている以上、やっぱり本当じゃないかと言葉を継いだ。


 私は九条先輩が年上の女性と抱き合い、口づけをする様子を思い浮かんでみる。禁じられた恋という、思春期の女の子なら尻尾を振って飛びつきそうなシチュエーションだ。美しい顔をした九条先輩と凛々しく、そしてどこかあでやかな成人女性が見つめあう。そのまま二人が口づけをし、そこから激しく互いに互いを求め続けていく様子を妄想する。すると不思議なことに、私の気分と九条先輩に対する私の恋情が再び高ぶっていくのがわかる。なぜならその光景は情熱的で詩的だったからだ。


 私は先輩に聖人君子のような人柄を求めていたのか? いや、違う、私が求めていたのは、そのような理性を屈服させるような恋愛じゃなかったのか。


 そのような考えにたどり着くとともに、俄然、柏木への反発心が強まっていく。私は語気を強めて、不倫の何が悪い、不倫は文化だと開き直り、そのまま柏木を鋭く睨み付けた。


 柏木はそんな私の急激な変化に対し、呆れを通り越し、面を食らったようで、心の底から「あんた先輩から何かうつされたんじゃないの?」と本気で心配するかのような口調で言った。


 それでも私が態度を軟化させないのを見て取ると、柏木はもう一度小さなため息をつき、ある近所の大型スーパーの名前をつぶやいた。それが何?と私が尋ねると、柏木は、不倫相手が働いてる場所がそこなのだと答える。


 さらに柏木は曜日と時間帯を続けて述べ、それが人妻のパートのシフトで、さらに九条先輩が店に出没し、その上二人がいちゃつく姿が目撃されている時間なのだと教えてくれる。


 「どうする?」と柏木が問う。もちろん私の答えは決まっている。私は力強くうなづき、自分の目で確かめて見せると荒々しく返事をした。

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