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喜劇的☆マ☆テキテキ  作者: 村崎羯諦
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テツガクテキ・マ・テキテキ 3

 自宅へ帰った私は、意気揚々と男から受け取った三つの苗を、ベランダの日が当たる場所に置いてあげた。


 私は空だったペットボトルを使って簡単なじょうろを工作し、それを使って水をやりながら、改めてじぃっと三つの苗木を観察してみる。


 苗は一番育っているもので十五センチほど、一番小さいものでも十センチの丈があった。いずれもおそろいの奇妙な葉っぱをつけていて、葉の表面には白い葉毛がびっしりと生えている。三つのうちの二つには、双葉の間に、赤褐色のつぼみのようなふくらみがあり、人差し指でつついてみると、ぶよぶよとした感触が返ってくる。


 もちろん私は植物に明るくない。それらが一体なんの苗なのかを断定はできない。それでも私は一つのあたりをつけていた。決まっている。これは大麻に違いない。


 さんざんニュースで取り上げられているように、かつて三木清やマルクスに熱狂していた大学生は今現在、大麻栽培に熱を挙げているらしい。そして、そのような需要があるということはつまり、それ満たすだけの供給ルートが確立されているはずだ。


 そして、怪しい毒キノコ男に、暗い路地。こんな条件がそろっていて、これは実はそこらへんに咲いているパンジーの苗でした、なんて絶対にありえない。私は愛おし気に大麻(仮)の葉っぱを手で撫でた。小学生が自由研究で朝顔を育ててるのだから、高校生が退屈まぎれに大麻を育ててもいいはずだ。先週捕まった大学生だって、もしかしたら私と同じような考えだったのかもしれない。


 正直自分でも何を言っているのかはわからないが、少なくともこれで私の退屈が紛れることは確実だ。今の私の行動動機は、合理性でも快楽でも定言命法でもなく、夏の夜の湿気のように、私の身体にまとわりついてはなれない退屈、これを取り除くことだけだった。目の前にある苗は、私を満足させてくれる神からの贈り物。その事実だけでとりあえず十分だと思うことにしよう。


 私はすぐさま自分の部屋から方眼ノートを引っ張り出してきて、女子小学生時代のように、苗木のスケッチを始めた。そしてスケッチを終えると、私はその上に大きく一日目と書きなぐり、満足げに鼻をならす。これからどんなことが起きるのだろう。そう考えただけで、私の胸は夏休みに入って以来最大の高ぶりを見せるのだった。




 そして事件は栽培開始からちょうど三日後に起きた。


 日課としていた毎朝のスケッチにも飽き、代わりに、ママの部屋で見つけたぶっといバイブレーダーを机の真ん中に屹立させ、一人でパノプティコンごっこに興じていた時だった。


 私がふとベランダに目をやった瞬間、私は思わず身体を強張らせた。私の視線の先、そこのカーテン越しに大きな人の影が映っていたのだ。人影はこちらを向いて仁王立ちをしているのではなく、ただベランダで正座をしているような形をしていて、それが一層私の恐怖心を掻き立てた。


 私はその人影をじっと観察した後、慌てて女子高校生らしくキャッと怯えた声を上げてみた。我ながら可愛らしい声を出せたと満足する一方で、頭の片隅に、最近近所で多発しているという空き巣の話がポッと思い浮かんだ。


 私はひとまずパパの書斎に行き、インテリアとして飾ってあった六法全書を引っ張り出す。そして、刑事法における正当防衛の条文を探し、自分の身に危険が及ぶ状況であれば、何をしても許されるということを改めて確認した。

 

 それから、私がキッチンに行って一番刃の長い包丁を取り出し、そばにあった消火器のピンを抜いて、それをわきに挟んだ。左手に包丁を握り、右手は消火器のレバーを握った状態のまま、私はつかつかとベランダへと近づいて行く。


 私はカーテンの前で立ち止まり、一呼吸置く。人影はいまだに座った状態のままで、こちらに気が付いていないらしい。ここは一気呵成に行動するべき。私は一気にカーテンを開け、目にもとまらぬ速さでカギを開錠し、その勢いのままあらん限りの力でベランダの扉を開け放つ。


 そしてそれと同時に、再び私の身体は固まってしまった。なぜかというと、目の前の光景があまりに常識離れしすぎていて、一瞬私の思考が止まってしまったからだ。


 だけど、それも無理はないと思う。なぜなら私の目に飛び込んできたのが、ベランダの上で律儀に正座をした、体中が土まみれのみすぼらしい全裸のおじさんだったからだ。

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