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喜劇的☆マ☆テキテキ  作者: 村崎羯諦
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シガクテキ・マ・テキテキ 11

 書き上げた手紙をもう一度推敲し、それから一緒に送る本を選ぶ。


手始めに、詩学的な教養を涵養してももらいたいと思ったので、とりあえず名作と呼ばれる詩を集めた名作選を選んだ。手紙とその本を可愛いピンクの紐でまとめる。


 私は早速外へ出て、一人で九条先輩の家へ行き、誰にも見られていないことを確認してからそれをポストに突っ込んだ。入れるやいなや私はすぐさまその場を離れ、頬をほころばせながら帰路を歩く。九条先輩を啓発する第一歩を踏み出した私の心境はまさに、夏空と同じように清く澄み渡っていた。






 それからというもの、私の部屋にあった詩集やら美術に関する本やらを九条先輩に届ける日々が始まった。


 基本的には部活の帰りに、遠回りをして九条先輩の家に立ち寄って、郵便受けに九条先輩宛に本を届けることにし、時には依然と同じ手口で九条先輩を尾行し、お気に入りのリュックから目を離した瞬間に、その中に贈り物を忍ばせると言う手口も使った。


 部屋にはお父さんが置いていった大量の本が残されているので、渡す本が尽きると言う心配はない。むしろ、どれを渡せばいいのか迷ってしまうほどだった。


 そうそう、このことはあの柏木にはまだ言っていない。どうせ美学センスを持たない柏木にはこのような私の崇高な取り組みなど理解ができないだろうし、なによりまだ懲りないのかと馬鹿にされるのが嫌だった。


 九条先輩が私の献身的取り組みで自己実現を果たし、押しも押されぬ文学青年になるまでは黙っておこう。その後で二人腕を組み、柏木の前に現れてやる。きっと柏木は目をまん丸に開けながら、漫画チックに飛び上がり、そのまま私の足元に身を投げ出して自分の愚かさについて謝り出すに違いない。


 その様子を頭の中で想像するだけで私の心はウキウキとし、自然と笑みがこぼれてしまう。一人でほくそ笑んでいるところを柏木に見られ、呆れるようにどうしたのかと尋ねられた時にそれをごまかすのに一苦労したくらいだ。


 しかし、その一方で少し困ったこともある。あんまり頻繁に家に立ち寄っていては、いつか私の存在が九条先輩にばれてしまうかもしれない。


 私は公園とファーストフード店、そして骨董品店で顔を合わせている。先輩は基本的におバカさんなので、その三回だけで私の顔が覚えられたわけではない。しかし、今回は何度も繰り返し本を送ると言う大胆な行動に出ている以上、先輩だって否応なしに私の存在を意識せざるを得ないだろうし、もしその瞬間を見られたら一発アウト。


 私が健気に本を送り続けていると言うことがばれてもそこまで支障はないけれど、やはりそのような出会いは嫌。やはり私だってどこにでもいる女の子なのだから、「あの時本を送り続けていたのは君だったのか」みたいなドラマチックな展開を期待してしまう。そのためにも、顔を見られたくはなかった。


 色々案を考えたものの、なかなかいい解決方法も浮かばない。何かいいものがないかと家の中を漁ったところで、小さいころに雑貨屋で買ってもらったコスプレ用の黒い覆面しか見つからなかった。


 これをかぶって先輩の家をうろつくのもいかがなものかと考えたが、他に考えも浮かばない。とりあえず、もっと良いアイデアが思い浮かぶまでは先輩に見られないよう慎重に行動し、万が一に備えてこれを常時持ち歩いてみようとだけ考え、それを部活のバックの奥へと突っ込んでおくことにした。


 もちろん、あくまで万が一の時のためとしか考えていなかったし、むしろその場の悪ノリでバックに入れておいたと言った方が適切かもしれない。


 だから、こんなもの決して使うことはあるまいと、私は高を括っていた。つまりどういうことかというと、それを実際に使う場面に遭遇するなんて思いもしていなかったということ。

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