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喜劇的☆マ☆テキテキ  作者: 村崎羯諦
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シガクテキ・マ・テキテキ 5

 さて、九条先輩の人となりを見極めようと言ったところで、どうやってそれをやるかが問題だ。


 九条先輩のお人柄が図書館の本に書いてあるわけでもないし、ネットで検索できるわけもない。考えられるまっとうな方法の一つは、直接九条先輩と知り合いになって、直接先輩の一挙一動を間近で観察することくらい。


 しかし、なんだかそれをやるには少しだけ心が引けた。いや、もちろん九条先輩のことを疑っているわけじゃないし、もし柏木たちの言うことが本当だった時の保険をかけておきたいっていうわけじゃない。なんていうか、そのような知り合い方ってすごく打算的じゃない?


やっぱり私はより詩的なやり方で九条先輩とお近づきになりたいし、なにより私のあの恋に落ちた瞬間を汚したくない。それに、私だって清楚で大人しい可憐な女の子だ。自分からナンパ師みたいに、お友達になりましょうって言いながら話しかけることなんて、絶対にできない。あ、もちろん告白は別。告白はそんなちゃらいものではなく、もっとずっと甘酸っぱいものだもの。じゃあ、うだうだ言ってないで告白をすればいいのか。いや、それもね……やっぱりまだ心の整理が必要と言うか……。


 何はともあれ、今までのことをまとめるとこうだ。


 私は九条先輩と直接接触することなく、九条先輩の人となりを見極め、そして部活の先輩と柏木の鼻っ面を明かしてやらなきゃダメということ。そしてそれを実現するための方法は限られている。恋に燃える私に手段を選んでいる暇はない。


 そんなわけで私は、部活が休みの一日を使って、九条先輩をストーキングすることに決めた。




 今学校は夏休みであり、帰宅部である九条先輩は学校へ通っていない(これは柏木から聞いた情報だ)。


 私が偶然出会ったあの日は三年生対象の夏期講習があった日で、九条先輩はその帰りだったらしい。しかし、夏期補修はすでに終わってしまっており、学校帰りを狙うという作戦は破綻する。そのため本気でストーキングをやるつもりならば、九条先輩の家から始めなければならないのだが、その程度の困難で私のあふれ出る情熱が揺らいでしまうなんていうことはない。


 幸いにして九条先輩の住所を知っていた私は、部活の休みの日には朝早く起き、すぐさま九条先輩の家が見える場所に朝っぱらから張りこみ、九条先輩が外出するのをじっと待つことにした。


 最初の決行日には朝九時から張り込みを続けるも、結局三時間粘っても九条先輩が家から出てくることなく失敗。それでもめげなかった私は、次のチャンスも同じ時間から張り込みを続け、そして張り込みから二時間立ってついに玄関から私の殿方が姿を見せたのであった。


 九条先輩は玄関から不意に現れ、軽い足取りで家の前の歩道を西に向かって歩いて行く。私は驚きとうれしさで叫びかけたが、必死に自分の気持ちを静める。そして右手でスマホをいじっているふりをしながら、冷静に九条先輩を観察してみた。


 九条先輩は前と同じように、いやより一層美しい顔立ちをしていた。「ベニスに死す」のビョルン・アンドレセンをほうふつとさせる凛とした目鼻立ちで、さらに前にあった時は夕暮れのせいで気が付かなかったのだが、その肌はたいへんきめが細かく、また白く透き通っている。


 やはり、私の目に間違いはなかったのだ。私は心の中で歓喜の声をあげながら、先輩の後ろをこっそりとついていく。


 この日の九条先輩は制服ではなく、上には個性的な柄のシャツ、下には紺色のデニムという身なりで、背中には、あの運命の日と同じように、かなり大きめのリュックサックを背負っていた。そのリュックサックは先輩の足取りと呼応するかのように、リズミカルに上下に揺り動き、耳を澄ませばかすかにがっさがっさと音がなっているような気さえした。


 柏木の聞いた話によると、九条先輩は対費用効果とか期待値とかの概念に疎く、かみそりやら爪切りまで、もしかしたら外出先で使うかもしれないというものを全部あのリュックサックに入れて持ち歩いているらしい。


 私はそんな柏木の話を思い出し、少しだけ腹が立ってくる。たとえ柏木の話が本当だとだとしても、それがいったい何だと言うのだ。確かにより合理的な凡人ならそんな真似はしないだろう。けれども、先輩はそんな当たり前を疑ったうえで、自分の意志のもとであのリュックサックを背負い続けることを決めたのだ。


 それなのに、私たちが先輩をあざ笑うことは許されるのだろうか? 私から見れば、人の習慣をそんな風にあげつらう人間の方がよっぽど下劣でみっともない。

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