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喜劇的☆マ☆テキテキ  作者: 村崎羯諦
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テツガクテキ・マ・テキテキ 16

 その翌日にも、翌々日にも残された三番目の苗から新しいおじさんが生まれてくることはなかった。


 私はただベランダに置いておくのも退屈だと思い、お礼もかね、その苗をこっそりと玲奈ちゃん家のベランダに移してみることにした。その日以来、私は遠距離恋愛中の少女のように四六時中スマホを握り締めながら、玲奈ちゃんからの連絡を今か今かと待ち焦がれたが、玲奈ちゃんからの連絡はなかなか来なかった。


 そこで、試しに以前河川敷で撮った、顔を地面にこすりつけながら泣き崩れる成人男性の写真をLINEで玲奈ちゃんに送ってみたのだが、いつも通りの反応が返ってくるだけだった。それから何回かメッセージのやり取りを交わしてみたものの、玲奈ちゃんは明日から家族旅行に出かけると嬉しそうにつぶやくだけで、苗木のことについては何一つ触れることはなかった。


 もしかしたら、たまに実をつけずに枯れてしまう苗があるように、あの苗からはおっさんが生まれてこない運命だったのかしれない。私は少しだけ残念に思いながらも、玲奈ちゃんの家族旅行を台無しにせずに済んだことにほっと胸を撫で下ろした。





 田辺さんと原田さんがいなくなり、そして残りの苗から新しいおっさんが生まれてくることはなかった。そのため私は以前と同じ生活を取り戻すことになる。そしてそれを言い換えると、再びまとわりつくような退屈がやってきたということなのだ。


 私はベランダから町並みを眺め、小さなため息をつく。もう一度マルクスとエンゲルスのホモセックスを想像してみても、前ほど面白くもなかったし、攻めと受けを変えてみてもおんなじだった。


 そうなるとやることは決まってくる。あの日と同じように、散歩に出かけるししかない。私は早速外行きの服に着替え、日差し除けのために、両親からもらった、南米に住む少数民族の帽子をかぶる。玄関にある等身大の鏡の前で女の子らしく一回転し、それから靴を履いて外に飛び出した。


 日差しは肌を突き刺すほどに強く、少し歩くだけで汗が体中から噴き出してくる。私はじわりと顔に浮かんだ汗を拭こうと、レモン色のブロードのハンカチを取り出した。


 しかし、その時タイミング良く一陣の風が吹き、私の持っていたハンカチをふわりと運び去っていった。ハンカチはひらひらと宙を舞い、私の前方十メートルほど前まで飛ばされる。


 私が肩をすぼめながら、それを拾うために歩こうとした時、どこからか不意に一匹の不細工な犬が現れ、そのハンカチをクンクンと嗅ぎ始めた。犬種はパグで、毛並みもそれほど汚れていないから、きっとどこかの飼い犬なのだろう。その不細工な犬はひとしきり私のハンカチを嗅ぎ終えた後で、ぷいとそれに背中を向け、足をあげて小便をかけ始めた。


 私は慌てて犬を追い払い、ハンカチを救出する。追い払われた犬はなおも私からそれほど離れていない場所で私を見つめていて、私と目が合うやいなや、にかぁーっと下劣な笑みを浮かべ、それからようやく走り去っていった。


 私は眉をひそめながら小便をかけられたハンカチを確認してみる。すぐに犬を追い払ったおかげで、少し濡れた程度の被害で済んでいたが、手で触るとほんのりと湿っているような気がした。


 このまま放っておくのもやだし、わざわざ家に戻って取り換えるのも面倒だ。私は面白いことを求めて散歩にしているのであって、決してこういう不愉快なことを経験したいわけじゃない。だけど私はそこで不細工な犬が最後に見せた笑顔を不意に思い出し、なぜだか少しだけ笑ってしまう。


 確かに哲学的ではないけれど、少なくとも喜劇的ではあったかもしれない。私がそう思いなおすと、心なしか少しだけ楽しい気持ちになってくるから不思議だ。


 散歩を続けよう。もしかしたらまた、変なものをくれる怪しい人に出会えるかもしれない。


 とりあえずはすぐそこの河原に行って、この汚れたハンカチを洗ってみようかな。

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