テツガクテキ・マ・テキテキ 15
原田さんをシンディーさんのもとへ返し終えた後、私はまっすぐに自分の家へと帰った。
しかし、家にあがった瞬間、私は家の中の雰囲気が先ほどとは違っているように感じた。不審に思いながらリビングに行くと、そこに田辺さんの姿がない。もちろん他の部屋にいる気配もなかった。
パンツ一丁のままどこへ行ったんだろうと思いながらリビングの椅子に座った時、ふと机の上に置き手紙のようなものが置かれていることに気が付く。それは田辺さんが残していったもので、そこには簡潔に「私も原田さんと同じように、私を必要としている人のもとへ行ってきます。今まで大変お世話になりました」とだけ書かれていた。
そうか、田辺さんも出ていってしまったんだ。
私がそう理解すると同時に、なぜか少しだけ胸の奥がきゅーっと締め付けられるような感じがした。私は置き手紙を握り締めながら、誰もいないリビングを見渡してみる。
今朝までは窮屈に感じていたはずの部屋はどこか広く感じられ、寂しげな雰囲気を醸し出していた。たった二、三日でも、そしてあんなに薄汚い身なりだったとしても、知らず知らずのうちに愛着とやらを感じてしまっていたのかもしれない。
私はぼんやりと窓の外の風景を眺めながら田辺さんや原田さんがいた時の様子を思い出し、感傷的な気持ちに浸った。それから、握っていた置き手紙で鼻をかみ、それを丸めてゴミ箱に放り投げる。
私はすくっと立ちあがり、リビングからベランダに出た。
手すりに身を寄せながらふと上を見上げると、そこには透き通るような青空がどこまでも広がっていて、山の向こうにはソフトクリームのような入道雲がふわふわと気だるげに漂っていた。
私は心なしか軽くなった肩を回し、腕を空に向かってぐーっと伸ばす。よくわからないけれど、哲学的とはこういうことを言うのかもしれない。私は空から目を離し、日差しに照らされ、白く照りかえった建物群を見渡す。耳を澄ませば、肌を突き刺すようなセミの鳴き声に混じり、原田さんとシンディーさんの声がかすかに聞こえてくるような気がした。




