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喜劇的☆マ☆テキテキ  作者: 村崎羯諦
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テツガクテキ・マ・テキテキ 14

 私はマンションに戻る道すがら、自分なりに一生懸命おじさんたちのことについて考えた。


 奥さんの確認が取れた以上、原田さんと××さんは同一人物なのだろう。だけど、じゃあ行方不明になっていた××さんが何かの偶然で私のベランダに現れたのかというとそれも違う気がする。苗のつぼみが花開いたことと原田さんが現れたことには私の理解を超えた因果関係があるのだろう。そして、それについて納得できる答えを導き出すことはできない。


 やはり、苗木からおじさんが生まれるという現象は、決して論理的に説明できるものではないのだろう。そうであれば、語りえぬものについては沈黙しなければならないし、今の私がすることはきっと、無駄な思索を続けることではない。そう結論付けた瞬間、私の心は少しだけ軽くなったような気がした。






 家に帰った私はすぐに、原田さんと、そして田辺さんにも今さっき私が調べてきたことを話した。二人は私の話を驚きの表情で聞きながら、少しだけ戸惑いの表情を見せる。


 話を終えた私は原田さんの顔を真剣に見つめ、原田さんはどうしたいと思っているのかを尋ねた。


 原田さんは私と田辺さんを交互に見つめた後、かすれるような声で自分はどうしたらいいのかと逆に尋ね返してきた。やはり原田さんが本来いるべき場所、そして原田さんを必要としている人のもとにいた方がいいと前置きしたうえで、だけどやっぱり原田さんがどうしたいと思っているのかが一番大事なのだと私なりの意見を言った。田辺さんも私の言葉に同調し、その通りに違いないと腕組みしながらうなづく。


 原田さんはおもむろに目をつぶり、眉をひそめた。そして少しだけ沈黙が流れた後、ふいに原田さんは目を開け、妻のもとへ行きたいと簡潔に、しかし、力強い口調で答えた。


 私と田辺さんは原田さんの肩に手を置き、二人で原田さんの決断に敬意を表す。原田さんは感極まったのか少しだけ涙ぐみながら、私と田辺さんに対し、何度も何度もお礼を言い続けた。



 善は急げ。鉄は熱いうちに打て。タイムイズマネー。私と原田さんはそのことわざ通り、すぐさま先ほどの住所へと向かうことにした。


 家を出、道を知る私の後ろを、パンツ一丁の原田さんが何も言わずついて来る。途中、原田さんが自転車で巡回中の警官に甲高いハスキーな声で呼び止められ、現行犯逮捕の危険にさらされたものの、私が自転車ごと警官を押し倒すことで何とか振り切り、無事にアパートへと到着した。ちなみに、私の六法に公務執行妨害罪という罪はない。


 私がエントランスに入ろうとしたとき、ふと原田さんがアパートを見上げたまま立ち尽くしていることに気が付く。私が一体どうしたのかと聞くと、原田さんはかすれるような声で、自分はこの場所を知っていると言った。原田さんの顔は興奮で紅潮しており、その大きく見開いた目の奥には底知れぬ生気と希望が宿っていた。


 私と原田さんは互いに見つめあい、そして力強くうなづきあった。その興奮のままエレベーターに乗り、目的地である部屋の前に立つ。


 その時の原田さんは興奮の絶頂におり、感情が高ぶりで今にも泣きだしてしまいそうな様子だった。原田さんは震える指でインターホンを鳴らし、それと同時に部屋の中から足音が聞こえてくる。そして、玄関の扉が開かれ、先ほどの奥さんが姿を現した。


「シンディ―!!」


 原田さんが大声でその名を呼んだ。シンディーと呼ばれた彼女は原田さんを見るなり、驚きの表情を浮かべる。原田さんもわなわなと体を震わせながら、シンディーへとゆっくり歩み寄っていく。そして両者の距離が縮まり、原田さんは彼女を抱きしめようとする。


 感動の再開。


 しかし、そう思われたその瞬間、シンディーは右手を大きく振りかぶり、力いっぱい原田さんの左ほおをはたいた。気持ちの良い音とともに、原田さんの頭は勢いよく右方向へグリンと回る。そしてぶたれた頬をさすりながら、原田さんは初めてベランダで出会った時と全く同じ表情でシンディーを見つめ返す。


「このヘンタイ浮気野郎!!」


 シンディーは顔を真っ赤にさせながら日本語でそう叫んだ。それでも彼女の腹の虫は収まらなかったようで、続けざまに「よりによって男なんかと」とか「なんでパンツ一丁なんだ」とか言った罵詈雑言を日本語と英語をごちゃまぜにしながら原田さんに浴びせかけた。


 最初は原田さんも困惑するだけで何も彼女に言い返せなかったのだが、とうとう理不尽な言動に耐えかねたのか、同じように顔を真っ赤にさせながら悪口で応酬し始めた。二人は私がそこにいることも忘れ、お互いに罵りあう。


 私はなんでシンディーさんが原田さんに怒っているのかわからなかったが、きっと彼女なりの愛情表現なのだろうと得心する。


 ドラマみたいな感動の再開とまではいかないものの、このような再開もある意味ほほえましいものだ。私はしばらくそばで二人を観察していたが、当分口論が終わる気配もなかっったのため、私は退散させていただくことにした。


 せっかくの再開に水を差すのも気が引けたし、何より、パパのトランクスを返して欲しいと言い出せる雰囲気ではなかったからだ。


 私はささやくような声でお幸せに、と二人に声をかけてから、アパートを出て、一人帰路に着いた。

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