表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喜劇的☆マ☆テキテキ  作者: 村崎羯諦
13/56

テツガクテキ・マ・テキテキ 13

 住所は私が住むマンションから歩いて十分ほどの場所にあった。


 それは比較的新しいアパートの三階で、エントランスの郵便受けにはきちんと今から尋ねる人物の苗字が書かれてあった。エントランスにはセキュリティ用のオートロックはなく、部外者の私でも難なく中へ入っていくことができる。私はエレベーターに乗り、そのまますんなり目的の部屋の前にたどり着くことができた。


 玲奈ちゃんの話では、その人は中規模商社で働くサラリーマンで、見たことはないが、結婚したばかりの奥さんがいるらしい。つまりその写真の人物が仕事ででかけていたとしても、代わりに奥さんが中にいてくれる可能性が高い。


 私は意を決して、玄関前のインターホンを鳴らす。部屋の中から甲高いチャイム音が聞こえてくる。私はそのままの状態で待っていたが、なかなか扉は開かなかった。もしかして不在なのかもしれない。そんな考えが頭によぎったその瞬間、扉の向こう側からどたどたと足音が聞こえてきた。そして、ガチャリと開錠の音が鳴り、そのままゆっくりと扉が開かれる。


 中から出てきたのは、褐色の肌をした若い女性だった。年は私より少し高いくらいで、身体にぴったり張り付いた洋服からそのスタイルの良さがわかる。輪郭が少しだけ縦に長いのだが、目鼻立ちがくっきりとしており、何よりその目はぱっちりと二重で大きく、全体としてはとてもセクシーで器量が大変良い。日本人ではなく、東南アジア系の女性なのだろう。そして私のその予想は彼女が発した片言の日本語で裏付けされた。


 私がここは××さんのお宅かと尋ねると、女性は少しだけ翻訳に手間取っていたが、私の質問を理解し、その通りでございますと答えてくれた。私がさりげなく左手を確認してみると、その薬指には銀色の結婚指輪がはめられているのがわかった。


 この方が写真に映っていいた人の奥さんで間違いないのだろう。写真からうかがえる真面目で誠実そうな印象とは裏腹に、こんな若くてきれいな外国人女性を射止めていたらしい。


 私は早速、××さんはご在宅かと尋ねてみる。


 しかし、なかなか日本語を理解してくれず、しまいには理解できないことの歯がゆさからか女性は少しだけ泣きそうな目で私を見つめる来るありさまだった。しかし、私が投げやりな気持ちになりながら英語の会話に切り替えた瞬間、女性はパァっと表情を明るくさせ、今までの仕草が嘘だと思えるくらいに勢いよく英語をまくしたて始めた。しかし、彼女の英語は英語ではあるもののとてつもなくなまりが強く、今度は私が何度も聞き返す羽目になってしまう。


 それでも何とか、情報を整理した結果、ある事実が判明する。なんでも彼女が言うには、その××さんとやらは一昨日から家に帰ってきていないらしい。


 私が急いでそのことについて詳しく尋ねると、一昨日の朝、いつものように××さんは仕事に出かけ、それからずっと帰ってきて来ないというのだ。同僚との食事で朝帰りになってしまうことも何回かあり、今回もその類だろうと思っていたのだが、何の連絡もないままずっと帰ってこない。これはおかしいと思って会社に電話しても、一昨日は普通に出勤し、いつも通り定時に退社したという返事が返ってきた。その際、誰かと飲みに行くという話もなかったそうだ。彼女は会社側と話し合い、今日中に帰ってこなかった場合は警察に捜索願を出す予定だったらしい。


 彼女は夫が帰ってこないことでずいぶんと心細い思いをしていたのだろう。××さんの失踪を話し終えた後でもなお、いかに夫が素晴らしい人だったのかということや、夜の営みはどれだけ激しかったのかということまで間断なく喋り続け、しまいには私が母国にいる姪にそっくりだと言って抱き付いてきた。


 しかし、彼女の話を聞いている間、私の頭は混乱しっぱなしだった。私は彼女の豊潤なお尻をさりげなく触りながら、必死に頭の中を整理しようと試みる。××さんは一昨日にいなくなり、そしてその翌日に原田さんが私の家のベランダに現れた。


 では、その××さんと原田さんは同一人物なのだろうか。原田さんは決して苗から生まれた人間なのではなく、人間同士の交尾によって生まれた正当な人間なのだろうか。


 私は彼女から身体を離し、自分のスマホを取り出した。そして、原田さんが映っている写真を画面に表示し、それが××さんであるかどうか奥さんに確認してもらうことにした。彼女はスマホの画面を見た瞬間、驚きのあまり腰を抜かし、その場へへなへなと座り込んでしまう。そして彼女は金魚のように口をパクパクさせ、目を大きく見開いた状態で私の顔をじっと見つめてくる。


 私が右の人物は××さんで間違いないかと尋ねると、彼女はゆっくりと震えながらうなづいた。奥さんから見て同じならば、信憑性は高い。昨日の夜、客間で撮った写真がこんなところで役に立つなんて誰が予想できただろうか。私はスマホを握り締めている奥さんに、写真をデータとして送ろうかと問いかけたが、奥さんは大げさに首を横に振って結構だと断った。


 私はスマホを返してもらい、一旦家に帰ろうと、憔悴しきっている奥さんに別れを告げた。奥さんは力なく別れの挨拶をした後で、××が出ていったのは私に身体的な魅力がなかったからだろうかと私に尋ねてくる。


 私はなぜそのようなことを聞いてきたのかと不思議に思いつつも、あなたはとっても魅力的な女性だとありのままの感想を述べた。しかし、そこで私は彼女が自分の容姿と身体に自信を持っていないのかもしれないと思い至った。だからすぐさま、身体の魅力も大事だけども、より大事なことはやはり個々の趣向であるし、相性なのだと哲学的にフォローしておく。


 我ながら気の利いたセリフだと悦に浸りながら、彼女に手を振り、その家をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ