唐突に異世界にいく話
冷蔵庫を開けたら真っ黒い布を身にまとった人が出てきて、僕の喉をざっくりと切ってくれてつまりあっさり殺された。
これ、死因は何になるんだろう。
殺人事件だったとしたら、犯人は捕まらないで……とにもかくにも葬式とか大変そうだなぁ。
自殺願望とか全くなかったのに、これまで生きてきた分にかかったお金とか、周りの人はきっついだろうなー。
やたらと落ち着いているのは痛みとか怖いこととかがすぐになくなって、思考だけが継続したまま、気づけばどこかのファンタジーっぽいけどやたら質素な家の中にいたからだ。
鏡で確認してみると服装以外は自分のもので、その服装というのはどっかのRPGをそのまま模したような奴。
今の僕は剣を扱うタイプの人間らしく、初期装備は最低限のものは揃っている。だから死にはしないし失敗しても死ぬだけだ。
とりあえずレベルの概念があるとしたらレベル上げをする必要を感じたので、ちょっと難易度高めのクエストをやって適当に苦戦しつつ膨大な経験値を貰いに行こうじゃないか。
この異世界は武器を持ってうろついていたり卑猥な装備をしていても女性でない限りは卑猥な視線の対象にはならないからゆるいっちゃゆるい。
それから、消耗品の調達なんかも必要なので民家に忍び込み壺を割り、クローゼットの扉を開け、時折井戸に降りて小銭と薬草をてにいれよう。
はてさて……ほうりつとは?
目の前にある壺を割り、あっさりとたくさん入っている薬草らしきものを手に入れた。
これ、飲むの?すりこむの?
ん?どっちだこれ。
しかし、壺を割った音に気がつかれたのかばたばたと部屋の外から足音が聞こえてきた。
ゾンビの出てくる奴とか追いかけっこしながら探索するゲームだと…… まぁつまり逃げちゃおう。
平屋建てらしいので窓から脱出。
あくまで通行人のふりをする。
誰か来たところで多分同じことしか話さなさそうだからまだあの部屋を調べられたとは思ったけど、下手に怪しまれても困る。
いや、剣を持った人が部屋にいたら……持ってることが普通な世界かもしれないにせよ、不審者には変わりないだろう。
気を取り直して舗装はされてない道を歩き回ってみると、民家は少なく畑は多く鶏みたいな鳥が放し飼いで、通行人もそれほどではないからどこかの村だろう。町ならもうちょいなんかあるような。
「あ」
偶然視界に入ったのは頭の先から足の先まで真っ黒い布の人の姿で、ファンタジー的にいえばローブという奴だろう。
殺された直後だから覚えていたし、見間違いな訳じゃないだろうと思う。
「夏場の熱中症とかでやばいことになるか、蜂とかの黒いのに寄ってくる危ない虫になるべく刺されたらあうとなところ刺されたりすればいいのに。それで、刺されるの二度目で大変なことになれば」
虫の場合はなるべくえげついタイプの毒とかだとなおいいと思うんだよね。
たっていて、こちらを見ているのはわかるけれど表情まではうかがえない。
背を向けて違うところにいくことも出来るけど、と思ったら黒い布の人はこちらに近づいてきた。
「さっきはごめんなさい。間違えたの」
そして少女らしい声でそう謝って、ぺこりと頭を下げるとフードを下ろす。
あー。多分少女かなぁ。
最近は紛らわしい見た目の人とか多いから。
「殺したならとりあえず……起きたことはもうしかたないけど、家族が不信に思わない死に方に細工してきてくれない?喉切られてとかは駄目だよ」
せめて外傷のない心臓発作のような感じにしてくれないかと。
「いえ、そうではなく……元いたところにもどします。ごめんなさい」
「この薬草あげるから……次は気をつけてね」
あっさりと僕の現実世界に戻ることになった。よかった。
壺を割った以外にはRPGらしきことを全くしていないが、まぁ、こんな話もあると言うことで。
「これ、薬草じゃなくて大麻です」
「えっ」
「売れば、お金になるので貰いますね……では」
気付けば僕はさっきまでいた台所に戻ってきていて、服装も死ぬ直前のままだった。
なにがともあれ、めでたしめでたし……と言う奴だろう。うん。
おわり