神殿の主
ようやく着いた目的地は、神聖なものというよりも日常感あふれる家のようであり、建物の大きさもそれほど大したことはなかった。その家とおぼしき建物に入ると屋根と天井以外は何もない空間だった。それといかにも爺さんが爺さんしてる神殿の主とおぼしき者を除けば…。
「オッホホ、よく来たお前たちよ。来る方法はちぃーっとばかし、予想外だったがのう…。では、そこにかけたまえ。」
すると、俺の後ろの何もなかった空間に椅子が現れている。モナークの後ろも同様だ。ただ…
「名もわからぬ、この神殿の主よ。何故、梓の所だけがソファーなんです?」
「ん?理由はないぞ。ただの善意でのぅ…。何、おぬし。その椅子では不満だと言うのかね?」
「いえ、そのようなことは…、なぁモナークお前もそうだろ?」
「はい、主殿。」
そう答えたモナークの額には青筋が立っている上に、引きつった笑顔なのだが…。こいつは相変わらずメガネを掛けているにも関わらずクールさに欠けているな。少しは誰かを見習って欲しいよ。ここにいる面子ではない知らない誰かさんを…。
「オッホホ、別によいよい、ただの冗談だ。」
すると、今度は俺とモナークが座っていた物が椅子から梓と同じソファーに代わっていた。
「では、本題に入るとするかのう。おぬしたちはどのような要件でここに来たのであるか?」
「それは私がお答えしましょう。私たちは考古学研究をやっている者なのですが、他の者からの忠告を無視し、ここに入ってしまいました。まさかこのような事態になるとは…。」
梓よ、よくそう平然と嘘をつけるものだな。俺たちは追手から逃れるために入ってきたのに…。梓は何がしたいんだ?
「では、おぬしたちの望みはなにか?」
「今私が一番望むことは、それは私たちをここから出してもらうことです。」
「そうかそうか、ならばここから出るがよい。」
「「「お世話になりました、それでは失礼します!!!」」」
「ここから帰れるのであればな。儂はもうちっとおぬしたちと話したいのう。」
俺たち全員の体はソファーから離れられずにいた。指先や口を動かすことぐらいはできるが、ソファーから立ち上がることができないでいる。
「おぬしたちに一つ助言をしよう。スキルというものは使いこなせなければ宝の持ち腐れじゃわい。まったくそんなことに気づきもせんとは呆れたわい。」
そうかそうかスキルか。
「んじゃ遠慮なくいかせて頂きます。」
……ジュン…
俺は消滅のスキルを使ってソファーを消滅させた。この神殿の主が驚いたような顔をしているがそこは気にしないでおこう。おっと、梓とモナークも自力でソファーから離れることができたようだ。
「聞くがいい神殿の主よ。我が名は竜導寺 彰。いずれ世界を征服するものだ。どうかお前の力を我輩に貸して欲しい。」
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