妹⑤
月の光の様に綺麗な髪。真珠の様に滑らかで、白い肌。絵に描かれた様に造形の整った顔。
少女は神々しいまでに美しい。
そんな少女が、必死に安木に抱きついて来ている。
普通の男ならまさに天国にいる様な気分だろう。
あくまで、普通の男ならば、だ。
異性を愛するという感情が無くなっている安木からすればーー
ーーまさに、地獄にいる様なもの……。
少女が男の様に見える。
男から必死に抱きつかれている様なもの。
(早く離れたい)
安木は少女の腕の中で必死にもがく。
「ーーぐうううぅぅ……」
安木は少女の肩を手で押すが、離れられない。
少女は力が強過ぎる。家のドアの前でも思ったが、少女のか細い腕のどこにそんなに力があるのだろう。
(どうすればいい。このままいくと、大事な何かを失ってしまいそうな気がする……、)
異性を愛する感情を失っている安木が、そう思った。
「ーーくっ……」
少女に頭から顎までゆっくりと手で撫でられ、呻き声を上げる安木。
トラウマになってしまいそうだ。
もしかしたら、昔、戦国武将に仕えた小姓の気分を味わっているのかも知れ無い。
お殿様に何も言えず、言われるがままに……。
安木はそんな風になりたくない。
なんとかして、この状況を打開しなければいけない。
「俺から、早く離れろ!」
「ーーうっ……」
少女はびくん、と安木の言葉に反応があり一瞬体を震わせる。
子猫が不意の出来事に驚くかの様に。
子猫として見れば可愛い。
(俺から離れてくれるのか?)
少女の反応に安木は期待するがーー
少女の力は緩まない。
ただ、さっきの言葉に確実に反応した。
べたべたして来る前には自分の意に沿わないと安木の声に何にもしなかったのにも関わらず。
(よし、もう一度言ってみよう)
もしかしたら、今の少女であれば、反応するかもしれない。
「早く離れろ!」
再度、言う安木。
さっきと同じ様に、少女は、びくん、と体を震わせる。
今度は、頬ずりしていた顔が離れる。
確実に手ごたえがあり、
(やったか⁉︎)
と、安木は期待していると、
「……いー、やー、じゃぁー」
と、子猫の様な目を潤ませて上目遣いで、甘えた様な声を出す少女。
ジュースを持って来る前と後で、全然違う。違い過ぎる。
安木がジュースの準備をしている間に、クッキーの缶か何かで少女は頭でも打ったのだろうか? もしくは、朝、ベットから落ちて強く頭を打ったのかもしれない。