妹②
「良かったのか?」
安木の前を歩き、金色の美しい髪を揺らしながら言う少女。
気遣っている文面なはずなのに、いつも通りどこか声に冷たさを感じる。
「何がだよ?」
「あの娘を置いてきてしまって」
「はぁ? お前が急に来たのが悪いんだろ⁉︎」
不満を言う安木。
そもそも、そんな事を言うくらいなら、タイミングを見計らってきて欲しい。
安木の前を歩き続ける少女は、悪びれる様子もなく、
「お主が命をかけてまで生き返らせたかった娘を、生きている姿で見たくてのぉー。なかなか可愛いじゃないか」
と、川上の事を娘と言う少女。
少女の方が身長が低く、幼く見えるのに年上の様な表現をする。
「だからって、いきなり出てくる事はなかっただろ!」
「『娘に会わせろ』と言ったところで、お主はきっとずっと会わせず、ダラダラと引き伸ばし作戦を取るだろうと思ってな」
「そんな事はしねぇー」
「その言葉を信じよう。今度、行動で示してくれ、」
「今度?」
「今度じゃ、詳しい事は目的地に着いてから話をする」
「いや、ここで、話せ!」
「お断りじゃ、わらわの下僕になったのだから、お主はわらわの言う事をちゃんと従え、」
「ーーっ……」
反論をしようと思ったが、やめる安木。
少女の下僕になるという条件で、川上を生き返らせる、という普通ではできない事をしてもらている。
少女に感謝している。ここで、不満を言い続けるのは、良くないだろう。
ただ、少女からは、冷たい印象以外何も伝わってこない。何を考えているかわからない。少女はいったい安木に何をさせたいのだろうーー
と、考えていると沈黙の時間になる。
安木は、気まずさを感じーー
「ーーで、さっき言っていた妹って何だよ? 俺には妹なんていないはずだ」
と、質問する。
少女は相変わらず、安木の方を見ず、
「はあ?」
と、質問している安木が間違っているかの様に、少女は応じる。
「『はあ?』じゃなくて、血の繋がりなんかないだろ!」
いつもより声を大きくして言う安木。
少女に何を質問しても具体的な回答が返ってこない。
安木は苛立ちを感じているとーー
ずっと前を向いていた少女は肩が左に動き出す。
安木の声に反応したのだろうかーー
「目的地は、ここじゃ」
と、言う少女の声と共に、肩の動きが止まる。
安木の方には一瞥もしない。
安木は少女が見ている方を見た後、少女に対して、
「ーーはあ?」
と、疑問で返す安木。
少女は悪びれもせず、
「目的地は、ここじゃ」
と、再度、言う。
安木は呆れた様に、
「その言葉は聞こえている」
と、言うと少女は、
「お主に聞こえていないと思ってのぉー」
「いや、当たり前の様に『目的地は、ここじゃ』と言っているが、ここは俺の家じゃねーか⁉︎」
勢い良く少女に言う安木。
ここまで来るのに、ずっと気になっていた。
自分の家の方に向かっていると。
目的地は自分の家の近くなのだろうか、と少し疑問に思う程度で安木は気にはしていなかった。普通に考えて、お互いの素性を知らないのにもかかわらず、いきなり異性の家に行こうとする奴はいないだろう。まさか自分の家を少女が目的地にしているとは想像できなかった。
この少女はいったい何を考えているのだろうか。