指名手配⑤
安木と藤原が、メイド服を着た少女に案内されたのは、人気のない裏道から入る地下室だった。
「危ないところでしたね。傷とかできてませんか? 大丈夫ですか?」
優しげな声で言うメイド服を着た少女。
さっきまで正体不明の敵から襲わられていた安木と藤原を安心させようとしているのだろう。
「ありがとう。助かった。
それで、ここはどういうところなんだ?」
警戒している声で質問する藤原。
メイド服を着た少女の所に逃げると決めたものの、完全に信用している訳ではないのだろう。
そりゃ、そうだ。この国では、安木も藤原も犯罪者となっている。誰が安心できる相手だかわからない。メイド服を着た少女がどうして助けようとしてくれるのか、納得できる説明を聞かなければ落ち着けない。
「ここはですね。反国王グループの拠点の一つになります。
だから、お姫様を助けるのに手伝ってくれるお二人であれば、ここで安心していただいて大丈夫ですよ」
「『お姫様を助けるのに手伝ってくれるお二人であれば』か?」
メイド服を着た少女に疑問を言う藤原。
「そうです。もし、お姫様を助けるのを手伝ってくれないのであれば、直ちに拘束させていただきます」
メイド服を着た少女は、優しげな口調で言っているにも関わらず、無言の圧力を感じる。
現状況は、安木と藤原、メイド服を着た少女しかこの場にいないはず。
メイド服を着た少女だけでは、安木と藤原の二人を拘束できないだろう。
(メイド服を着た少女は、俺と藤原を拘束すると自信ありげに言ったのだろうか?)
と、不思議に安木は思いあたりの気配を探るとーー
十人位潜んでいる気配を感じる。臨戦態勢に入っているのか殺気もある。
「お、おい、」
安木の肩に肩をぶつけて呼びかけてくる藤原。
「どうした?」
藤原の声に合わせて、小声で返答する安木。
「どうする?」
メイド服を着た少女の仲間になるかどうか、訊いてくる藤原。
(さて、どうしたものか)
考える安木。
仲間になればこの場は何事もなく終わるのだろう。
だから、仲間になると言わなかった場合を想定してみようーー
メイド服を着た少女に『お姫様を助ける手伝いをしない』と言うと、安木と藤原を拘束しようと周りに潜んでいる奴らが襲ってくる。
そうなると、安木と藤原は拘束しようとしてきた奴らがどんな力があるかわからないので、①うまく倒せた場合と、②うまく倒せなかった場合の二パターンが考えられる。
まず、①の場合。
ここで拘束されてしまいずっと拘束されたままになってしまうのだろう。
それは、VRMMOの世界で何もできなくなってしまう状況。VRMMOの授業の成績は、最悪なものになってしまう。進級できなくなってしまったり、最悪の場合卒業できなくなってしまうかもしれない。
ーー結論、①の場合では、ダメだ。
では、②の場合。
周りに潜んでいる奴らを倒し、地下室から出た後、中間テスト免除の恩賞を求めて安木や藤原を捕まえようとしている奴らがたくさん出てくる。逃げても、逃げても、複数の人から追われ、いずれは捕まってしまうだろう。
そして、現国王に引き渡され、拘束されてしまい、何もできなくなってしまう。
それでは、①と同じで、最悪な結果になってしまう。
ーー結論、②の場合でも、ダメだ。
(そうなると、残ってる選択肢は、メイド服を着た少女の仲間になるしかない)
安木はそう思い、
「わかった。仲間になるよ!」
と、言ったのだった。