指名手配④
「なあ、安木。聞こえたか?」
「ああ、聞こえた」
藤原の質問に対して、返事をする安木。
「あの声って……、あの女の声だよな?」
「うん、」
『逃げるならこちらです』と聞こえて来た声について確かめ合う安木と藤原。
聞いた事のある声。前回、授業中にVRMMOをやった時に出会った長く茶色髪が特徴的なメイド服を来た少女のものだった。
安木、藤原、熊野は《白紙の本》に現れたクエストをクリアした後にメイド服を来た少女はが現れ、『城に国王として住んでいる悪魔を倒して欲しい』と言ったのだった。
なので、安木、藤原、熊野はメイド服を着た少女の話をよく聞こうとしたのだが、授業が終わってしまう時間に近づいて来てしまったので話をちゃんと聞くことができなかったのだ。メイド服の少女の名前すらまだ知らない。
「どうする?」
「えっ、呼んでくれてる方に行っていいんじゃないの?
さっき、逃げようって事で意見が一致したじゃん」
「ただなぁ、」
藤原は言葉を切った後、
「あの女を信じていいものか?」
と、疑念がある様に言う。
「どうしてそんな事を急に言い出す?」
「俺たちにとってこんないいタイミングで助けに来るなんて、なんだか怪しくないか?」
「心配し過ぎだよ。今はあのメイドから依頼を受けているんだから、仲間みたいなもんだよ」
メイド服を着た少女が依頼してきた事は、悪魔の暗殺になる。だが、その悪魔はこの国で国王として君臨していて、国民は国王が悪魔にすり替わっていると知らない。なので、メイド服を着た少女は、国王暗殺を企てた罪によって処罰されても仕方がない内容を言ってきたのだ。そんな自分の身を危険におちらせる様な事を言ってきたんだから、メイド服を着た少女を信じてもいいんじゃないか、と安木は思ったのだった。
「わかった。じゃあ、あの女のトコに行くか。
それじゃあ、俺が逃げ切るまで、安木が時間を稼いでくれ!」
「あっ、何で、先に逃げようとするんだよ」
メイド服を着た少女のとこへ先に行こうとする藤原の肩を掴む安木。
「別にいいだろ⁉︎ 安木は戦士のジョブに全振りしてるから、魔法使いの俺よりも足が速いんだし」
「ジョブの事を言ったら、藤原が魔法を使えば逃げ足は早いじゃん」
「ま、まあ、そうかもしれんが……」
「って、もう、矢とかを防ぐのに疲れたから、二人で一緒に逃げれば良くない?」
「まあ、そうだな、」
「じゃあ、目くらましをするのに、今いるボロ小屋を壊して、煙でも作る?」
「そうしてくれっ」
「そしたら、次に矢が小屋の中に入ってきた瞬間に一気に壊すから」
「わかった」
と、安木と藤原が話をしていると、矢が小屋の中に入ってきて『ストン』と壁に当たる。
「じゃあ、」
安木がそう言うと同時に剣を一閃させ、小屋を壊す。
そうして、小屋が粉々になり、埃が舞う中、安木と藤原は、逃げたのだった。